「授業参観に来ないで」と訴える娘。理由を聞いても教えてくれない…こっそり見に行った結果【短編小説】

本記事はフィクションです。物語の登場人物、団体、名称、および事件はすべて架空のものであり、実在のものとは一切関係ありません。

「授業参観に来ないで」と言う娘

「授業参観に来ないで！」

今朝、ランドセルを背負った娘が玄関先で突然立ち止まり、そう訴えてきました。
私はその剣幕に圧倒され、持っていた水筒を落としそうになりました。

理由を聞いても、娘はブンブンと首を横に振るばかり。
「嫌いだから」とも「恥ずかしいから」とも言いません。
ただ必死に、懇願するように「絶対ダメなの」と繰り返すのです。
いつもなら「ママ、一番後ろで見ててね！」と笑顔で手を振ってくれるのに、一体どうしたというのでしょうか。

娘を送り出した後も、私の動悸は治まりませんでした。
もしかして、学校でいじめられているの？ それとも、私に見られたくないような悪いことをしてしまって、先生に怒られる場面を見せたくないの？
悪い想像ばかりが膨らみ、仕事も手につきません。
悩み抜いた挙句、私は「こっそり見に行く」という決断をしました。
娘との約束を破ることにはなりますが、親として緊急事態を確認しないわけにはいきません。

学校に着くと、私は他の保護者の方々の影に隠れるようにして、廊下の隅に立ちました。
教室の後ろのドアの隙間から、そっと中の様子を伺います。
授業は「国語」でした。黒板には「私の宝物」というテーマが書かれています。

娘が発表した内容

ちょうど、娘の番が回ってきました。
娘は教壇に立つと、持っていた作文用紙をギュッと握りしめ、震える声で読み始めました。

「私の宝物は、お母さんが毎日作ってくれるお弁当です」

えっ……。
予想外の言葉に、私は息を呑みました。
娘は続けます。
「お母さんはお仕事が忙しいのに、毎朝早起きして、私の好きな卵焼きを作ってくれます。本当はもっと寝ていたいと思うのに、私のために頑張ってくれます」

読み進めるうちに、娘の声が詰まり、鼻をすする音が聞こえてきました。
「私は、そんなお母さんが大好きです。」

最後の一言に、教室中が温かい笑いと拍手に包まれました。
娘が「来ないで」と泣いた理由。
それは、私のことを拒絶したわけでも、いじめを隠したかったわけでもありませんでした。
ただ、お母さんへの感謝を読みながら泣いてしまう自分の姿を、私に見られるのが恥ずかしかっただけなのです。

廊下の影で、私もまた、涙を堪えるのに必死でした。
娘の健気な嘘と、そこに込められた深い愛情を知り、胸がいっぱいです。
今日は家に帰ったら、約束を破って見に行ったことは内緒にしたまま、大好物のハンバーグを作って娘を力いっぱい抱きしめてあげようと思います。

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