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【田園日記~農と人の物語~ Vol.27】冬から春にかけ、幅広で肉厚になる「鹿沼にら」

  • 2025.12.16

農にまつわるリアルを伝えるドキュメンタリー連載。情熱をもって地元で「農」を盛り上げる「人」にスポットを当て、いま起こっているコトをお届けします。今回訪れた栃木県鹿沼市は、ニラの通年出荷において東日本を代表する産地。この地で、春に苗を植え、冬から翌年秋まで長期間収穫を継続する生産者・津久井宏さん(61)を訪ねました。





厳冬期こそ、柔らかくて甘~い

冬の季節、標高二〇〇〇メートル級の白い峰々が連なる日光連山。その雄大な姿を望む鹿沼市などの上都賀地域は、東日本一のニラ生産量を誇る。

この地で通年出荷されている「鹿沼(栃木)にら」は、冬から春にかけてもっとも幅広で肉厚な葉を勢いよく伸ばし、甘さを増す。

JAかみつが鹿沼にら部副部長の津久井宏さんは、十二月初めの寒空の下、まだビニールで覆っていないパイプだけのハウスで育つニラを指して話す。

「ここに生えているニラは、春に苗を植えたものです。もう寒いので、ビニールで覆い保温しなくてはなりませんね。今生えている葉をいったん全部刈り取って捨て、新しく出てきた新葉を“一番ニラ“として初収穫します」

夏に暑さなどで傷んだ葉はすべて捨て刈りし、きれいな瑞々しい新葉だけを出荷するというわけだ。この厳寒期に出回る一番ニラは、年間でもっとも食べごたえがあり、とくに太った白い軸の部分が柔らかくて甘い。



ところでニラ栽培は大きく分けて二年一作の「関東型」と、一年一作の「西日本型」の二種類がある。

鹿沼にらは、もちろん関東型。五~六月に苗を植えてじっくり株を充実させ、十二月から約一年間、繰り返し収穫したあと、三年めの春、新しい苗に植え替える。

一方、西日本では温暖な気候を生かし、春に植えた苗なら夏ごろから収穫し、翌春には新しい株に植え替える。

「ニラは刈り取ったあとの株から、次々に新葉が伸びます。冬から翌年秋まで八~十回収穫できます。しかし、だんだん株の力が弱くなってくるので、収量、品質低下を招かないよう、定期的に新しい苗に切り替えるんです」





栃木の気候はニラ栽培にうってつけ

鹿沼市は比較的温暖で日照量もあるが、冬は内陸性気候で氷点下一〇度ほどに冷え込むこともある。この気候が、鹿沼にらの品質を守るうえでとてもたいせつだと、津久井さんは続ける。

「ニラは気温が五度以下の寒さになると、休眠に入ります。すると茎葉の糖などが地下部に転流して、蓄積されます。この仕組みを利用して、株をできるだけ充実させてから収穫を始めるのが、関東型の栽培の特徴です」

もしも寒さに当たる日数が足りず、根に養分が十分に貯蔵されないうちに収穫を開始すると、株のスタミナが長続きせず、早い時期からの品質低下につながってしまう。

収穫開始の目安は、気温五度以下で五百時間。つまり、秋からほどよく冷え込む栃木県の内陸性気候は、関東型のニラ栽培にぴったりなのだ。



しかし、近年はなかなか気温が下がらず、収穫開始が遅れる傾向にあるという。とはいえ、出荷を遅らせるわけにはいかない。夏季は収穫を一時的にストップし、株を休ませる生産者もいる。

「夏季に収穫を止めると、ふたたび株が元気になって品質を取り戻せます。その間、収穫がとだえないように夏向きの品種を組み合わせて、栽培している生産者も増えています。最近では、亜リン酸を用いた栄養転流を促す技術も導入されています」

またニラは、イチゴなどに比べて耐寒性があるため、ボイラーなどでの加温は必要ない。
厳冬期には保温のためにパイプハウスを二重被覆。

さらにその内部に、小トンネルを組み合わせた三重被覆にすることで、冬にも出荷ができる。あとはハウス内の気温が、五度を下回らないように管理していく。



通年収穫できるから、経営的にも安心

長期にわたって繰り返し収穫するニラ栽培は「いかに根を張らせ、株を充実させるかが重要」と津久井さん。

そのため肥料のバランス調整はもちろん、県内の養豚農家から仕入れる豚ぷん堆肥を数年ねかせ、完熟させてから使用している。

さらに定植前には、圃場を深さ五十センチまで深耕している。これは、地中の硬盤層を破砕することが目的だという。透水性、排水性を向上させ、土中の空気量を増やすことで、ニラの根がスムーズに伸びる。



ニラ栽培の魅力は、通年収穫できること。
そして比較的余裕を持って収穫できることだと、津久井さん。

「栃木県で有名なイチゴと比べると、ニラは“ぜったいに今日収穫しなければ傷んでしまう“ということがありません。ロスが出づらく、年間を通し安定して、少しずつでも収入を得られる点で経営的にも安心感があります」

栄養価が高く、スタミナ野菜としても知られる「鹿沼にら」。
日光連山からの伏流水に恵まれた土地で、生命力みなぎる葉を勢いよく、一年中、何度も伸ばしていく。



※当記事は、JAグループの月刊誌『家の光』2025年3月号に掲載されたものです。

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