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社会現象となった“朝ドラ脚本家”の次作【日曜劇場】消化不良にも感じた“歯切れの悪い”終わり方に広がる憶測

  • 2026.2.24

2014年に日曜劇場(TBS系日曜夜9時枠)で放送された宮藤官九郎脚本の『ごめんね青春!』は、男子校と女子校が合併したことで巻き起こる騒動を描いた学園ドラマだ。

※以下本文には放送内容が含まれます。

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錦戸亮 (C)SANKEI

主人公の原平助(錦戸亮)は、静岡県三島市にある仏教系の男子校・駒形大学付属三島高校(通称・東高)の教師。
ある日、東高は学校の経営難を理由に隣にあるカトリック系の女子校・聖三島女学院(通称・三女)と合併することとなる。
共学となることに対して校内での反発は多かったが、平助はまずはお試しという形で両者合同の共学クラスを運営することを提案。しかし両校の男女は犬猿の仲で、共学になったことで様々なトラブルが起こる。
一方、平助は合併をきっかけに三女の教師・蜂矢りさ(満島ひかり)と知り合うのだが、実は彼女の姉・祐子(波瑠)と平助には因縁があり、東高と三女が犬猿の仲となったのは、平助が学生時代に祐子を傷つけてしまったある事件がきっかけだった。

『あまちゃん』の後に宮藤官九郎が書いた青春ドラマ

本作の脚本を担当する宮藤官九郎は、『池袋ウエストゲートパーク』(以下、『池袋』)、『木更津キャッツアイ』、『俺の家の話』、『不適切にもほどがある!』といった数々の名作ドラマを生み出してきた脚本家である。
この『ごめんね青春!』は、2013年度前期に放送され社会現象となったNHK連続テレビ小説(以下、朝ドラ)『あまちゃん』の次に宮藤が書いたドラマ。
『あまちゃん』以降、宮藤の評価は大きく変化し、国民的作家として世間から広く認知されるようになった。
ドラマ脚本家にとって朝ドラは、それまでのキャリアの集大成となることが多い。だからこそ、朝ドラの次の作品は、脚本家にとって特別な意味を持つ。
『ごめんね青春!』もそれは同様で、『あまちゃん』で幅広い層に受け入れられた自身の作風を再検証したうえで“青春”というテーマに挑んでおり、『あまちゃん』とは異なる意味で集大成的な作品だった。

例えばそれは舞台となる静岡県三島市の描写に強く表れている。

宮藤のドラマは地方の町を舞台にし、その町ならではのローカルネタを展開することが多いのだが、『ごめんね青春!』にも、ご当地グルメの『みしまコロッケ』や、三島市のマスコットキャラクターのみしまるくんとみしまるこちゃんが登場する。
そして、伊豆箱根鉄道駿豆線の車内や伊豆・三津シーパラダイスといった実在する場所がロケ地として印象深い形で登場するため、作品を観ていると三島市への愛着が増していく。舞台となる町そのものが主人公のような存在感を持つのは、宮藤のドラマの大きな魅力である。

「男女の交流」に挑んだ学園ドラマ

一方、新境地だったのは、男子校と女子校を合併させることで、男と女が向き合う姿を描いたことだ。
『池袋』以降、宮藤は異性がいない男子校的な同性だけのグループにある居心地の良さを描いてきた。
恋愛ドラマが全盛だった2000年代に、恋人よりも仲間や家族とのつながりを魅力的に描いたのが宮藤の独自性で、逆に『マンハッタンラブストーリー』等の恋愛ドラマでは、恋愛に対する恐怖が強く出ており、恋愛関係にある異性を理解できないモンスターのように描いてしまう傾向が強かった。

その意味で、男女混合の共学的なグループを描くことは宮藤が最も苦手としていたことだったが、その弱点に真正面から挑んだのが『ごめんね青春!』だった。

物語は二段構造となっており、教師の平助を中心とした大人たちの人間模様を描くと同時に、男子生徒と女子生徒が思春期の悩みに葛藤しながら、心を通わせ成長していく姿が描かれた。
本作の一番の魅力は生徒役を演じた若手俳優たちの瑞々しい姿だろう。
面白い学園ドラマは、後から観返すと生徒役を演じた若手俳優がとても豪華だったと感じることが多いのだが、本作も重岡大毅、トリンドル玲奈、矢本悠馬、森川葵、川栄李奈、白洲迅、竜星涼といった今のドラマや映画で活躍している俳優が多数出演していたことに改めて驚く。その中でも、実に鮮烈な演技を見せたのが、三女の生徒会長兼学級委員の中井貴子を演じた黒島結菜である。

中井は生真面目で男性に対して潔癖だったが、やがて平助に恋をするようになる。だがその気持ちを平助に伝えるだけで、思いは自分の内に止めた。彼女が告白する時の表情はとても凛としていて、一気に釘付けとなった。
当時の黒島は駆け出しの女優で、2014年に深夜ドラマ『アオイホノオ』に出演したことで注目され『ごめんね青春!』で一気に人気若手女優となり、ドラマや映画にひっぱりだことなった。
本作での黒島の存在感は今観ても圧巻で、第7話で彼女が転校するために学校を去っていく場面は、青春ドラマならではの笑って泣ける切ないシーンとなっていた。

そして、生徒たちの物語と同時進行で描かれたのが、平助が学生時代に犯したある罪をめぐる葛藤である。

学生時代に平助は蜂矢りさの姉・祐子のことが好きだった。しかし祐子は平助の親友・蔦谷サトシ(永山絢斗)と付き合っており、二人が三女の屋上で抱き合っている姿を見て怒った平助は、持っていた無数のロケット花火を屋上に向かって打ち、その花火が礼拝堂の窓に入ったことで大火事となってしまう。

現場にいた二人は警察から事情聴取を受けたことが噂となり、祐子は自主退学した後、家出して行方不明となり、平助は当時のことを誰にも言えずに大人になってしまった。

そんな祐子と平助が再会し、犯した罪を懺悔する姿が物語のクライマックスとなったのだが、平助の罪を生徒や三島市の人々が庇い、「そもそも平助のロケット花火は礼拝堂が火事になった原因ではなかったのではないか?」と事件の真相が曖昧にされることで、強引に平助が許されるという、歯切れの悪い終わり方となっていた。

そのため放送当時は消化不良に感じたのだが、この煮え切らない幕切れを宮藤はあえて選んだのだろう。
人は自分を傷つけた人間を簡単に許すことはできないし、悔いは一生残り続ける。その後ろめたさを引き受けることでしか人は青春を終わらせることはできないという苦い結末を、宮藤は描こうとしたのかもしれない。


ライター:成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)、『テレビドラマクロニクル 1990→2020』(PLANETS)がある。