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オフィスが「オープン」と「個室」では従業員の脳の使い方が異なる

  • 2026.2.26
オフィスのスタイルが「オープン」か「個室」かで、脳の使い方が異なる / Credit:Canva

どんな環境で仕事するかは、仕事の効率に大きな影響を及ぼします。

このことを「感覚」ではなく「脳活動」で調べた研究があります。

スペインのバレンシア工科大学(Universitat Politècnica de València)の研究チームは、オープンプラン型のオフィスと個室型のワークポッドで同じ作業を行ったとき、脳の使われ方がどのように変化するのかを脳波(EEG)で測定しました。

その結果、同じ業務内容であっても、空間の違いによって脳の負担のかかり方に明確な違いが出ることが示されました。

この研究は2025年12月30日付の『Buildings』に掲載されています。

目次

  • オフィスでの作業、「オープン型」と「個室型」では脳活動に違いが生じる
  • 脳は周囲の音を「無視する」だけでも疲れる

オフィスでの作業、「オープン型」と「個室型」では脳活動に違いが生じる

多くの企業では壁や仕切りをできるだけ取り払った「オープンプラン型」のオフィスが採用されています。

これは、1つの広いフロアに複数のデスクを並べ、社員同士の視界を遮らないレイアウトのことを指します。

日本でも、大きな部屋にデスクが並び、周囲で人が電話をしたり会話をしたりしているような職場がよく見られます。

パーティションは低く、音や視線が比較的自由に行き交う環境です。

一方、今回比較されたもう1つの空間は「ワークポッド」と呼ばれる個室型の作業空間です。

完全な会議室ほど広くはありませんが、1人用の小型ブースのような構造で、壁やパネルで囲われています。

外部の音や視覚刺激がかなり減り、内部には机と椅子、照明や換気設備が整えられています。

電話ボックス型の集中ブースや、防音仕様の1人用個室を想像すると近いでしょう。

では、このようなオフィス設計の違いが、私たちの仕事にどれほどの影響を及ぼしているのでしょうか。

研究では、就業者26人に無線式の脳波計を装着してもらい、この2種類の空間の両方で約15分ずつ作業してもらいました。

順番の影響を減らすため、半数はワークポッドから、半数はオープンプラン型から始める設計になっています。

行った作業は、実際のオフィス業務に近い内容です。

特定の音だけを検出する聴覚注意課題、文章を読み記述する読解・記述課題、単語を覚えて書き出す記憶課題など、集中力やワーキングメモリーを必要とする典型的な知的作業です。

重要なのは、研究の目的が単に「どちらの空間で成績が良かったか」を比べることではなかった点です。

研究者たちは、作業の開始直後と終了直前の脳波を比較し、「作業を続けるうちに脳の活動がどう変化するか」を見ました。

つまり、同じ仕事を維持するための脳のコストが時間とともに増えるのか、減るのかを調べたのです。

その結果、ワークポッドでは時間の経過とともに前頭部のベータ波やアルファ波が低下しました。

これは、脳が環境に適応し、同じ作業をより少ない神経活動で維持できるようになった可能性を示しています。

一方、オープンプラン型の空間では逆の変化が観察されました。

ガンマ波やシータ波が増加し、覚醒度やエンゲージメントを示す指標も上昇していました。

つまり、同じ作業を続けるために、脳はより多くの資源を動員し続けていたのです。

では、なぜこのような違いが生まれたのでしょうか。次項で解説します。

脳は周囲の音を「無視する」だけでも疲れる

今回測定された脳波には、それぞれ異なる意味があります。

ガンマ波は高度な情報処理や複雑な統合と関連し、 ベータ波は能動的な思考や外向きの注意と結びつきます。

アルファ波はリラックスや受動的注意と関係し、 シータ波はワーキングメモリーや持続的努力、さらに疲労の蓄積とも関連すると考えられています。

オープンプラン環境では、ガンマ波とシータ波が時間とともに増加しました。

さらに、覚醒度(ベータ波とアルファ波の比)やエンゲージメント指標も上昇しています。

これは、単に作業をしているだけでなく、周囲の会話や足音、視界に入る人の動きといった刺激を処理し、それらを抑制するために追加の神経資源が必要になっている可能性を示唆します。

たとえるなら、静かな図書館で本を読むのと、隣で複数人が雑談している中で本を読むのとでは、同じ読書でも脳内の負担は違います。

雑音を「無視している」つもりでも、脳は常にその情報を処理し、取捨選択しています。

その抑制作業にはエネルギーが必要です。

一方、ワークポッドではベータ波やアルファ波が低下し、前頭部の活動が安定していきました。

外部刺激が少ないため、脳は課題そのものに集中でき、時間とともに効率的な状態へ移行したと考えられます。

研究者たちは、同じ作業をこなすのに必要な脳のエネルギーが少なくて済む、より効率の良い状態だと解釈しています。

ただし、この研究には限界もあります。参加者は26人と比較的小規模です。

また、この研究だけから「どちらの環境が長期的に健康や業績にどれくらい効くか」を数字で言い切ることはできません。

さらに、実験時間は短く、実際の長時間労働を完全に再現しているわけでもありません。

それでも、この研究は重要な示唆を与えます。

空間設計は単なるレイアウトの問題ではなく、脳の負荷設計でもあるということです。

オープンプランが常に悪いわけではありませんが、「集中を要する作業には刺激をある程度遮断できる空間の選択肢があった方がよさそうだ」ということが脳活動のデータから示唆されました。

今後は、より長時間の実験や異なる職種での検証、さらには個人差の分析が進むことで、「どんな人にどんな空間が合うのか」という問いにも具体的な答えが見えてくるでしょう。

働く場所は、単なる背景ではありません。

私たちは同じ仕事をしていても、周りの環境しだいで、知らないうちに脳にかかる負担を増やしたり減らしたりしているのです。

参考文献

Why your brain has to work harder in an open-plan office than private offices
https://phys.org/news/2026-02-brain-harder-office-private-offices.html

元論文

Temporal Trajectories in EEG-Based Mental Workload: Effects of Workspace Type
https://doi.org/10.3390/buildings16010176

ライター

矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。

編集者

ナゾロジー 編集部

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