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クラゲも人間のように昼寝をする――睡眠の起源は「脳のため」ではない?

  • 2026.1.7
クラゲも人間のように昼寝をする――「脳のため」ではない睡眠の起源とは?
クラゲも人間のように昼寝をする――「脳のため」ではない睡眠の起源とは? / Credit:Canva

イスラエルのバル・イラン大学(Bar-Ilan University, BIU)で行われた研究によって、脳を持たないクラゲとイソギンチャクが、人間とほぼ同じく一日の約三分の一を眠って過ごしていることが示されました。

これまで睡眠の理由は「脳のため」とされていましたが、脳がない動物も寝ることがわかったのです。

また研究ではこれら脳がない動物が寝る理由が「神経細胞のDNAを修復」するためであることが示されています。

クラゲやイソギンチャクなどの刺胞動物が誕生した時代、脳らしい脳を持つ生物は地球には存在していませんでした。

これらの結果は、睡眠の起源は「脳のため」ではなく「神経細胞のメンテナンスのため」として出現した可能性を示しています。

研究内容の詳細は2026年1月6日に『Nature Communications』にて発表されました。

目次

  • 睡眠が「脳のため」なら脳がないクラゲはなぜ眠りるのか?
  • クラゲを寝不足にしたところニューロンのDNAがボロボロになった

睡眠が「脳のため」なら脳がないクラゲはなぜ眠りるのか?

睡眠が「脳のため」なら脳がないクラゲはなぜ眠りるのか?
睡眠が「脳のため」なら脳がないクラゲはなぜ眠りるのか? / Credit:DNA damage modulates sleep drive in basal cnidarians with divergent chronotypes

テスト前に夜更かしをして、次の日に頭がぼんやりした経験は、多くの人にあると思います。

これまでよく語られてきた説明は、「睡眠は脳(brain:情報処理の中心)のため」というものです。

起きているあいだにたまった情報を整理したり、記憶を固めたりする時間だ、という説明はとてももっともらしく聞こえます。

しかし研究者たちは前から、「それだけでは、この行動が“ここまでしぶとく残っている理由”を説明しきれないのではないか」と感じてきました。

眠っているあいだは周りの危険に気づきにくく、捕食者に襲われやすくなるという、大きなリスクがあります。

それでもほとんどの動物が睡眠を手放してこなかった事実は、「睡眠には、命をかけても手放せないほど重要な“何か”がある」と示しているように見えます。

そこで研究者たちは、あえて脳がない動物を調べることにしました。

クラゲやイソギンチャクなどの刺胞動物は、神経系が生まれたごく初期の動物群だと考えられています。

そのためこれらの動物たちには神経はあっても、人間やマウスのような「脳」は存在しません。

そのため、ここで何が起きているかを解きほぐせば、「睡眠はいつ、何のために生まれたのか」を推理するための強い手がかりになります。

そこで研究チームは、「クラゲやイソギンチャクのような“脳なし動物”にも、本当に睡眠があるのか」「もしあるなら、その睡眠は神経細胞にどんな意味を持っているのか」を調べることにしました。

調査にあたってはクラゲ(サカサクラゲ、Cassiopea andromeda)と、イソギンチャク(ヒトデイソギンチャク、Nematostella vectensis)という2種類の刺胞動物の動物の行動パターンを注意深く調べました。

具体的にはクラゲでは、傘のような部分の拍動が1分あたり37回未満のように一定よりゆっくりしか起こらない状態が3分以上続き、イソギンチャクでは8分以上ほとんど動かなくなるタイミングがありました。

さらに興味深いことに、この動きが少なくなるタイミングでクラゲやイソギンチャクを刺激した場合、その反応も鈍くなっていることも判明しました。

「寝ている時には動きがなく、刺激しても反応がない」という状況にそっくりです。

そこで研究者たちはこの状態を、クラゲやイソギンチャクの睡眠であると考え、1日を通じた調査を行いました。

するとクラゲでもイソギンチャクでも、睡眠時間の合計が積もり積もって1日の3分の1程に達することが判明します。

(※細かな昼寝を繰り返して最終的に3分の1に達した感じです)

人間が一般に一日八時間前後眠るのと、ほぼ同じ割合です。

さらに、クラゲは主に夜に眠り、正午ごろに短い昼寝を挟む「昼型」、イソギンチャクは主に日中に眠る「薄明薄暮型(朝夕に動く型)」という違いがあることもわかりました。

1世代前の大学で、クラゲを寝不足にする実験をしたいと言ったら狂人だと思われたかもしれません
1世代前の大学で、クラゲを寝不足にする実験をしたいと言ったら狂人だと思われたかもしれません / Credit:Canva

しかしこの段階では、たとえクラゲやイソギンチャクが寝ているとしても、なんのためであるかは不明です。

そこで研究者たちはクラゲとイソギンチャクに「寝不足」を起こすことにしました。

「クラゲを寝不足にする」
「イソギンチャクを寝かさない」

冷静に考えれば凄い言葉です。しかしその結果は驚きでした。

クラゲを寝不足にしたところニューロンのDNAがボロボロになった

Credit:Canva

クラゲやイソギンチャクを寝不足にしたらどうなるのか?

答えを得るため研究者たちは、彼らが眠りに入りそうな時間帯に水槽の水をゆっくりかき混ぜるなどして、クラゲやイソギンチャクが眠り込むのをさまたげてみました。

すると驚くべきことに、そのあとの時間帯にふだんより長く眠る「リバウンド睡眠」が現れました。

これは、徹夜させると翌日爆睡する人間とよく似たパターンで、「睡眠圧(sleep pressure:眠気のたまり具合)」が存在することを示しています。

ですが一番面白いのはここからです。

研究者たちは、寝不足状態のクラゲとイソギンチャクの神経細胞のDNAの状態を調べました。

すると寝不足にされた個体ではこのDNA損傷を示す数値が増え、十分に眠らせて回復させると基準値に近づいていくことが分かりました。

さらに、「DNAのキズを増やすと眠りがどう変わるか」という反対向きの実験も行われました。

クラゲやイソギンチャクに紫外線を当てたり、DNAを傷つける薬(Etoposide:エトポシド)を与えたりして、神経細胞のDNA損傷を人工的に増やします。

すると、その後の夜や翌日には、どちらの生き物もふだんより長く眠る「回復睡眠」が現れました。

「日焼けしすぎたら寝て直すクラゲ」「徹夜させると翌日爆睡クラゲ」という嘘のような結果が得られたわけです。

一方、睡眠を促す物質(メラトニン)を与えて、本来は起きているはずの時間帯にもウトウト眠るようにした条件では、DNA損傷レベルが低下するという結果が得られました。

「DNAのキズを増やせば眠りが増え、睡眠を増やせばDNAのキズが減る」という明確な関係がえられたわけです。

以上の結果は、睡眠は脳を持つ生物が誕生する前から「神経細胞のDNAのキズ(損傷)を減らす仕組み」として働いた可能性を示唆しています。

人間の脳のような神経細胞は、皮膚細胞や肝臓細胞と違って分裂して再生産するのが苦手であり、多くが生涯を通じて同じものが使われ続ける替えが効かないものです。

そのためどうしてもいったんオフラインにした状態でメンテナンスが必要になります。

無防備になるはずの睡眠が進化の過程で淘汰され地球上が無睡眠動物で覆い尽くされなかったのも「神経細胞のDNAメンテナンス」というどうしても必要な作業がどの動物にもついて回ったからだと考えられます。

神経細胞という仕組みを使っている以上、どれだけ動物が進化しても、文明が発達しても睡眠からは逃れられないのでしょう。

(※睡眠から逃れられるのは「起きている時間=寿命」の超短寿命動物くらいでしょう)

研究を主導したリオール・アッペルバウム氏は、プレスリリースで「睡眠は学習や記憶のためだけでなく、ニューロンを健康に保つためにも重要だ」とコメントしています。

別の研究者は、今回の研究には関与していませんが、「この結果は、睡眠が複雑な脳を管理するために進化したという古いイメージに待ったをかける(釘を打つ)ものだ」と評しています。

ちなみに同じ研究グループは魚(ゼブラフィッシュ)でも、睡眠がニューロンのDNA修復を助ける可能性を報告しています。

人間でも日焼けした後は妙に眠くなるという人がいますが、日焼けによるDNAへのダメージが太古の睡眠スイッチを起動させている可能性もあります。

もしかしたら未来の世界では、「今日はDNAがだいぶ疲れていそうだから、早めに寝よう」「最近、睡眠圧が高いのは神経のメンテが追いついていないからかもしれない」といった会話が、当たり前のように交わされているかもしれません。

クラゲとイソギンチャクという「脳なし動物」から逆算して眠りの意味を見つめ直すとき、徹夜と早寝の選択肢も、少し違った物語をまとって見えてくるのではないでしょうか。

元論文

DNA damage modulates sleep drive in basal cnidarians with divergent chronotypes
https://doi.org/10.1038/s41467-025-67400-5

ライター

川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。

編集者

ナゾロジー 編集部

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