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施設で、廊下をウロウロするお年寄り→声をかけるが「なんでもない」と言われ…その後、先輩介護士が取った行動に「言葉を失いました」

  • 2026.2.10
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出典元:photoAC(※画像はイメージです)

「人生、このままでいいのだろうか」。 33歳の時、私は長年勤めた鉄道業界を離れ、全く未経験の介護の世界へ飛び込みました。意気込みだけは人一倍でしたが、現場で待っていたのは、教科書には載っていない「プロの観察力」という高い壁でした。

ある日、施設内でうろうろと落ち着かない様子のお年寄りを前に、新人だった私はただ戸惑うばかり。しかしそこで、10歳も年下の女性先輩が見せた驚くべき対応を目の当たりにします。

「こんなこと、本当にできるの?」 その衝撃は、今でも私の介護人生の原点となっています。今回は、かつてのプライドを捨てて学んだ、プロならではの「察する技術」についてお話しします。

若き先輩が見せた、魔法のような「散歩」

現場に出て数日のことでした。

ホールの廊下を、一人のお年寄りがそわそわとした様子で、何度も行き来していました。何をしようとしているのか、何か不満があるのか。声をかけても「なんでもないよ」と言われ、新人の私はどう誘導すべきか分からず、ただ見守ることしかできませんでした。

その時、年下の女性先輩が、スッとその方の横を追い越し、自然な動作で前に立ちました。何か言葉を交わしたかと思うと、先輩はそのままお年寄りと連れ立って、楽しそうに散歩を始めたのです。

「散歩を提案しただけなのかな?」 そう眺めていた私ですが、先輩はそのまま、廊下の途中にあったトイレへと、流れるようにその方を誘導しました。数分後、トイレから出てきたお年寄りの顔を見て、私は言葉を失いました。

先ほどまでの険しい表情が嘘のように消え、まるで別人のように晴れ晴れとした顔をされていたのです。

プライドが砕け、視界が開けた瞬間

「どうして、トイレだと分かったんですか?」 驚いて尋ねる私に、先輩は穏やかに微笑んで教えてくれました。

そこには、単なる「技術」を超えたプロの思考プロセスがありました。

先輩が重視していたのは、お年寄りの「歩き方」と「手の位置」でした。そわそわとした足取り、時折腰のあたりに手がいく動作、そして周囲を気にするような目線。先輩はこれまでの経験から、それが「排泄をしたいけれど、言い出せない」という切実なサインであると瞬時に見抜いたのです。

彼女は、お年寄りのプライドを傷つけないよう、「トイレに行きましょう」と直接言うのではなく、「一緒に歩きませんか」と誘い、その動線上で自然に促すという高度な配慮を行っていました。

「人生の経験値なら負けない」とどこかで高を括っていた私。彼女の「人を細やかに見る力」を前に、自分の未熟さを痛感し、これまでの慢心が音を立てて崩れ去りました。

年齢や経歴を超えた「真の学び」

数日後、同じように廊下を落ち着かなく歩く別のお年寄りと出会いました。 もう、かつての自分のようにうろたえることはありません。先輩の教えを思い出し、歩幅や表情をじっくり観察した上で、迷わず「少し歩きませんか」と声をかけました。

案の定、トイレから出てきたその方は、本当にすっきりとした良い表情をされていました。その時、私の心に広がったのは、役に立てたという安堵感と、「人を見る観察力に、年齢や経歴は関係ない」という確かな手応えでした。

この経験を経て、私は「自分がどう動くか」ではなく「相手が何を求めているか」を、先入観を捨てて徹底的に観察することを、仕事の軸に据えるようになったのです。

すべての現場は「観察」から始まる

どれだけ長く社会人を経験していても、新しい場所では誰もが「新人」です。大切なのは、年齢というプライドに縛られず、目の前の人をどれだけ深く観察できるか。

若い世代からも、現場の小さなサインからも、学べることは無限にあります。観察力を磨くことは、きっとあなたの仕事の景色を優しく変えてくれるはずです。今日もお互い、目の前の「小さなサイン」を大切にしていきましょう。


ライター:淵田 豊(ふちた ゆたか)

鉄道業界10年を経て、33歳で介護の世界へ転身。以来30年、現場の第一線で高齢者福祉に携わってきた現役実務家ライター。自身の転職体験から、年齢やキャリアを超えて「プロの技術」を謙虚に学ぶ姿勢の大切さを発信。現場経験に裏打ちされた、温かみのある執筆スタイルが持ち味。


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