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32年前、恋人たちの季節に響いた“媚びない美しさ” 過剰な演出を拒み20万人が愛した“凛とした一曲”

  • 2026.2.23
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※Google Geminiにて作成(イメージ)

1994年という年は、音楽シーンが巨大なうねりを見せていた時代。街にはきらびやかな電子音が溢れ、テレビをつければ華やかな映像が飛び込んでくる。そんな喧騒の裏側で、バレンタインデーという特別な日に、ある1枚のシングルがそっと、しかし力強く世に放たれた。

KIX-S『LOVIN' YOU』(作詞:浜口司・作曲:安宅美春)――1994年2月14日発売

派手な演出や過剰なデコレーションを削ぎ落とし、ただ純粋に「音」と「声」だけで勝負を挑んだこの楽曲。それは、当時のリスナーたちが心のどこかで求めていた、嘘のない手触りを感じさせる一曲だった。

削ぎ落とされた音色が描き出す真実

KIX-Sというユニットは、当時からどこか孤高の響きを纏っていた。ボーカルの浜口司とギターの安宅美春。この二人による最小にして最強のユニットが生み出す音楽は、女性デュオという既存の枠組みを軽々と飛び越え、ハードロックのダイナミズムとポップスの繊細さを共存させていた。

その真骨頂ともいえるのが、この『LOVIN' YOU』だ。イントロから響くギターの音色は、冷たく澄んだ冬の空気によく似合う。空間を活かしたアレンジが、曲全体に凛とした緊張感を与えている。

浜口司が紡ぐ言葉は、飾らないからこそ胸に深く刺さる。彼女のボーカルは、甘く囁くようなスタイルではなく、芯の通った力強さと、消え入りそうなほどに美しい憂いが同居している。その歌声が安宅美春の情熱的なメロディと重なったとき、単なるラブソングは、聴く者の「個」の記憶に深く結びつく特別な物語へと姿を変える。

この楽曲の完成度を決定づけたのは、編曲を担当した葉山たけしの手腕だ。1990年代のヒットチャートを席巻した数々の名曲を手がけてきた彼が、KIX-Sの持つポテンシャルを最大限に引き出した。

ギターの歪み具合、ドラムの重み、そしてボーカルを際立たせるための引き算の美学。それらが見事に調和し、「歌を聴かせるためのロック」というひとつの完成形を作り上げている。当時、この曲が20万枚を超えるセールスを記録した事実は、技術と情感が結びついた良質な音楽が、いかに人々の心に深く浸透するかを証明している

記憶の底で鳴り続ける希望の旋律

30年以上の月日が流れ、あの頃の若者たちも、それぞれの人生を歩み、多くの出会いと別れを経験してきた。忙しない日常の中で、かつて愛した音楽を聴き返す機会は減ってしまったかもしれない。

それでも、ふとした瞬間に『LOVIN' YOU』のメロディが脳裏をよぎる。それは、ただ懐かしいからだけではなく、あの曲が当時の私たちの背中を、言葉にならないほどの強い力で押してくれていたからだ。

夜の帳が下りる頃、一人でこの曲に耳を傾けてみてほしい。かつての記憶が鮮やかに蘇り、冷え切った心にそっと火が灯るのを感じるだろう。音楽とは、時間が経てば経つほどにその価値を増す、目に見えない贈り物なのだ。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。