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朝ドラでは“珍しい”最期の順番の謎「異例だった」「重要人物が先に」歴代作品の流れとは“異なる構造”のまま幕を閉じた『ばけばけ』

  • 2026.4.2
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『ばけばけ』最終週(C)NHK

SNS上で「朝ドラでは異例だった」「重要人物が先に亡くなるなんて」との声が相次いだ『ばけばけ』最終週。メインキャラクターであるヘブン(トミー・バストウ)が先に命を終え、なおかつヒロイン・トキ(髙石あかり)の両親が健在のまま、物語が幕を閉じるのは朝ドラの文脈では珍しい。そのせいか、本作はどこか“人生の途中”で終わるような余韻さえ残した。この珍しい構造は、『ばけばけ』という物語の本質を浮かび上がらせる、必然の設計だったのではないだろうか。

※以下本文には放送内容が含まれます。

“両親健在”はなぜ異例なのか

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『ばけばけ』最終週(C)NHK

朝ドラというフォーマットにおいて、最終回に誰が残っているかは、作品のテーマそのものを映し出す鏡のような役割を持つ。

多くの作品では、ヒロインの人生を幼少期から老境まで描くため、最終盤には親世代がすでに鬼籍に入っていることが通例だ。親との別れは、人生の節目として物語の中盤から終盤にかけて丁寧に描かれ、その喪失を経てヒロインが“次の世代”へと歩みを進めていく。

しかし『ばけばけ』は、その流れから明確に外れている。最終回において、トキの両親である司之介(岡部たかし)とフミ(池脇千鶴)は健在であり、なおかつ重要人物であるヘブンが先に亡くなった。この構図は、一見すると“逆転”しているようにも見える。しかし、この配置こそが、本作の物語的な意図を如実に示している。

その理由の一つは、モデルとなった小泉八雲の生涯にある。彼は54歳で命を終えており、物語の終着点が“老境”ではなく、“人生の途上”に設定されている。つまり『ばけばけ』は、まだ続いていく人生のなかで、何を受け取り、何を残すのかを描く側面も持っているのだ。この時点で、従来の朝ドラとは時間軸の設計が異なっている。

重要人物が先になくなる構造

では、なぜその構造において、夫であるヘブンが先に旅立つ展開が選ばれたのか。この点を考えるうえで重要なのは、本作が単なる夫婦の物語ではなく、異文化がどのようにして根を下ろすかを描いた作品であるという視点である。

異国からやってきたヘブンは、日本という土地に居場所を見つけ、トキやその家族とともに生きることで、“居場所”を得ていく人物だった。幼少期に両親と引き裂かれ、帰る場所を持たなかった彼にとって、トキの存在は単なる伴侶以上の意味を持っていたのだろう。

そして最終的に、彼はその“家”で生を終える。異国の人間が、この土地で死に、物語として残る。それは、通過ではなく、定着を意味している。

ここで注目すべきは、その過程をトキの両親が見守っているという構図である。彼らは、日本という文化の象徴的な存在であり、その視線のもとでヘブンの人生が終わることで、異文化は“外側のもの”ではなく、“内側に取り込まれたもの”として描かれる。

つまり、“両親健在”という一見異例の設定は、文化の受容と継承を可視化するための装置として機能しているようにも見える

語り継がれる物語としての死

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さらに興味深いのは、この構造が決して強い悲劇性を帯びていない点である。現実において、配偶者が先に亡くなるという状況は、しばしば“逆縁”として深い喪失を伴う。しかし『ばけばけ』では、その別れはどこか静かで、穏やかなものとして描かれていた。

その背景にあるのが、本作のもう一つの軸である“怪談”という世界観である。

ヘブンにとって、死は終わりではない。それは、大好きだった“怪談の世界”へと移行する出来事であり、形を変えて存在し続けることを意味している。実際、最終回では蚊の姿となってトキのそばに現れるような象徴的な演出がなされており、生と死の境界は曖昧に溶け合っている。

そして、この構造において浮かび上がるのが、語り継ぐ者としてのトキの役割である。夫を失いながらも、彼女はその記憶を言葉にし、『思ひ出の記』として残していく。

重要なのは、物語がここで終わらないという点だ。両親が生きているという事実は、トキ自身もまた“支えられる存在”であり続けることを意味している。彼女は孤独な語り手ではなく、家族という基盤のうえで物語を紡ぎ続ける存在なのだ。

『ばけばけ』の最終週は、“終わり”でありながらも、どこか“続き”を感じさせる。人生を完結させる物語ではなく、語り継がれていく物語として幕を閉じた本作。その余韻こそが、この作品が朝ドラのなかでも「異例」と言われながら、多くの視聴者の心に静かに残り続ける理由なのではないだろうか。


連続テレビ小説『ばけばけ』毎週月曜〜土曜あさ8時放送
NHK ONE(新NHKプラス)同時見逃し配信中・過去回はNHKオンデマンドで配信

ライター:北村有(Kitamura Yuu)
主にドラマや映画のレビュー、役者や監督インタビュー、書評コラムなどを担当するライター。可処分時間はドラマや映画鑑賞、読書に割いている。X:@yuu_uu_