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CA「ご搭乗ありがとうございます」と伝えると→突然、声を荒らげ始める客…その後、発覚した“怒りの理由”とは?

  • 2026.1.29
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出典元:photoAC(※画像はイメージです)

大手航空会社で10年間、CAとして勤務しておりました、ライターのSAKURAです。

空の上という特別な場所、かつ機内という限られた環境で、多くのお客様と接する中で学んだことは「接客は、マニュアル通りでは完結しない」ということです。

昨今では「カスタマーハラスメント(カスハラ)」という言葉が浸透しているものの、理不尽なクレームへの対応に頭を悩ませている方も多いのではないでしょうか。

実は、ほんの少しの「物理的な工夫」で、クレームを未然に防ぎ、お客様との信頼関係を築ける方法があるのです。今回は、私が客室責任者として乗務していた際に遭遇した、あるエピソードから、クレームを呼び起こさないプロの技術についてお話しします。

「完璧な接客」が通用しない瞬間

それは、ある国内線での出来事でした。

その便には、頻繁にご搭乗いただいている常連のA様(仮名)がいらっしゃいました。しかしその日のA様は、搭乗された瞬間から眉間にしわを寄せ、手荷物を整理している動作も荒々しく、明らかに「虫の居所が悪い」ご様子でした。

担当したのは、普段から丁寧な接客に定評のある後輩CAのB子(仮名)です。彼女はいつも通り、プロとして完璧な笑顔と美しいお辞儀で、A様の正面からご挨拶に向かいました。

「いつもご搭乗ありがとうございます」

マニュアル通りの、非の打ち所がない対応です。しかし、B子の姿を目で追っていた私は、直感的に危機感を覚えました。

次の瞬間、A様の感情が爆発しました。挨拶を受けたA様は、みるみる顔を赤くし、声を荒らげ始めました。

B子は動揺し、必死に謝罪を重ねますが、それが逆にA様の苛立ちを加速させてしまいます。彼女の対応は決して間違っていません。しかし、人の心理とは複雑なもので、時に「正しさ」が相手を追い詰めてしまうことがあるのです。

真正面は「対決」、斜め横は「共感」

私はすぐにB子を下がらせ、A様の対応に入りました。

この時、私が変えたのは言葉選びではありません。「物理的な立ち位置」です。

B子はA様の「真正面」に立ち、視線を合わせていました。私の経験上、興奮されているお客様の真正面に立つと、無意識のうちに『対決』の構図を作ってしまい、かえって圧迫感を与えてしまうケースが多いように感じます。

私は、A様の斜め横、角度にして45度くらいの位置に身を置きました。そして、視線を直接合わせず、A様と同じ方向を見るようにして、低めのトーンで声をかけました。「何か、お手伝いできることはございませんか」

これは「対峙」ではなく「並走(寄り添い)」の形です。「敵」として正面に立つのではなく、「味方」として横に並ぶ。ただそれだけで、相手の警戒心は驚くほど解けます。 するとA様は、ふっと肩の力を抜き、「……いや、来る途中で事故渋滞に巻き込まれてね。イライラして悪かった」と、本音を漏らしてくださったのです。

一通り話を聞き終える頃には、A様の表情は穏やかになっていました。

そして、フライトの終盤、落ち着きを取り戻したA様は、B子を呼び止め「さっきはごめんね。八つ当たりしてしまったよ」と、謝罪されたのです。

この出来事は、B子の対応が悪かったわけではありません。ただ、その時のA様には「正面からの挨拶」、いわば「正論」が重すぎただけなのです。

マニュアルを超えた「プロの距離感」

接客に絶対の正解はありません。

しかし、相手の感情に合わせて「物理的な距離や角度」を数センチ変えるだけで、敵対関係を信頼関係に変えることができます。

マニュアルには書かれていない、空気と間合いを読む力。それこそが、「プロの接客術」だと私は思っています。


ライター:SAKURA * 心を読む元国際線CA

日系大手航空会社にて10年間、客室乗務員(CA)として勤務。国内線・国際線を経験し、多種多様なお客様と接する中で「感情を読み解く力」を磨く。客室責任者としてVIP対応や後輩育成に携わる傍ら、社内の人材教育やグループ会社での業務にも携わり、多角的な視点から接客のあり方を見つめてきた。

現在は、その鋭い洞察力を活かし、言葉だけでない、「心理的・物理的アプローチによるクレーム回避術」を発信するライターとして活動中。国内線での細やかな気配りから国際線での難しい状況判断まで、現場での実体験に基づいた「心に届く接客のヒント」を言語化し、接客業にとどまらず、人と人とがよりよい関係を築けるサポートをしている。