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「1番刺さった」「2025年の傑作」“放送1年後”でも心に残る【NHK夜ドラ】終盤の“理不尽な事実”に衝撃を受けた名作

  • 2026.1.31

2025年1月に放送されたNHK夜ドラ『バニラな毎日』は、大阪の小さな洋菓子店を舞台に、孤独や痛みを抱えた人々が“お菓子作り”を通して静かに心をほどいていくヒューマンドラマだ。派手な展開や明快な答えを用意せず、ただ寄り添うことを選んだこの作品は、放送開始から1年が経ったいまも、甘い香りがするバニラのような優しさを残している。

※以下本文には放送内容が含まれます。

「たった一人のためのお菓子教室」から始まる物語

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蓮佛美沙子 (C)SANKEI

主人公の白井葵(蓮佛美沙子)は、パティシエとして修業を重ね、念願だった洋菓子店を大阪で開いたものの、経営不振により店を閉じることになる。そんな彼女の前に現れるのが、クセの強い料理研究家・佐渡谷真奈美(永作博美)だ。
佐渡谷は、閉店した店の厨房を使い、“たった一人のためのお菓子教室”を開こうと提案する。白井にとっては心の余裕もない状況だが、半ば強引にその流れに巻き込まれていく。

教室の生徒はほぼ毎回入れ替わり、それぞれが重たい事情を抱えている。「自分は人を殺したことがある」と告白する女性や、車いすに乗る高校生など、簡単に言葉にできない過去や痛みが語られることもある。

しかし本作は、それらを劇的に解決しようとはしない。問題に名前をつけたり、分かりやすい答えだけを提示することもない。ただ、お菓子を作り、味わうという時間の中で、言葉にならない感情にそっと居場所を与えていく。その距離感こそが、このドラマの核になっている。

主人公・白井葵の変化と、避けられない現実

物語を通して特に印象に残るのが、白井自身の変化だ。序盤の彼女は、うまくいかない現実に苛立ちを隠せず、人との距離もどこかぎこちない。夢を失った直後の空白を、どう扱えばいいのか分からずにいる。

だが、佐渡谷の奔放さに振り回され、ときに反発し、ときに助けられながら、少しずつ人と向き合う表情が柔らかくなっていく。誰かのために手を動かす時間が、白井自身の心も静かにほどいていくのだ。

そんな中で終盤に描かれたのが、不慮の事故による右手の骨折という出来事である。パティシエにとって致命的とも言えるこの事故は、実は轢かれる直前に誰かが咄嗟に助けていた…なんていう都合の良い展開にはならない。突然で、理不尽な事実に、思わず「えっ」と声が漏れたほどだ。

それでも物語は、そこで終わらない。白井は立ち止まりながらも、自分にできること、自分が進める道を探し続ける。その姿は、“癒やし”を描きながらも、現実から目を逸らさない本作の姿勢を象徴している。

放送から1年が経ったいまも、SNSでは「もう1年前なのか」「1番刺さった作品だった」「個人的には2025年の傑作ドラマ」といった声が静かに上がり続けている。放送当時から派手な話題性に頼ることなく、静かに視聴者の心に届いていた作品だからこそ、ふとしたタイミングで思い出され、言葉にしたくなる人が今もなお現れるのだ。

『バニラな毎日』は、甘さで問題を覆い隠すドラマではない。甘いものの力を借りながら、人の弱さや不完全さと共に生きていく。その控えめで誠実な優しさが、時間が経った現在も、見る人の心にそっと寄り添う居場所になり続けている。


ライター:柚原みり。シナリオライター、小説家、編集者として多岐にわたり活動中。ゲームと漫画は日々のライフワーク。ドラマ・アニメなどに関する執筆や、編集業務など、ジャンルを横断した形で“物語”に携わっている。(X:@Yuzuhara_Miri