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ゾウの腸内で作られるコーヒー豆「ブラック・アイボリー」、風味の秘密を解明

  • 2025.12.1
Credit:Generated by OpenAI’s DALL·E,ナゾロジー編集部

アジアゾウの腸内発酵を経て生産される希少なコーヒー豆「ブラック・アイボリー」

その風味は苦味が弱く、独特のまろやかさと香りを生み出すことが知られています。

しかし、そうした独特の風味がどのように生まれるのかは、長らく科学的に謎のままでした。

今回、東京科学大学(Science Tokyo)の研究チームは、ゾウの腸内で働く“微生物”に注目し、独特の風味を生み出すメカニズムの一端を初めて明らかにしました。

「ゾウが作るコーヒー」は、動物と微生物と植物が絡み合う、思いがけない発酵の世界だったのです。

研究の詳細は2025年11月18日付で科学雑誌『Scientific Reports』に掲載されています。

目次

  • アジアゾウの腸内で発酵させるコーヒー豆とは?
  • 研究成果と社会的インパクト

アジアゾウの腸内で発酵させるコーヒー豆とは?

コーヒーは、豆の種類や焙煎だけでなく、「加工工程」によって味が大きく変化する飲み物です。

果肉を洗って処理するウォッシュト、自然乾燥するナチュラルといった製法が知られていますが、なかには動物の消化管を通過する特殊なタイプもあります。

その代表例が、インドネシアの「コピ・ルアク」です。

これはジャコウネコの腸内を通過することで、豆表面の成分が分解され、独特の柔らかな風味が生まれるとされてきました。

そしてタイ北部の一部農園で生産される「ブラック・アイボリー」も同様に、アジアゾウが食べたコーヒーチェリーの“ふん”から採取されます。

ただし、その味がどのような化学変化で生まれているのかは、これまで科学的に検証されていませんでした。

ブラック・アイボリーの豆/ Credit: ja.wikipedia

研究チームは、過去にコピ・ルアクを対象にジャコウネコの腸内細菌を解析し、特定の細菌が豆表層の成分を分解する可能性を見いだしていました。

この知見を踏まえ、「ゾウでも同じ現象が起きているのではないか」という疑問が生まれます。

さらに近年、腸内微生物が食品の発酵や香り成分の変化に大きく関わることが明らかになりつつあり、「動物の腸内で発酵が起き、味の変化を生む」という視点が注目されはじめていました。

アジアゾウは草食性で、植物細胞壁を分解する能力をもつ微生物と共生していることも知られています。

この点から、チームは「ゾウの腸内環境は、コーヒー豆の成分を変化させるのに適しているのではないか」と考えました。

こうした背景のもと、アジアゾウがコーヒーチェリーを食べた後のふんを採取し、腸内細菌の種類や働きを分析することに。

目的は、ゾウ特有の腸内微生物がコーヒーの味わいに与える影響を科学的に突き止めることでした。

研究成果と社会的インパクト

分析の結果、ブラック・アイボリーを生み出すゾウの腸からは、通常のゾウとは大きく異なる微生物の構成が見つかりました。

特にアシネトバクターなどの細菌が有意に増えており、これらはコーヒー豆の表面にも存在し、ペクチンと呼ばれる植物成分の分解に関与することが知られています。

さらに遺伝子解析により、ゾウの腸内細菌が、ペクチンやセルロースを分解するための酵素遺伝子を多数保持していることが判明。

ペクチンはコーヒー豆の外層に多く含まれる成分で、苦味や雑味に影響することが知られています。

【アジアゾウの腸内発酵で生産されるコーヒー豆の図解がこちら

また、先行研究では、コーヒーを加熱した際に生じる揮発成分「2-フルフリルフラン」が、ゾウの消化管を通った豆では減少することが分かっています。

この化合物は焦げや苦味に関連することから、腸内微生物によるペクチン分解がこの成分の減少につながっている可能性が高いとチームは指摘しています。

これらの結果が示すのは「ゾウの腸内細菌がコーヒー豆を発酵させ、その化学組成を変化させている」ということです。

つまり、ブラック・アイボリーの“まろやかな風味”は、ゾウの巨大な消化器官と、その中で働く微生物の発酵作用が生み出した自然のプロセスなのです。

微生物による発酵は、味噌やチーズなど人間の食文化でも重要な役割を果たしていますが、その発酵の場が「動物の腸内」であるという点は非常にユニークです。

チームは、こうしたメカニズムを分子レベルで理解することで、食品科学や発酵研究に新しい方向性が生まれると期待しています。

「どんな味がするのか飲んでみたい」と思う方はたくさんいるでしょうが、残念なことに、ブラック・アイボリーは値段が非常に高いため、気軽には手を出せなさそうです。

参考文献

ゾウの腸内細菌がコーヒー豆を発酵し味を変える可能性
https://www.isct.ac.jp/ja/news/29vpx49wefch

元論文

Preliminary study of gut microbiome influence on black Ivory coffee fermentation in Asian elephants
https://doi.org/10.1038/s41598-025-24196-0

ライター

千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。

編集者

ナゾロジー 編集部

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