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脇役なのに“トレンド入り”「主役を完全に食ってる」4年前の“名バイブレイヤー”代表作、インパクトを残した【月10】

  • 2026.3.17

テレビや新聞が“オールドメディア”と揶揄されるようになって久しい。旧態依然とした組織構造で、フジテレビ事案などに代表されるような不祥事も続発し、マスメディアに対する信頼は落ち続けている。
テレビというメディアはこのままでいいのか。多くの人がそう疑問を抱く時代に、テレビ業界人はどう考えているのか。その疑問に強烈な回答を提示したのが、2022年に放送されたカンテレ・フジテレビ系のドラマ、月10『エルピス―希望、あるいは災い―』だった。

本作は、テレビ局自ら制作したドラマで、現代のテレビ報道のあり方を問うたことで大きな話題となった。報道なのかバラエティなのかわからない番組構成、ハラスメントの起きやすい構造、政治への忖度に冤罪事件など、硬派な社会的課題をエンターテインメントの要素たっぷりに描き出した作品で、ここ数年のドラマの中でも評価の高い1本だ。

過去の冤罪事件とテレビ局の闇がつながる

浅川恵那(長澤まさみ)は、スキャンダルでエースアナウンサーの座から転落し、現在は社内で“制作者の墓場”と揶揄される深夜の情報番組『フライデーボンボン』を担当している。パワハラ・セクハラ気質のチーフプロデューサー村井喬一(岡部たかし)のもとで、不本意ながら仕事をしている彼女のもとに、若手ディレクター岸本拓朗(眞栄田郷敦)から、かつて恵那自身がキャスター時代に報じた事件が冤罪だったのではないかという話が持ちかけられる。

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長澤まさみ(C)SANKEI

ニュースへの復帰を狙う恵那は、その事件を岸本とともに再調査。フライデーボンボンで特集を組み、これが大当たり。最初は上層部もその成績に気分を良くしていたものの、事件の闇は想像以上に深く、政治家からの圧力とテレビ局の忖度体質などによって、幾度も取材は妨害されることに。
そんな中で、恵那に岸本、村井といった一見利己的だが多面性を持つ登場人物たちが、報道とはどうあるべきかを考え、自らの矜持に基づき行動していく。

男女の不平等を感じさせる理不尽な左遷や、視聴率が良ければ掌を返すテレビ局の主体性のなさ。さらに、警察権力による強硬な捜査やマスコミの忖度・偏向報道といった、テレビドラマではあまり正面から扱われない闇が次々と提示されていく。テレビという組織の古くてゆがんだ側面を批判的に描くと同時に、そこに勤める人々の矜持を見せることも忘れていない点が本作の大きな魅力になっている。

真相を考察する要素もありながら、単純な犯人捜しのドラマに終始せず、メディアや報道のあり方を鋭く問いかけ、さまざまな現実の壁に苦闘しながら成長していく登場人物たちが魅力的に描かれた作品で、目頭が熱くなる。

岡部たかしの強烈な存在感

本作の主人公を演じる長澤まさみは、常に緊張感を漂わせる迫真の演技を見せ、放送文化基金賞で演技賞を受賞するなど高く評価された。彼女は男女不平等がまかり通るテレビ局の体質の犠牲者でもあるが、かつて自分が報じた冤罪事件については、加害側ともいえる。そんな複雑な立場の心境を見事に表現してみせた。
もう一人の主役ともいえる眞栄田郷敦演じる岸本は、裕福な家庭で甘やかされて育ったボンボンだ。仕事ができないのに自己肯定感ばかり高い彼が、事件の取材を通して報道マンとして成長していく姿も本作の大きな見どころになっている。

だが、この2人以上に強烈な存在感を発揮している俳優がいる。フライデーボンボンのチーフプロデューサーの村井を演じた岡部たかしだ。
当初はセクハラ・パワハラまがいの言動を見せる嫌な上司だが、物語が佳境に入るにつれて彼の実像が見えてくる。かつては報道番組のプロデューサーとして実直な仕事をしていた彼がどうして、深夜の情報番組で腐っていたのか、その理由がわかってくると、一気に人間味あるキャラクターへと変貌していく。そして、かつて持っていた報道マンとしての誇りを取り戻していく姿に視聴者も大きな共感を寄せた。その抜群のインパクトに、SNSで“#村井さん”がトレンド入りするほどの反響を呼び、「主役を完全に食ってる」というコメントも聞かれたほどだ。

岡部たかしは数々のドラマや映画で名バイプレイヤーとして活躍してきたが、本作での注目度は、彼のキャリアの中でもトップクラスに高いのではないかと思われる。演出の大根仁監督から事前に「この役は岡部さんの代表作になります。その覚悟でやってください」と伝えられていた通り、見事にその期待に応え、周囲の空気を支配してしまっている。

もちろん、名脚本家・渡辺あやと、大根仁監督という強力な布陣が作り出す世界観、そして主演陣の素晴らしいパフォーマンスがあってこそなのだが、岡部たかしの怪演はその中でも際立っている。こういうキャラ立ちした登場人物が一名いるだけで、ドラマは俄然輝きを増すという好例だ。
物語もテーマも、俳優のパフォーマンスも見どころが多い本作。日本のドラマ好きなら確実に見ておきたい1本だ。そして、今のメディアに疑問をいだいている人にこそ是非見てほしい。


ライター:杉本穂高
映画ライター。実写とアニメーションを横断する映画批評『映像表現革命時代の映画論』著者。様々なウェブ媒体で、映画とアニメーションについて取材・執筆を行う。X(旧Twitter):@Hotakasugi