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期待を上回る完成度を見せた、春クールドラマ“最大の注目作” ドラマファンが重きを置いた“前例のない”大役

  • 2026.5.2

春クールドラマの中で、最大の注目作と言える東京都知事選挙を題材にした政治ドラマ『銀河の一票』の放送が始まったが、期待を上回る素晴らしい仕上がりだった。

※以下本文に放送内容が含まれます。 

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野呂佳代 (C)SANKEI

 

星野茉莉(黒木華)は与党・民政党の幹事長をつとめる父親の星野鷹臣(坂東彌十郎)の政治秘書として多忙な日々を送っていた。
そんなある日、茉莉は父親が、ある事件に関わっていることを知る。そのことを民政党の若手議員で幼馴染の日山流星(松下洸平)に相談したところ、流星は父親にそのことをリーク。 茉莉は議員秘書を解雇され、家を出ていくことになる。
同じ頃、現職都知事がスキャンダルで辞任し、急遽、東京都知事選挙がおこなわれることとなる。茉莉は偶然知り合ったスナック『とし子』のママ・月岡あかり(野呂佳代)に知事選に出馬してもらうことで、政治の世界に返り咲こうと考える。

第1話では、はじめに政治秘書として働く茉莉の姿が描かれる。ドラマの演出としてはとても抑制された淡々とした見せ方となっていたが、映像に緊張感があるため目が離せない。
そして物語終盤では、茉莉と月岡あかりの出会いが描かれる。印象深かったのが思いつめた茉莉がスナックの客たちの前で、自分が抱えている気持ちを訴える場面。突然、政治の話をされて困惑する客たちの前で、泣きながら話す彼女の言葉に客たちは困惑するが、国民のために正しい政治を行いたいという彼女の気持ちが、痛いほど伝わってくる。
そして、茉莉を心配したあかりが彼女を追いかけて、自分の過去について語る場面は、前半と打って変わってとても劇的で、二人が饒舌に自分の心情を告白する。

政治家の内幕を描く物語のタッチはクールだが、茉莉やあかりが心情を語る姿はとてもエモーショナルで、かなりストレートに作り手のメッセージが打ち出されている。

監督は昨年話題になったドラマ『ひらやすみ』を手掛けた松本佳奈。全体のトーンは淡々としており抑制されているが、心情を描く時は徹底的に突き詰めるという緩急の効いた演出が実に見事だ。
一方、脚本を担当する蛭田直美は、テレビ局の元プロデューサーの政治ジャーナリストが、区議会議員選挙の当選を目指す姿を描いた政治ドラマ『日本一の最低男 ※私の家族はニセモノだった』に参加し、SNSを駆使したポピュリズム選挙の内幕をエンタメとして面白おかしく描く手腕と、庶民の声を代弁する熱い台詞が高く評価された。
その筆致は『銀河の一票』でも健在で、『銀河鉄道の夜』等の宮沢賢治の作品を下敷きにすることで、大人の政治劇に抒情的な味わいを与えることに成功している。

名プロデューサー・佐野亜裕美が手掛ける政治ドラマ

そしてプロデュースを担当している佐野亜裕美は、坂元裕二脚本の連続ドラマ『カルテット』と『大豆田とわ子と三人の元夫』を手掛けた名プロデューサーで、ドラマファンがもっとも新作を楽しみにしているクリエイターの一人である。

佐野は2022年に『17才の帝国』と『エルピス-希望、あるいは災い-』(以下、『エルピス』)という二作の連続ドラマを手掛けている。
『17才の帝国』は、近未来の没落した日本を舞台に、AIに選ばれた少年が地方の実験都市で総理大臣として政治をおこなう姿を描いたSF青春ドラマ。
一方、『エルピス』は女子アナウンサーが、冤罪事件の取材をする中で、政治権力の闇と直面することになるテレビ局を舞台にしたサスペンスドラマ。

ジャンルは異なるものの、どちらも政治を題材にした社会派エンターテインメント作品として高い評価を獲得した。今回の『銀河の一票』も都知事選を描いた物語となっており、政治を題材にした作品となっている。

日本のテレビドラマは、政治を描いた作品が少なかったが、近年はだいぶ状況が変化しており、選挙を題材にした作品も増えている。 近年の選挙はSNSと連動することで、政治家をアイドルのように応援するエンタメとしての側面が注目されている。
おそらく今回の『銀河の一票』も、2024年に盛り上がりを見せた東京都知事選挙から着想を得たのだろう。 今後は、近年のエンタメ化した選挙の実情を踏まえつつ、ドラマならではの切実な心情をつづった政治劇が展開されるのではないかと期待している。

ドラマファンが注目する野呂佳代の優しさと包容力

黒木華と松下洸平を筆頭に本作には実力派俳優が多数出演しており、安定感のある演技を披露しているが、やはり一番気になるのは、月岡あかりを演じる野呂佳代だろう。

彼女はアイドルグループのAKB48、SDN48の元メンバーで、アイドル卒業後は、バラエティタレントとして人気を博していた。 その一方で女優としても活躍しており、近年は『フェイクマミー』や『リブート』といった作品に立て続けに出演。どれも小さな役だが印象に残る芝居を見せており、ドラマファンの間では名バイプレイヤーとして評価が高まっていた。 今回の『銀河の一票』は、野呂にとって、これまでにない大きな役となっている。

コミカルな役を演じることが多かった野呂佳代だが、月岡あかりの芝居はシリアスで、抑制された表情に優しさと包容力が滲み出ており、確かにこの人に都知事になってほしいと思わせる説得力がある。
月岡あかりという大役に抜擢された野呂佳代の、女優としての才能がどこまで開花するのか、とても楽しみだ。


ライター:成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)、『テレビドラマクロニクル 1990→2020』(PLANETS)がある。