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映画『MERCY/マーシー AI裁判』がAI時代の「過ち」を鋭く描いているワケ。3つの魅力を解説

  • 2026.2.3
映画『MERCY/マーシー AI裁判』は現代のAIへの向き合い方に、重要な知見を与えてくれる快作でした。その3つの魅力を解説しましょう。
映画『MERCY/マーシー AI裁判』は現代のAIへの向き合い方に、重要な知見を与えてくれる快作でした。その3つの魅力を解説しましょう。

映画『MERCY/マーシー AI裁判』が1月23日より公開中です。結論から言えば本作は超面白い! 始まり方および設定はややトンデモながら、娯楽作としての「ツカミ」は抜群ですし、さらには現代のAIへの向き合い方に、重要な知見を与えてくれる快作だったのです。

「薬物使用の描写がみられる」という理由でPG12指定がされていますが、それ以外では直接的な残酷描写や性的な話題はほぼなく、字幕の漢字が読める年齢からであれば問題なく楽しめる作品でしょう。具体的な魅力を、決定的なネタバレにならない範囲で紹介していきましょう。予備知識ゼロで見たい人は、先に劇場へ駆けつけることをおすすめします。

1:『search/サーチ』の発展形、AI裁判官×リアルタイム推理スリラー

本作のあらすじは、目を覚ますと、いすに縛りつけられて、目の前にはAIの裁判官がいて、いきなり『あなたは殺人の容疑者だ』と告げられるというもの。しかも、「深刻化した凶悪犯罪に対する厳格な治安統制のためにAIが司法を担っている」切迫した社会状況もあって、「90分以内に自分の無実を証明できなければその場で即時処刑される」というのです。


「AIが裁判官だけでなく陪審員と処刑人も兼ねている」ことも含めて、はっきり言ってかなりムチャな物語の発端ではありますが、そこは「シンプルにタイムリミットでハラハラさせるための設定」として、寛大な心で受け入れてあげてほしいところです(願望)。

そこさえ乗り越えてしまえば、初めからノンストップ&フルスロットルで展開する、映画『マイノリティ・リポート』のような「追われながらも無実を証明しようとするサスペンス」として、映像的にも物語としても、すこぶる面白く感じられるはずですから。


例えば、提示された証拠としての監視映像のそれぞれが、客観的に見て「主人公が犯人の可能性が高い」と思えるものなのです。観客としても、「こいつは本当に殺人を犯したのではないか?」と疑いをかけるでしょう。

さらに「制約」となっているのは、主人公がいすに腕と脚を縛り付けられていて、文字通りに身動きが取れないこと。それでも、「ネット上に存在するあらゆるカメラ映像へアクセスする権限」が与えられているため、彼は目の前のAI裁判官に音声で命令を出して、無実の証拠を見つけようと奮闘するのです。

その上で、あらゆるポイントをしらみつぶしに捜査をして、断片的な情報を集めていき、やがて「真実」に辿り着いていくという、「探偵もの」のツボを押さえた過程にワクワクできるはず。離れた場所にいながらも主人公の言葉を受けて行動する、同僚の女性警察官や、主人公の娘といったサブキャラクターの行動も見逃せません。


しかも、『真昼の決闘』や『フォーン・ブース』などに代表される、「劇中の時間経過と映画としての上映時間がほぼ同じ」という「リアルタイム進行」だからこその緊張感もたっぷりと味わえるでしょう。

「実際は1つの場所から動いていないのに、ネットを駆使して謎解きをする」ことから連想したのは、本作で監督を務めたティムール・ベクマンベトフがプロデューサーとして関わっていた、「全編がPC上で展開する」特異な表現で話題を集め、高い評価を得た『search/サーチ』 でした。今回の『マーシー』は空間に通信先の映像が3Dとして現れるなど、画がかなり派手になっており、さらに終盤の展開のツイストもより「効いて」いる、『search/サーチ』 の「発展形」と言える面白さがあったのです。

2:裁く存在から支える存在へ。AIは「相棒」になれる

本作で重要かつ、良い意味で多くの人の期待を裏切ってくれるであろうことは、このAI裁判官が「敵ではない」ということ。むしろ「論理的」で「合理的」なAIの考えが、捜査において大きな助けになっているのです。


何しろ主人公は「直感を信じるタイプの刑事」であり、殺人事件の容疑者となったそもそもの理由に「キレやすさ」があったりするのです。そんな彼でも、AI裁判官からの「直感で動きすぎている。先にこういうことがあったでしょう」とアドバイスをされると、「確かにそうだな」と冷静になったりもできるのです。

現実でも、日常的にChatGPTなどのAIに質問をして、アドバイスしてもらったり、仕事の手伝いをしてもらったりする人は少なくないでしょう。この『マーシー』で描かれていたAI像は決して荒唐無稽なだけのものではなく、「人間のサポートをするツールまたは相棒」として「あり得る」どころか「もうそうなっている」ものなのです。


今では生成AIの功罪のうち「罪」がよく語られており、特に映画やアニメやゲームといった創作において生成AIの悪い話題が上がりがちです。もちろんハリウッド映画界でもAIの問題が取り沙汰されやすいのですが、それでもなお映画で「AIと人間は良い連携ができるはずだ」と希望を示したのは、とても誠実だと思えます。

最近では日本のアニメ映画『アイの歌声を聴かせて』でもAIの「怖い面」を描きつつも「AIが人間の友達になれる」可能性を示していましたし、2025年末に日本で公開され口コミで大評判となった香港・中国合作の映画『シャドウズ・エッジ』でも発達したAIが捜査における重要な「協力者」となっていました。こうしたAIを「十把一絡げに否定しない」「可能性を示した」エンターテインメントが生まれることそのものを、歓迎したいのです。

また、直感で行動するキレやすい主人公を演じているのが、良い意味でヒーロー然としているだけではない、軽薄さや未熟さを体現する役が上手いクリス・プラットというのも「効いて」います。彼が、同じくティムール・ベクマンベトフ監督の映画『ウォンテッド』では「キーボードでぶん殴られるウザい同僚」だったことを踏まえると、より味わい深いものがありました。

さらに、AI裁判官を演じたレベッカ・ファーガソンは、『ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション』で「一匹狼」な印象が強い謎の美女を演じていたこともあり、今回の「冷徹な機械のようでいて」「それだけではない含みもある」役柄にぴったりでした。メインの登場人物がごく少ない作品だからこそ、俳優の力量もよりはっきりと分かるでしょう。

3:「人間の真実」がある

前述してきた通り、「超絶不利な状況から逆転を目指す探偵もの」「自分を処刑するはずのAIが最強の味方になってくれる」という合わせ技が見事にキマっているからこそ面白いのですが、真の面白さと奥深さは、実はその「先」にあります。

その「先」を具体的に記すとネタバレになってしまうので秘密にしておきますが、「これって実は……」という違和感が見事に伏線として回収されること、そして「人間の真実」を鋭くえぐった問題提起をしていることは明言しておきましょう。


劇中では「事実は白か黒だが、真実は灰色だ」という名言もあり、なるほど、終盤の展開にはその言葉通りの「不都合な真実をはっきりとさせない」人間の問題が、まざまざと表れていると思うのです。

さらに、その人間の真実は、「本来は論理的かつ合理的に正解を見つけようとする」はずのAIの思考プロセスと大きな差はないのではないか、という考えも巡らせることができます。それは、先に挙げた『アイの歌声を聴かせて』の吉浦康裕監督がTwitter(現X)で記した言葉も思いだすものでした。

「正直な話「高度なAIに自我や魂は宿るのか?」系の疑問って、あまり考えたこと無いんですよ。人間の意識自体を「超超超高解像度なAIのようなもの」と捉えれば割とスッキリしますし。本作の主な登場人物の価値観も、それに近いものがあるのかもしれません。

吉浦康裕 Xより」

「AIを人間に似せていけば自我や魂という概念に取って代わるのではなく、そもそも人間の意識が超高度に発達したAIのようなものではないか」という考えは、今回の『マーシー』のクライマックスで提示された、とある「過ち」にも当てはまっていると思うのです。

また、本作の公式のチラシにある「これは現実になりつつある、度を超えたAI信仰への警鐘――」という文言は、前述したようにAI裁判官が味方になる展開からすればミスリーディングにも思えますが、実際は的を射ていると思います。

特に終盤の「真実」を示す言葉からは、AIに限らず自分が正しいと思ったことを疑わず、盲目的に信じようとする、その思考そのものが恐ろしいのだと、実感できるのではないでしょう。それでもなお、人間とAIの可能性を尊ぶメッセージに、つい目頭が熱くなってしまいました。ぜひ「意外な感動」にも期待してほしいです。

1月30日から公開中の『ランニング・マン』との共通点も

さらに、この『マーシー』と併せて見てほしいのは、1月30日から公開中の『ランニング・マン』です。「本当に命を狙われる『逃走中』」とシンプルに説明できる「デスゲームもの」でありつつも、「荒唐無稽な設定のようで現実の社会の延長線上にある問題を描いている」ことが『マーシー』と共通しているのです。原作はスティーヴン・キングが1982年に発表した小説で、1987年にもアーノルド・シュワルツェネッガー主演で映画化もされていましたが、描かれている「フェイクニュース」を筆頭とした問題は、2026年の今ではより深刻化していると思えるものでした。

車の自動運転が当たり前になる近未来な設定なのに、ビデオテープが登場するといった、良い意味での「レトロフューチャー」な設定やビジュアルも良いアクセント。『トップガン マーヴェリック』や『ツイスターズ』や「うさんくさいけど良いやつ」役に定評があるグレン・パウエルの配役が絶妙で、『マーシー』とは「キレやすいパパが主人公」であることもまた共通していたのです。

こうした「万人向けのエンタメと鋭い社会性を両立したハリウッドの大作アクション映画」が立て続けに見られるというのはうれしい限り。ぜひぜひ、どちらも映画館でご覧ください。
文:ヒナタカ

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