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「超えるドラマはない」8年前“強力な布陣”で制作された【至高作】有名プロデューサーの“新作ドラマ”で再注目

  • 2026.5.5

物語において、遺体の解剖や死因究明のような題材は、ともすれば重く、グロテスクな方向へ傾きやすい。だが、新井順子プロデューサー、野木亜紀子、塚原あゆ子という強力な布陣が手がけた2018年に放送されたTBS系 金曜ドラマ『アンナチュラル』は、その難しい題材を、ただ刺激的に見せるのではなく、“死と向き合うことは、生と向き合うことだ”と言わんばかりの人間ドラマへと昇華した。

同じ新井プロデューサーの新作、TBS系 金曜ドラマ『田鎖ブラザーズ』では、『アンナチュラル』でもお馴染みの飯尾和樹が出演していることもあり、Netflixなどで配信中の本作に新たに触れる視聴者も多いだろう。

新井順子は放送前コメントで、“法医学とは、死んだ人の学問ではなく、いまを生きる人の学問”という言葉に強く心を動かされたと語っている。『アンナチュラル』が優れているのは、まさにそこだ。遺体を“事件の素材”として扱うのではなく、死因を明らかにすることが、遺族の尊厳を守り、犯罪の見逃しを防ぎ、社会の制度を少しずつでも前に進める行為なのだと、1話ごとに丁寧に積み重ねていく作品だ。

解剖の大切さを事件解決ミステリーで見せる巧さ

物語の舞台は、不自然死究明研究所、通称UDIラボ。石原さとみ演じる三澄ミコトを中心に、法医解剖医、記録員、臨床検査技師、所長らが集まり、運び込まれた遺体の死因を追う。一話完結型の法医学ミステリーであると同時に、そこで働く人々の日常や感情を丁寧に描く群像劇でもある。

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石原さとみ(C)SANKEI

3人の中心人物、ミコト、中堂系(井浦新)、久部六郎(窪田正孝)は、それぞれ遺体への向き合い方がまるで違う。三澄ミコトは合理的で、正義感にあふれる人物で、“理不尽な死”への怒りを持って、社会をより良くするため、残された人々に寄り添いながら遺体の解剖に向き合う。中堂系は解剖実績3,000件のベテランで、かつての恋人を殺した人物を見つけるために、倫理観をかなぐり捨ててしまっている。久部六郎は、アルバイトという立場で、医者を目指しながらも父親との関係で、進路に悩む存在だ。そんな彼は当初は、遺体と向き合うより、生きている人間を治す方が尊い仕事だと思っていたが、ミコトの考えに触れるうち、法医学の大切さに気づいていく。ある意味、視聴者の立場に一番近い存在として、なくてはならない存在だ。

この物語の前提として重要なのが、日本の死因究明体制の脆さだ。作中で言及されているが、日本の変死体解剖率は約12%で、先進国の中でも最低水準にあり、地域によってはさらに低いこと、そして多くの遺体が十分に調べられないまま火葬されている。『アンナチュラル』は、こうした現実を単なる設定として借りるのではなく、“なぜ死因を特定することが社会をより良くするのか”ということまで描くために、遺体から事件の真相を探るミステリーの手法を採用している。

一話完結を基本としながら、シリーズ全体で、中堂の恋人・夕希子の死につながる“赤い金魚”の事件が全体を貫いている。この未解決の連続殺人を遺体の情報から探り当てるという構造が、法医学の重要性をそのまま伝える構造になっているのだ。

そんな本作は、放送から年数を経てもSNS上で称賛され続けている。実際、視聴者の熱量は高く、「至高のドラマ」「私的に超えるドラマはない」といった声が見られるが、それも納得の余韻の深さを持った作品だ。

UDIラボの“全員がいい”と思わせる役者陣の輝き

本作の主役を務める石原さとみは、気品あふれる佇まいでグロテスクな遺体にもおくせず、誠実に向き合う役どころを演じてみせた。プロデューサーの新井順子は、ミコトという主人公を作るにあたって“石原さんの新しい一面を引き出すこと”を意識したと語っているが、その狙いは完全に当たった。ミコトは、明るく機転が利き、言うべきことは言う。しかし、正義感をむき出しにするだけのヒロインではなく、喪失を知っているからこその痛みを抱えている。その軽やかさと陰影を同時に成立させた石原さとみの演技が、このドラマの品位を決定づけたと言っていい。

窪田正孝演じる久部六郎の葛藤も、この作品に欠かせない。どこか醒めた目線を持ち、UDIの内部事情を探る役回りまで背負っている。だからこそ、彼が現場を通して変わっていく過程には、視聴者は共感させられる。この世界へ入っていく手触りがある。久部の迷い、未熟さ、優しさは、視聴者にとって物語の入口になっている。

そして、井浦新の中堂系だ。口も態度も悪く、目的のためには手段を選ばない。にもかかわらず、彼の執念には抗いがたい説得力がある。

脇を固める俳優陣も実にいい。市川実日子の東海林夕子の軽やかさ、松重豊の神倉所長が漂わせる懐の深さ、そうしたUDIラボを取り巻くメンバーたちが、この職場の面白い雰囲気を形つくっており、キツイ現場にもかかわらず“ちょっと働いてみたい”と思わせるのだ。

社会の見落としを拾い上げる作品

『アンナチュラル』は、遺体を扱うドラマでありながら、決して“死”に飲み込まれない。死因を突き止めることが、生者を守ることにつながる。社会の見落としを拾い上げることが、未来を少し良くすることにつながる。そんな誠実な思想が、ミステリーのスピード感、キャストの輝き、会話のうまさと結びついたからこそ、“何度でも見返したくなる作品”になったのだと思う。


ライター:杉本穂高
映画ライター。実写とアニメーションを横断する映画批評『映像表現革命時代の映画論』著者。様々なウェブ媒体で、映画とアニメーションについて取材・執筆を行う。X:@Hotakasugi