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35年前、軽快ポップで放たれた“友だち以上恋人未満”の境界線 名前をつけない想いとは

  • 2026.1.5
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※Google Geminiにて作成(イメージ)

1991年初頭。バブルの余韻がまだ街に残りつつも、人々の感情は少しずつ内側へと向かい始めていた。派手さよりも、距離感や沈黙の意味を意識する空気。そんな時代の隙間に、静かに差し込んできた1曲がある。

PSY・S『Friends or Lovers』(作詞:松尾由紀夫・作曲:松浦雅也)――1991年2月10日発売

問いかけるようなタイトルは、そのまま当時の感情を映し出していた。恋人なのか、友達なのか。そのどちらにも決めきれない関係性を、軽やかで洗練されたポップスに落とし込んだこの楽曲は、派手な主張をせず、聴き手の心にそっと居場所を作るように存在していた。

境界線を描き続けたユニット、PSY・S

PSY・Sは、ボーカルのCHAKAと、作曲・編曲を手がける松浦雅也によるユニットだ。80年代から90年代初頭にかけて、日本のポップスに都会的で知的な風を持ち込んだ存在として知られている。

『Friends or Lovers』は、そんなPSY・Sの持ち味が端的に表れた楽曲だ。松尾由紀夫による歌詞は、感情を説明しすぎることなく、あくまで関係性の輪郭だけを示す。松浦雅也のメロディは、派手な起伏を避けながらも、一定の緊張感を保ったまま進行していく。

TBS系ドラマ『ママって、きれい!?』の主題歌として起用されたこともあり、日常の延長線上にある感情と、この曲の空気感は自然に重なっていった。

言い切らないことで生まれる余白

この曲の最大の魅力は、感情を「定義しない」姿勢にある。恋とも友情とも言い切らない。その曖昧さを、否定も肯定もしないまま提示することで、楽曲には独特の余白が生まれている。

サウンドは洗練されていながら、決して冷たくはない。シンセサウンドは軽やかで、リズムも過度に前に出ない。CHAKAのボーカルもまた、感情を押し付けることなく、一定の距離を保ったまま旋律に身を委ねている。

だからこそこの曲は、聴く人それぞれの関係性や記憶を自然と映し込む器になった。

誰かとの曖昧な距離。名前のつかない感情。そのどれもを否定せず、ただ「そういう時間もある」と受け止めてくれる。

90年代初頭という時代との接点

1991年という時代は、音楽シーンにおいても大きな転換点だった。派手なヒット曲が並ぶ一方で、より内省的で、空気感を重視した作品も求められ始めていた。

PSY・Sの音楽は、そうした流れの中で、トレンドに迎合することなく、自分たちの美意識を貫いていたユニットでもある。『Friends or Lovers』は、その姿勢がもっとも自然な形で結実した1曲と言えるだろう。

ドラマの物語を過度に説明することもなく、主題歌として前に出すぎることもない。それでも、エンディングに流れるたび、視聴者の心に静かな余韻を残していった。

名前をつけない想いが、今も残る理由

時代が進み、関係性を言語化する言葉は増えた。それでも、人と人との間に生まれる感情のすべてが、明確に整理できるわけではない。『Friends or Lovers』が今も色褪せないのは、その「整理しきれなさ」を肯定しているからだ。

答えを出さなくてもいい。曖昧なままでも、その時間には確かな温度があった。そんな感覚を、この曲は今も変わらず伝えてくる。35年経った今、改めて聴き返すと、あの頃よりも少しだけ、この曲の優しさが身に染みる。

距離を測りながら過ごした夜の記憶とともに、この曲は静かに、これからも鳴り続けていくのだろう。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。