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NHK新ドラマ“設定の強さ”だけじゃない「始まったばかりなのに続編期待」全員“ハマり役”で完璧な滑り出し【土曜ドラマ】

  • 2026.6.6

SNS上で「どのキャラも最高」「始まったばかりなのに続編期待」と話題のNHK土曜ドラマ『ムショラン三ツ星』。設定の強さだけで視聴者を引っ張るのではなく、その設定を“現実の温度”にまで落とし込む手腕が見事だった。高級イタリアンの一流シェフ・銀林葉子(小池栄子)が、オーナーの持ち逃げで転落し、地元の男子刑務所で管理栄養士に。受刑者の料理初心者ぶりにツッコミが止まらない一方、予算は1人1日3食543円。“食で更生は可能か”という問いが、早くもじわりと立ち上がっている。

※以下本文には放送内容が含まれます。

予算543円の制約

『ムショラン三ツ星』で際立っているのは、なんといっても“刑務所×料理”という異色の組み合わせ。葉子の仕事は、管理栄養士として献立を作成するなどの事務がメインだ。それでも炊場から呼び出されれば、すぐさま現場に駆けつけなければならない……。この“机上と現場”の往復が、ドラマの呼吸をつくっている。

何より効いているのが、制約が具体的な数値として提示される点。受刑者の食費は、1人1日3食で543円。たったそれだけで、一気に現実味を帯びた、地に足ついたドラマになる。
季節のイベント食をやりたい、彩りを出したい、満足感を出したい。しかし同時に、コストと手間と安全性が立ちはだかる。給食会議での攻防がおもしろいのは、そこでのやり取りが“料理の好み”ではなく、生活と制度の話になっていくからだ。

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土曜ドラマ『ムショラン三ツ星』5月30日放送(C)NHK

コメディとしての導線も巧い。料理初心者の受刑者たちが起こすトラブルは、笑えるようでいて切実だ。包丁、火、揚げ物……日常で当たり前に触れているものが、閉じられた環境では“事件”のきっかけになりうる。頭を抱える葉子と、受刑者たちの必死さに思わず笑ってしまう。
食事を工夫し、チームとして炊場を回し、少しだけ空気が良くなったように見えても、塀の外の現実は容赦ない。人は本当に変われるのか、食を通して自分は何ができるのか。ここで提示される問いはシンプルで重い。

小池栄子がタフでチャーミング!

このドラマが滑り出しから強いのは、小池栄子が葉子という主人公に“強度”を与えているからだ。
冒頭は、ありがちな転落劇。オーナーの持ち逃げで閉店、子ども2人を抱え、就職先は刑務所……筋書きだけなら波乱万丈である。しかし小池が演じると、それはただのかわいそうな主人公ではなく、“現実を直視して踏ん張るしかない人”になる。情けなさと踏ん張りが同居しているのがリアルだ。

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土曜ドラマ『ムショラン三ツ星』5月23日放送(C)NHK

葉子の魅力は、正義のヒロインではないところにある。受刑者に対して最初から理解者でもないし、綺麗事で抱きしめるタイプでもない。怖いものは怖いし、ムリなものはムリと言う。けれど、彼らが必死にやっている姿を見て、笑ってしまう。その笑いは嘲笑ではなく、ギャップへの戸惑いに近い。いかつい見た目の受刑者が、みょうがの皮むきで真顔になり、コロッケを爆発させてしょんぼりする。その瞬間に、葉子の中で“人間”としての距離が少し縮む。

さらに小池の芝居が効いているのは、被害者への想像力を手放さない点だ。刑務所を舞台にした物語は、受刑者側に肩入れしすぎると危うい。しかし本作は、コメディで笑わせながら、簡単に“いい話”に着地しない。

葉子が葛藤するのは、目の前の人間を見てしまうからこそだ。更生を信じたい、でも信じることが、誰かの痛みを軽んじる可能性もある。その揺れを、小池は声色や勢いで誤魔化さず、表情で見せてくる。

刑務所チームと受刑者チームの噛み合いに期待

SNS上で「どのキャラも最高」という声が上がるのも納得だ。まず刑務所側の布陣が強い。規則絶対主義の入江総務部長(生瀬勝久)が“壁”として立ちはだかり、事なかれ主義の用度課長(三宅弘城)が“現実”を突きつける。
こうした人々がいるから、葉子の創意工夫は単なる自己満足では済まない。制度と予算と責任のなかで、勝ち取らなければならないものになる。

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土曜ドラマ『ムショラン三ツ星』5月23日放送(C)NHK

一方で、炊場担当の刑務官・杉山(中村蒼)がいい。クールで生真面目。葉子のルール破りに眉をひそめながらも、現場を回す人間としての目を持っている。彼が“ただの融通の利かない相棒”で終わらず、葉子の情熱にどう巻き込まれていくのか。ここがバディものとしての見どころになるはずだ。

受刑者チームもまた味わい深い。料理初心者のドタバタが可笑しい一方で、彼らはそれぞれ罪を抱えている。食を通じてチームになっていく過程は、青春群像劇のような熱を帯びていくだろう。

ただし、このドラマはたぶん、簡単に“美談”にはならない。再犯のニュースがすでに突きつけたように、更生は一本道ではない。だからこそ、葉子の献立が単なるごちそうではなく、気持ちを繋ぎ直す“手段”としてどう機能していくかが気になる。

笑って、ツッコんで、少し胸が痛くなる。そのバランスが第1・2話の時点で成立しているのが『ムショラン三ツ星』の強さだ。土曜の夜、543円の献立表に込められたのは、料理の工夫だけではない。人は変われるのか、という問いに対して、せめて“変わろうとする時間”を支えることはできるのか。その挑戦が、三ツ星の価値になるのだと思う。


NHK 土曜ドラマ『ムショラン三ツ星』毎週土曜よる10時
NHK ONE(新NHKプラス)同時見逃し配信中・過去回はNHKオンデマンドで配信

ライター:北村有(Kitamura Yuu)
主にドラマや映画のレビュー、役者や監督インタビュー、書評コラムなどを担当するライター。可処分時間はドラマや映画鑑賞、読書に割いている。X:@yuu_uu_

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