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危うい関係性が加速する“人気漫画”の実写版 思春期ならではの衝動と“絶望”を描いた【深夜ドラマ】

  • 2026.5.23

『惡の華』は、寂れた田舎町で暮らす少年少女の思春期の絶望を描いた暗黒青春ドラマだ。

※以下本文には放送内容が含まれます。

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(C)「惡の華」製作委員会 2026 (C)押見修造/講談社

中学生の春日高男(鈴木福)は、読書が趣味の内向的な少年。同級生の美少女・佐伯奈々子(井頭愛海)に片想いしていたが、自意識過剰な性格ゆえに話しかけることができなかった。
ある日、春日は教室に置かれていた佐伯の体操服を衝動的に盗んでしまい、その姿を同級生の仲村佐和(あの)に見られてしまう。 仲村に、盗んだことをバラされたくなければ、私と契約しろと脅迫された春日は、彼女のエキセントリックな行動に振り回されるようになるのだが、やがて鬱屈した内面を抱え、クラスで孤立している仲村にシンパシーを抱くようになり、彼女が求めている「向こう側」を退屈な田舎町で見つけたいと考えるようになる。

暗黒青春漫画の古典を深夜ドラマで再現

本作は押見修造の漫画『惡の華』をドラマ化したものだ。
『惡の華』は、2009年から2014年まで『別冊少年マガジン』で連載された全11巻の人気漫画で、思春期の少年少女が抱えている鬱屈した内面を繊細に描きつつ、それを大胆に解き放っていく様が暗黒青春漫画の傑作として高く評価された。
思春期の痛みを描いた本作の物語は連載当時、大きな反響を呼んだが、同じくらい話題になったのが絵柄の変化だ。
序盤の春日や仲村の絵柄は丸っこく頭身が低いため、ちょっとエッチなラブコメという雰囲気で物語が始まるのだが、話が進み物語がシリアスになっていくと、絵柄が変わっていき、春日たち登場人物の造形も頭身の高い写実的な姿へと変わっていく。
そのため、第1巻と最終巻の第11巻では別の作品かと思うくらい絵柄が変化しているのだが、紆余曲折の末に作者が獲得した『惡の華』終盤のタッチが『おかえりアリス』や『血の轍』といった後の押見の漫画の絵柄の基調となっていく。
つまり、作者の漫画家としての成長がそのまま、劇中の絵柄に反映されていたのが『惡の華』の面白さだったのだが、今回のドラマ版では、連載における作風の変化も取り込まれている。
そのため、第1話~第2話では、コメディタッチのラブコメという印象だったが、第3話で春日と仲村が、夜中に教室で絵の具や墨汁をまき散らし、そこに佐伯の体操服を置いて変質者の犯行に偽装しようとする場面で、物語のトーンはダークでシリアスなものに様変わりする。

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(C)「惡の華」製作委員会 2026 (C)押見修造/講談社

このシーンは原作漫画では第2巻の終わりで描かれており、ぐちゃぐちゃに汚された教室で春日と仲村が寝転んでいる場面を真上から捉えたシーンがとても印象に残る。
劇中で春日と仲村は「向こう側」という表現を何度も使うのだが、この絵の具でぐちゃぐちゃになった教室は、退屈な日常に裂け目が生じ、まさに「向こう側」が見えたかのようだった。

この教室の場面以降、春日と仲村の行動はエスカレートし過激な行動をおこなうことで「向こう側」を見ようとする姿が描かれていく。その意味でもとても重要な転換点となるシーンだったが、今回のドラマ版では、原作に忠実に映像化されており、漫画の世界を再現することで「向こう側」をドラマで見せたいという、作り手の衝動が感じられる名シーンに仕上がっていた。

あのと仲村佐和の共通点

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(C)「惡の華」製作委員会 2026 (C)押見修造/講談社

『惡の華』は主人公の春日を取り巻く3人の女性の物語だ。
中学校編では、優等生の佐伯奈々子とクラスで孤立している凶暴な仲村佐和という正反対の少女の間で春日が揺れ動き、物語後半で描かれる高校生編では、常磐文という小説を書いている少女が登場する。
この3人の女性との関わりを通して、春日が思春期の鬱屈といかに向き合っていくかが、物語としての『惡の華』の見どころなのだが、アイドルドラマとしての魅力はこの3人を演じる若手女優の瑞々しい存在感にある。
2019年に劇場公開された映画では、佐伯を秋田汐梨、仲村を玉城ティナ、常磐を飯豊まりえが演じたのだが、3人とも役にぴったりで完璧なキャスティングだった。
一方、今回のドラマ版では、佐伯をNHK連続テレビ小説『べっぴんさん』でヒロインの娘・さくらを演じた井頭愛海。仲村を、タレント、シンガーソングライター、女優として多ジャンルで活躍するあのが演じている。そして、高校生編から登場する常磐は、人気アイドルグループ・乃木坂46のメンバーとして活躍する中西アルノが演じる。

注目すべきは、仲村を演じるあのだろう。
バラエティ番組等で学生時代は周囲と馴染めずに引きこもりだった過去を語り、SNSで衝動的に過激な発言をして周囲を驚かせるあのは、令和の若者のポップアイコンとして熱烈な支持を受けている。
あのは、オシャレでかわいらしいビジュアルの奥に深い闇を抱えており、その闇を吐き出そうと必死で足掻いているのだが、その姿は退屈な田舎町で「向こう側」を求める仲村佐和そのものだと感じる。
その意味で、役柄と演者の人生がシンクロした見事なはまり役で、あのが仲村佐和を演じると決まった時点で、『惡の華』の成功は約束されたと言えるだろう。

話数が進むごとに暴走していく物語と、あのをはじめとする若手俳優の迫真の演技にハラハラしながらも目が離せないのは、春日と仲村が目指す「向こう側」を、自分も見てみたいと思うからだ。

現役の少年少女だけでなく、かつて少年少女だった大人にも響く珠玉の暗黒青春ドラマである。


テレビ東京系 ドラマ『惡の華』2026年4月9日 毎週木曜深夜24時〜

ライター:成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)、『テレビドラマクロニクル 1990→2020』(PLANETS)がある。

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