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「黒い歯」をもつ2000年前の骸骨、その正体とは?

  • 2026.2.18
2000年前の骸骨の歯が黒い理由は? / Credit:Generated by OpenAI’s DALL·E,ナゾロジー編集部

日本の「お歯黒」のように、歯をあえて黒く染める習慣は世界の様々な場所で見られました。

では、この不思議な習慣はいつからあったのでしょうか。

オーストラリア国立大学(ANU)の研究者たちは、ベトナム北部の遺跡から出土した人骨の歯を化学分析し、約2000年前にすでに意図的な黒歯処理が行われていた直接的な証拠を突き止めました。

この研究は2026年1月22日付で、学術誌『Archaeological and Anthropological Sciences』にオンライン掲載されています。

目次

  • 2000年前の骸骨の「黒い歯」は汚れたのか、それとも染めたのか
  • 鉄とタンニンが生んだ「漆黒の笑顔」

2000年前の骸骨の「黒い歯」は汚れたのか、それとも染めたのか

ベトナムでは19世紀から20世紀初頭にかけて、歯を漆黒に染める風習が広く行われていました。

民族誌資料によれば、鉄を含む混合物とタンニンを多く含む植物を使い、おおよそ20日前後かけて歯を黒く染め上げ、最後に磨き上げることで艶のある黒色をつくっていたと記録されています。

では、こうした習慣はいつから存在するのでしょうか。

その答えを解き明かすのは簡単ではありません。

たとえ古代人の歯が黒ずんでいても、それが意図的な黒染めなのか、あるいは埋葬環境による変色なのかを区別するのは難しいからです。

特に東南アジアでは、ビンロウの実を噛む習慣が古くからあり、これも歯を赤褐色に染めます。

そのため、単に「黒っぽい歯が見つかった」だけでは、美容的な処理とは断定できませんでした。

そこで研究チームは、ベトナム北部フンイエン省のドン・サー(Dong Xa)遺跡に注目しました。

この遺跡はドンソン文化期に属し、放射性炭素年代測定により約2150~1830年前にあたることが示されています。

今回の研究では、この遺跡から出土した3体の個体の歯が分析対象となりました。

そのうち2体は約2000年前、1体は17世紀頃の埋葬と考えられています。

※画像はこちら(論文内画像)

研究者たちは、歯を傷つけない方法で表面を詳しく観察し、そこにどのような元素が含まれているのかを調べました。

見た目の色だけで判断するのではなく、「歯の表面を構成している元素のパターン」を手がかりに、意図的な処理かどうかを見極めようとしたのです。

その結果、3体すべての歯から顕著な鉄(Fe)と硫黄(S)が検出されました。

エナメル質の主成分はカルシウムやリンなどですが、それとは別に鉄と硫黄が目立って多いことから、外部から加えられた物質が関わっているとみられました。

これは、単なる経年変色や土壌中の成分だけでは説明しきれない特徴です。

では、この鉄と硫黄は何を意味するのでしょうか。

鉄とタンニンが生んだ「漆黒の笑顔」

歯から検出された鉄と硫黄は、偶然ではなく、ある種の「レシピ」の存在を示しています。

研究者たちは、民族誌資料に記された黒歯の材料と照らし合わせながら、この元素の組み合わせを検討しました。

鍵となるのは、タンニンを含む植物と鉄塩の反応です。

タンニンは多くの植物に含まれる渋み成分で、これに鉄塩が加わると、タンニン鉄と呼ばれる安定した黒色の化合物ができあがります。

これは、深い黒色と長持ちする性質が特徴的です。

つまり、今回の歯から検出された鉄と硫黄は、硫酸鉄などの鉄塩が使われていた可能性を示唆します。

特に1体の個体では鉄酸化物の濃度も高く、鉄を含むペーストによる処理が行われていた可能性が高いと考えられました。

この仮説を裏付けるために、研究チームは現代の動物の歯に同様の混合液を塗布する実験も行いました。

処理後の歯を同じ方法で分析すると、古代の歯と非常によく似た鉄と硫黄のパターンが確認されました。

この一致は、ドン・サー遺跡の個体が意図的に鉄を使って歯を染めていたことを強く支持します。

またこれらの反応と、ビンロウの実を噛んだ場合との違いも重要です。

ビンロウは歯を赤褐色から茶色っぽく染めます。

一方、今回の歯では、深い黒色とともに鉄と硫黄の明確なシグナルが検出されました。

これは、単なる食習慣による着色ではなく、鉄とタンニンを組み合わせた、化学的に洗練された処理であることを示しています。

この発見は、単に「昔の人はオシャレだった」という話にとどまりません。

ドンソン文化は、青銅鼓や武器、広い交易ネットワークで知られる社会です。

これまでその人々の姿は、青銅器に刻まれた羽飾りや刺青のような表現から想像されてきました。

しかし今回の研究は、口元というより個人的な装飾の一端を、初めて科学的に示したのです。

歯を黒く染めることは、「子どもではなく一人前の大人であること」や、「自分たちは動物とは違う、人間らしい存在であること」、さらには「自分はこの集団に属している」という意識を表すサインだった可能性があります。

そしてその伝統は、後世のベトナム社会へと受け継がれ、近代まで続いていきました。

約2000年前の黒い歯は、単なる変色ではなく、当時の人々が自ら選び取った「美しさ」と「生き方のサイン」だったと考えられます。

参考文献

The Secret Behind Vietnam’s 2,000-Year-Old Black Teeth Fashion Is Now Out
https://www.zmescience.com/science/news-science/tooth-blackening-in-ancient-vietnam/

2,000-year-old Vietnamese tooth blackening practice found in Iron Age burial
https://archaeologymag.com/2026/02/iron-age-tooth-blackening-vietnam/

元論文

A kingdom with blackened teeth 2,000 years ago: tracing the practice of tooth blackening in ancient Vietnam
https://doi.org/10.1007/s12520-025-02366-5

ライター

矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。

編集者

ナゾロジー 編集部

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