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実は「パワハラの解像度」が高い映画『HELP/復讐島』を見る前に知ってほしい3つのこと

  • 2026.2.4
『HELP/復讐島』は笑えてゾッとする、素晴らしい娯楽作でした。実は「パワハラの解像度が高い」ことを含めて、見る前に知ってほしい3つのことを解説しましょう。(※画像出典:(C) 2026 20th Century Studios. All Rights Reserved.)
『HELP/復讐島』は笑えてゾッとする、素晴らしい娯楽作でした。実は「パワハラの解像度が高い」ことを含めて、見る前に知ってほしい3つのことを解説しましょう。(※画像出典:(C) 2026 20th Century Studios. All Rights Reserved.)

『HELP/復讐島』が1月30日より劇場公開中。同作はアメリカの批評サービスRotten Tomatoesでの批評家の支持率が93%にまで達しており、日本でも続々と絶賛の声が届いています。

その評判通り、本作は「パワハラ“クソ”上司と無人島で二人きり?」というキャッチーなシチュエーションを、想像を超える展開の連続で楽しませてくれる痛快娯楽作でした。

前置き:ショッキングすぎて笑えるブラックコメディーだった

注意点は、「簡潔な残酷流血の描写がみられる」という理由でPG12指定がされていること。血が飛び散ったり嘔吐する場面もあり、「ショッキングすぎて笑える」露悪的なブラックコメディーであることは認識しておいたほうがいいでしょう(なお、エンドロールには英語で「この映画の制作において動物は一切傷つけられていません」という表記があります)。

(C) 2026 20th Century Studios. All Rights Reserved.
(C) 2026 20th Century Studios. All Rights Reserved.

また、予測不能の展開こそが肝の作品でもあるため、ネタバレを踏んでしまう前に早めに見に行くことをおすすめします。それでいてシンプルで分かりやすい内容なので、予備知識はいっさい必要ありません。

「エグめのコメディーが大好物」という人はとにかく見に行けばいいですし、それでいて下ネタや性的な話題はごくわずかで、男女の関係を見つめ直せるという点も踏まえれば、デートにもおすすめしやすい(?)内容になっていました。そして、「あまりの事態に笑ってしまう」ことも楽しい作品なので、笑い声があちこちから聞こえてくる劇場で見ることを強くおすすめします(実際に試写会場では何度も爆笑が巻き起こっていました)。ここではさらに、見る前に知ってほしい3つのポイントを解説しましょう。

1:「穏やかかつ静かなパワハラ」が本当にムカつく

本作の大きな美点は、冒頭でパワハラの浅ましさをしっかりと描いていること。パワハラと聞くと「声を張り上げて罵倒をする」「感情を爆発させて暴言を吐く」といったことを想像しやすいですが、本作で描かれているのが「穏やかかつ静かに、精神的にも立場的にも追い詰めていくパワハラ」であることに戦慄したのです。

(C) 2026 20th Century Studios. All Rights Reserved.
(C) 2026 20th Century Studios. All Rights Reserved.

例えば、主人公は上司の亡くなった父親から昇進を約束されていたはずだったのですが、それを当の上司はあっさり「そうなの」と言って反故(ほご)にします。

しかも、その不服を訴えに来た主人公に対して、「大した度胸だ」「君は賢いし数字に強いことも知っている」と持ち上げたかと思いきや、「一緒にゴルフができる男の友人のほうを傍に置きたい」という自分本位かつ「彼女の努力をいっさい評価しない」理由を告げるのです。これははっきりと「学習性無力感」を植え付ける、パワハラに相当します。

あまつさえ上司は「バンコクの出張に同行して見返してみろ」と挑発めいたことを言うのですが、それは「左遷させる」口実にすぎませんでした。

さらにダメ押しとなったのは、主人公がオフィスでこっそりツナサンドを食べていて、上司へ話す時にそれが口についていたという事実。それを「個人的」に不快に思った上司は、「苦情が届いている」という「オフィス全体に関わる問題」に転換して、彼女をやはり「穏やかかつ静かに」糾弾するのです。(その直前にある、ツナサンドの不快さを別の部下に「押し付ける」ようなパワハラも最悪!)

パワハラの問題の本質をついていると思えたのが、この上司がパワハラをパワハラと思っていなさそうなこと。「だって、コイツ不快じゃん。俺は上司としての権限があるし、当たり前のことを言っているだけだし?」という感情が、彼の態度や言動からありありと伝わってくるのです。

(C) 2026 20th Century Studios. All Rights Reserved.
(C) 2026 20th Century Studios. All Rights Reserved.

しかも、ツナサンドの件は客観的には「彼女にも非がある」と思わせる、映像として口についた食べ物の不快さが確かに伝わってくるからこそ、本作は観客をも上司の感情への「共犯関係」に巻き込んでいきます。その演出の積み重ねが、むしろ誠実だと思えました。

そのような短絡的な感情で、その人の努力や本質をないがしろにしてしまう言動をすることこそ、パワハラだと思わせるのですから。

ここで今一度、厚生労働省によるパワハラの定義を挙げておきましょう。

「以下の1から3までの要素のいずれも満たすものを職場のパワーハラスメントの概念として整理

1:優越的な関係に基づいて(優位性を背景に)行われること
2:業務の適正な範囲を超えて行われること
3:身体的若しくは精神的な苦痛を与えること、又は就業環境を害すること」

こうして文字として見ただけでは想像はしづらいですが、『HELP/復讐島』の冒頭で描かれたことは、なるほどこの1〜3の全てに当てはまる、完全なパワハラだと納得できるでしょう。それをまざまざと映像として見せることで、本作はパワハラの問題へ真摯(しんし)に向き合った作品だと思えたのです。

(C) 2026 20th Century Studios. All Rights Reserved.
(C) 2026 20th Century Studios. All Rights Reserved.

さらに、その後の出張に向かう飛行機内では、「上司たちがみんなでよってたかって、主人公が好きなサバイバル番組へのアピール動画を嘲笑する」という、醜悪としか言いようのない光景も目の当たりにできます。

そんな風に「こんなパワハラをするやつらはみんな地獄に落ちればいいのに!」というムカつきと、主人公のとてつもない無念と屈辱を目の当たりにしたからこその、その後のスカッと爽やか(?)な展開に期待してほしいところです。

2:完全に『死霊のはらわた』『スペル』の頃のサム・ライミ監督作だった

本作で重要なのは、何しろ監督がサム・ライミであること。スーパーヒーロー映画『スパイダーマン』シリーズで有名ではありますが、出世作となったのは何しろスプラッターホラーの代表格と言える『死霊のはらわた』です。その続編の『死霊のはらわた2』や『キャプテン・スーパーマーケット』は「本来はホラーのはずの要素」が「もはや笑える」コメディーへと昇華されていましたし、スーパーヒーロー映画の『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』でも「ライミ監督らしさ」が限界まで盛り込まれた作品でした。どういうところがライミ監督印のホラー演出と言えるのか? といえば、「勢いのあるカメラワーク」「過剰な血しぶきや嘔吐」「死体が襲いかかってくる(ゾンビ)」といった、やっぱり悪趣味(褒め言葉)なものです。

本作は仮にも「無人島サバイバル」というジャンルであり、普通に考えれば「血まみれホラー」の出番はないはずなのですが、しっかりそうしたライミ監督の悪意がほとばしっていたことに感動(もしくは爆笑)しました。

(C) 2026 20th Century Studios. All Rights Reserved.
(C) 2026 20th Century Studios. All Rights Reserved.

ライミ監督のフィルモグラフィーの中で、今回の『HELP/復讐島』にいちばん近いのは『スペル』でしょう。「社会人の女性が主人公」かつ「仕事中に誤った対応をしたせいで酷い目に遭う」物語の発端や、「口まわり」へ生理的な嫌悪感を与えるようなショック演出も共通していたのですから。そうしたライミ監督の作家性を知っている人にとっては「待ってました!」となるでしょうし、知らない人も良い意味で「やりすぎだよ!」と悪意いっぱいのサービスに喜べることでしょう。

3:主人公もけっこうヤバい?「想像すると怖い」ホラーでもある

無人島に辿り着いてからの展開はいっさい知らないほうがいいというくらいですが、単なる「逆転劇」だけに終わらないということは告げておきましょう。

初めこそパワハラ上司は脚をケガして動けず、サバイバル知識のある主人公のほうが当然「優位」。言うまでもなくオフィスの時とは立場が正反対というわけですが、その後は両者の力関係が微妙に、時には大きく変わっていく「パワーゲーム」が展開していくのです。中でも、このパワハラ上司が口だけ達者というだけでなく、意外と頑張るし、殊勝な態度を見せるということは大きなポイント。自身を救ってくれた主人公へ「ありがとう」と素直に感謝を告げることもありますし、なんなら連携を取っていたりして、「けっこういいコンビなのでは?」と思わせる場面もあるのですから。

一方で、とある場面では、主人公の「狂気」もはっきりと現出します。「あれ? 主人公は理不尽なパワハラを受けたかわいそうな人だけど、実はかなりヤバいのでは?」と、観客に良い意味での揺さぶりをかけてくれていて、そのイヤな予感が当たるのか当たらないのか……という翻弄(ほんろう)される感覚も、また楽しんでほしいのです。

(C) 2026 20th Century Studios. All Rights Reserved.
(C) 2026 20th Century Studios. All Rights Reserved.

さらに重要なのは「過去の話」。2人が語るそれぞれの境遇は同情を誘うものではあるのですが、「それは本当のことなのか?」と、そこでも揺さぶりをかけてくれるのです。まさかのクライマックスと結末から逆算して、「そういえばあの時の話って……」と想像すると、さらにゾッとさせてくれるというのが、ホラーとして恐ろしくも面白かったりします。

主要登場人物がほぼ2人だけだからこそ、俳優の演技力が光るというのは先週公開の『MERCY/マーシー AI裁判』とも通じる要素。『アバウト・タイム 愛おしい時間について』とは真逆の不幸まっしぐらな道に進むようで、たくましさが狂気的なレベルに達するレイチェル・マクアダムス。『メイズ・ランナー』で気弱さもあった主人公が見る影もない超絶イヤなやつで、時には絶望の感情をも体現したディラン・オブライエン。この2人を、誰もが絶賛するのではないでしょうか。

(C) 2026 20th Century Studios. All Rights Reserved.
(C) 2026 20th Century Studios. All Rights Reserved.

ともかく、パワハラの問題提起をしつつも、やはり基本はブラックなユーモアに包まれた、ハラハラドキドキかつサプライズにも満ちたエンタメ性こそに期待してほしいところ。普段からパワハラに怒りを覚えている人には「よくやってくれた!」とやっぱりスカッとできる(でもそれだけじゃない複雑な気持ちも芽生える?)でしょう。

それこそが、現実ではできない、フィクションの役割です。ぜひとも、やはり笑いが漏れる映画館でこそ楽しんでほしいです。

文:ヒナタカ

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