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パリコレで芽吹く5つの才能に注目。モードの未来を形づくる新世代ブランド

  • 2025.12.22
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近年、パリにはかつてないほど多様なクリエーションが集まりつつある。 ラグジュアリーメゾンが最新の物語を掲げ、アンダーグラウンド発のクリエイターが世界へ飛び出し、そして若手ブランドが鋭い感性で次の時代を指し示す——。あらゆる声が同じ週に、同じ街の光の下で響き合うのが、いまのパリコレだ。

「ゾマー」2026年春夏コレクションより launchmetrics.com/spotlight

2026年春夏シーズンもその傾向はより鮮明だった。ビッグメゾンの話題の陰に隠れるどころか、むしろ未来のモードの兆しを最前線で示していたのは、独自のビジョンを貫く新世代ブランドたちだ。 ランウェイの規模や予算に関係なく、彼らの提案にはシーズンの空気を一変させるほどの鮮烈さがあった。ここでは、パリコレの次の主役となり得る5ブランドを紹介したい。

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メリル ロッゲ(MERYLL ROGGE)

Daniele Oberrauch / LAUNCHMETRICS SPOTLIGHT
Daniele Oberrauch / LAUNCHMETRICS SPOTLIGHT

ベルギー出身のメリル・ロッゲは、2025年ANDAMアワードのグランプリ獲得に加え、今年は「マルニ」の新クリエイティブディレクター就任、さらにニットブランド「B.B.ウォレス」の立ち上げと、多方面で存在感を高めるデザイナー。

多忙な状況のなかで彼女が今季掲げたキーワードは“軽さ”。アメリカのカルト界のミューズ、クッキー・ミューラーの自伝から得た「自由でしなやかな生き方」がコレクションの精神となっている。

Daniele Oberrauch / LAUNCHMETRICS SPOTLIGHT
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2026年春夏コレクションでは、ランジェリー風スリップにトレンチを重ねたスタイルを冒頭に据え、日常と非日常を軽やかに横断。途中に挿入されたウエディングドレスも人生の一場面として扱われ、重さよりも流動性が選ばれた。

Daniele Oberrauch / LAUNCHMETRICS SPOTLIGHT
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ほかにも短くカットしたスラックスやバンドTのリメイク、初のボートシューズ、「ウッターズ&ヘンドリックス」とのコラボジュエリーが登場し、メリルらしい構築力と遊び心が凝縮されたシーズンに。その自由な発想と軽やかな構築力は、「マルニ」という大舞台でどんな物語を描くのか、次章への関心を自然と引き寄せる。

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ホダコヴァ(HODAKOVA)

launchmetrics.com/spotlight
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スウェーデン出身のエレン・ホダコヴァ・ラルソンは、2024年に若手の登竜門と知られるLVMHプライズ受賞後、パリの舞台でいま最も注視される若手デザイナーだ。

彼女が今季見つめたのは“雨”という象徴だった。「雨はものが再生する瞬間」と語る彼女は、LVMHプライズ受賞後、循環の哲学をより建築的なアプローチへと深化させている。

launchmetrics.com/spotlight
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2026年春夏シーズンは、捨てられた傘の骨を外骨格のように組み上げたシュラッグやスカート、古いテーブルクロスを手仕事でプリーツに仕立てた白ドレス、ジッパーの一片一片を刺しゅうとして積み重ねたメタリックドレスなど、素材の記憶が息づくルックが並んだ。

launchmetrics.com/spotlight
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さらにスウェーデンのわらぶき職人との協働によるストローの造形がフィナーレに登場し、再生と建築の境界を軽やかにまたぐ存在へ。雨のように静かで、確かに強いコレクションを披露した。再構築の精神と造形の実験性が一層研ぎ澄まされ、デザイナー自身のビジョンが次の段階へ進もうとしているのをはっきりと感じさせた。

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パロマ ウール(PALOMA WOOL)

Antoine Flament / Getty Images

バルセロナ発の「パロマ ウール」は、アートと日常がゆるやかに溶け合うブランド。ヨーロッパ主要国のセレクトショップで軒並み売り上げ上位に入り、各国のポップアップでは長蛇の列を生むなど、いま欧州で特に高い人気を確立している。

そんなスペイン人デザイナー、パロマ・ラナが今季挑んだのは、「温暖化の時代にニットをどう着るか」という問いのアップデート。

Antoine Flament / Getty Images
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パリの会場では、子どもが床のライトを点灯させながら歩く演出が、ブランド特有の柔らかな世界観を映し出した。ルックは初期2000年代のミニマリズムを思わせ、透明ニットの下で光るスパンコールや、ブルーとグリーンのインナーがにじむ二重構造が静かな奥行きをつくる。

Antoine Flament / Getty Images
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今年第2子を迎えた彼女は、ベビー服由来のサイドボタンをシャツやポロに応用し、生活のディテールをモードへ翻訳。日常とアートを行き来する視点がいまの空気と鮮やかに重なり、ブランドが次のステージへ歩み出す確かな手ごたえを残した。

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ゾマー(ZOMER)

launchmetrics.com/spotlight
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アムステルダムを拠点とするデザインデュオ、ダニアル・アイトウガノフとイムルー・アシャによる「ゾマー」は、2025年にANDAMとLVMHプライズの双方でファイナリストに選出された、新世代を象徴する存在だ。

ストリートとユースカルチャーを再編集する軽やかな感性と、常にユーモアを利かせた姿勢がブランドの核にある。2026年春夏コレクションは“growing up and blowing up”と題して、成長と爆発のあいだを揺れ動く感覚をテーマに据えた。

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Daniele Oberrauch / LAUNCHMETRICS SPOTLIGHT

ショーには、チェリーレッドやレモンイエローの巨大ベルト、身体を留める特大ヘアクリップ、二重ウエストのスカートやドレスに早変わりするスカートなど、誇張と遊びを両立したルックが続々と登場した。

launchmetrics.com/spotlight
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70年代調のブラウン×オレンジ×ブルーのストライプ、フローラル×カモフラのミックスなど、自由な着崩しの美学も健在だ。会場中央には巨大なメークパレットが置かれ、モデルが色の水たまりを踏んで歩く演出がランウェイをキャンバスへと変えた。

最後には、デザイナーデュオの代わりに犬2匹がフィナーレに登場し、会場には笑いが巻き起こった。大胆さとユーモアを武器に、次はどんな風に常識を裏返してくるのか——そんな予測不能さこそが「ゾマー」の最大の魅力だ。

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ルオハン(RUOHAN)

Courtesy of Ruohan / LAUNCHMETRICS SPOTLIGHT

2023年春夏からパリコレに参加する「ルオハン」は、控えめなたたずまいの裏側に、緻密な構築と素材の吟味が潜むブランド。

Courtesy of Ruohan / LAUNCHMETRICS SPOTLIGHT
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中国出身のデザイナー、ルオハン・ニーはニューヨークの名門パーソンズを卒業後、「ザ・ロウ」など複数ブランドで経験を重ね、2021年に自身の名を冠したブランドを設立。以来、その静ひつでタイムレスな美学が評価されてきた。2026年春夏では、シーズンを巡る旅の第2章として、夏の夜のブルーの陰影と、終わりのない季節のリズムに着想を得ている。

どのルックも繊細でありながら芯がある。ワックスを含ませたキュプラなど、コーティング素材で柔らかな布にあえて形を与える手法が、静けさの中に確かな強さを宿す。

Courtesy of Ruohan / LAUNCHMETRICS SPOTLIGHT
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ニットではカシミヤ、モヘア、シルクを重ね、不均一なラインが浮遊する糸のように揺れる表情をつくり出した。これは詩人カール・アンドレの反復の美学に触発されたもので、ギフトとして配られた“hope”の穴をあけたテープ入りのオルゴールにもその思想が重なる。

さらに、メタルワイヤで編み上げたバッグはバリ旅の記憶から生まれたもの。静ひつな美学の奥に潜む革新性がより進化を遂げ、ブランドの未来が力強く開けていくのを感じさせた。

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