1. トップ
  2. エンタメ
  3. 2019年に放送され今も続く“熱烈”な支持「いつまでも推しドラマ」「再放送希望」印象的な“タイトル”の【NHKよるドラ・4作目】

2019年に放送され今も続く“熱烈”な支持「いつまでも推しドラマ」「再放送希望」印象的な“タイトル”の【NHKよるドラ・4作目】

  • 2026.6.6

2019年に放送された、NHK「よるドラ」の4作目として登場した『決してマネしないでください。』は、理系の偏愛とピュアな恋心を、科学トリビアと危険な実験でぐるぐる攪拌していくような知的ラブコメディだ。「いつまでも推しドラマ」「再放送希望」とSNS上でも話題の本作、主人公の掛田理(小瀧望)は、あらゆる現象に理屈を求める理論物理学の学生。そんな彼が、もっとも非論理的で制御不能な“恋”に落ちてしまう。数式では測れない感情を、生真面目に実験と検証で解き明かそうとする空回りが、コミカルでありながらどうしようもなく愛おしい。画面のなかで巻き起こる毎夜の騒動は、気づけば私たちの心までじんわりと温めてくれる。

※以下本文には放送内容が含まれます。

掛田くんの健気さが笑えて沁みる

undefined
小瀧望 (C)SANKEI

『決してマネしないでください。』(通称:決マネ)の主人公・掛田理は、理論物理学の学生で、世界はすべて法則でできていると信じている。だからこそ、恋に落ちた瞬間から彼の世界はバグってしまうのだ。好きな人に近づくための正解が分からない。いや、分からないなら作ればいい……と彼は考えてしまう。

普通なら胸の内にしまう不器用さを、掛田くんは堂々と実験や検証にしてしまう。

その姿は、とにかくコミカルだ。妄想が暴走し、数式が脳内を走り、言葉をかける前にフリーズする。ズレているのに大真面目。大真面目だからこそ、ズレが加速していく。けれど笑いの芯にあるのは、驚くほどまっすぐな誠実さだ。恋愛テクニックで相手を落としたいわけではない。相手を理解したい。自分の気持ちを乱暴に扱いたくない。だから彼は、遠回りでも確かめながら進む。

およそ30分の短尺だから、掛田くんの空回りはテンポよく転がり、視聴者は笑いながら見守れる。でもその短さは、彼のピュアさを濃縮もする。掛田くんの恋は、恋愛の勝ち負けではなく、未知に向き合う研究みたいなものだ。自分の心に芽生えた感情を、怖がりながらも手放さずに観察する。その姿が、いつの間にか沁みてくる。

そしてヒロイン・飯島さん(馬場ふみか)もいい。彼女独特の男前さと、掛田くんの突飛な行動を受け止める懐の深さ。彼女は掛田くんを、一般的な恋愛の型に押し込めない。だから掛田くんの恋は、研究という立場から少しずつ姿を変えていく。理屈で縛らない人がそばにいると、ようやく安心して感情を出せるのかもしれない。

『決マネ』ならではの快感

タイトル回収も抜かりない。「決してマネしないでください」と言いたくなる実験が、視覚的な見せ場として毎回効いてくる。大げさに煽らなくても、画面の勢いだけで笑える。けれどその実験は、単なるバカ騒ぎでは終わらないことが多い。

実験は、掛田くんの恋の比喩になっている。火花が散るほど危ういのに、なぜか目が離せない。失敗しそうだから、見届けたくなる。恋も同じだ。

さらに刺さるのが、“理系大学あるある”の粒度である。何でも数式や論理で説明しようとする思考のクセ、比喩の独特さ、世間一般の“おしゃれ”や“スマートさ”から少し外れた場所で、寝食を忘れて好きなことに没頭する生態。理系の人ならクスッと笑い、文系の人ならシンプルに驚く。その“異文化”のおもしろさが、恋の物語に自然と厚みを与えている。観終わったあと、なぜか少しだけ賢くなった気分が残るのは、こういう設計の上手さゆえだろう。

若手の怪演と“偉人ミニドラマ”の贅沢さ

ドラマ版『決マネ』のおもしろさは、キャスティングの妙にもある。

掛田理を演じる小瀧望は、普段のスタイリッシュさを綺麗に封印し、“キモ可愛さ”の絶妙なゾーンを作ってみせた。長身を少し丸め、ボサボサ頭にメガネ、独特の早口で科学をまくし立てる。飯島さんに声をかけられただけで脳内が爆発し、妄想に溺れて自滅する。その全力の恥ずかしさが、逆に愛おしい。コメディセンスが光る芝居だ。

馬場ふみか演じる飯島さんも、作品の重心を支える存在だ。サバサバしているのに冷たくない。男前なのに可憐さが消えない。クセの強い理系男子たちの世界に“引かない”ことが、どれだけ大事か。飯島さんがいることで、掛田くんの恋は笑い話で終わらず、ちゃんと物語として転がっていく。

そしてテレス役のラウール。掛田くんの恋を誰よりもおもしろがり、誰よりも応援するお節介マスコットとして、作品のテンポを引っ張る。長い手足をバタバタさせ、表情豊かに動き回る様が、ドラマ全体の呼吸を軽くしてくれる。

よるドラ4作目として、『決してマネしないでください。』は“短尺で濃い”という枠の強みを最大限に活かした。タイトルの強さに釣られて見始めたはずが、気づけば掛田くんの恋を応援している。

そして最後には、科学の知識よりも大事なことを思い出す。恋は理屈で解けない。だけど、解けないからこそ、向き合う価値がある。このドラマが本当に伝えているのは、不器用な恋を笑わずに肯定する合図なのかもしれない。


出典:NHK よるドラ『決してマネしないでください。』NHKアーカイブス

ライター:北村有(Kitamura Yuu)
主にドラマや映画のレビュー、役者や監督インタビュー、書評コラムなどを担当するライター。可処分時間はドラマや映画鑑賞、読書に割いている。X:@yuu_uu_

の記事をもっとみる