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「家賃1ヶ月タダ物件」飛びついた客が、退去時に青ざめるワケ。不動産会社が明かす、契約書に隠された“注意ポイント”

  • 2025.12.14
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出典:photoAC(写真はイメージです)

初期費用が抑えられる魅力的なフリーレント物件。しかし、退去時に思わぬ高額な請求が発生し、困ってしまうケースが少なくありません。なぜそんなトラブルが起きてしまうのでしょうか?

その原因のひとつは、契約書の「特約事項」にある短期解約違約金の仕組みが十分に理解されていないことにあります。

この記事では、不利になりやすい契約の細かいポイントと法的な注意点を合同会社ゆう不動産 代表 岩井佑樹さんに詳しく伺いました。フリーレント物件で賢くトラブルを防ぐための必須の知識をすべて解説します。

特約事項の見落としがちな危険:短期解約違約金の基本

---フリーレント物件の契約書にある短期解約違約金の条項、具体的にどんな内容が多いのでしょうか?入居の際に注意すべきポイントは?

岩井佑樹さん:

「フリーレント物件の契約書にある『特約事項』で、特に多いのが短期解約違約金に関する条項です。

ただ、この部分は入居者にとって不利になりやすいにもかかわらず、重要性に気づかれないまま見落とされてしまうことが少なくありません。

2年契約の場合の典型例としては、『1年未満で解約した場合は賃料2ヶ月分を違約金として支払う』『1年以上2年未満の場合は賃料1ヶ月分を支払う』といった内容がよく見られます。契約書の中では当たり前のように書かれていますが、入居時点では深く考えないまま署名してしまう方が多いのが実情です。

特に注意したいのが、『解約理由を問わず』と記載されているケースです。転勤や病気、家族の事情など、本人にとってはやむを得ない事情があっても、無条件で違約金の対象になると受け取られてしまいがちです。

ただし、実際にはその条項が必ずしも法的に有効とは限りません。しかし契約書には強い言葉で明記されているため、後になって『そんな説明は受けていない』と感じても、書面が優先されてしまうのが現実です。」

違約金とフリーレント返還のダブル請求に要注意

---違約金だけでなく、フリーレント返還が重なって請求されることがあると聞きます。これはどんな仕組みで起こるのでしょうか?

岩井佑樹さん:

「さらに見落とされやすいのが、『違約金』と『フリーレント返還』が重なって請求されるケースです。

本来であればどちらか一方にすべき内容でも、『違約金として家賃2ヶ月分+フリーレント1ヶ月分の返還』といった形で併記されているケースもあります。これは入居者にとってかなり不利な条件ですが、契約書の末尾の目立たない特約欄に小さく書かれているため、説明を受けても記憶に残らないことが非常に多いです。

フリーレント物件で本当に見落とされやすいのは、『この契約では、最終的にどこまでお金がかかるのか』という全体像です。初期費用が安く見えることに目が向きがちですが、退去時のリスクが契約書の奥に埋もれてしまっている点こそが、最大の落とし穴だといえます。」

短期解約違約金は必ずしも有効ではない:法律の視点から

---契約書に違約金の条項が書いてあれば絶対に支払わなければならないのでしょうか?法律的にはどう判断されますか?

岩井佑樹さん:

「結論から言うと、短期解約違約金の特約は、内容しだいで『有効になる場合もあれば、無効になる場合もある』というのが実際の扱いです。

契約書に書いてあるからといって、すべてが自動的に有効になるわけではありません。判断の軸になるのは、主に消費者契約法と、これまで積み重なってきた裁判の考え方です。

消費者契約法では、『事業者が一方的に消費者の利益を害する条項』は無効になる可能性があるとされています。たとえば、フリーレントが1ヶ月だけなのに、違約金として家賃3ヶ月分を請求するようなケースは、バランスを欠いた『過大な損害賠償』として、無効と判断される可能性が高いと考えられます。

また、違約金が『損害の予定額』として、どこまで合理的な範囲に収まっているかも重要なポイントです。貸主側が実際に被る損害は、基本的にはフリーレントで免除した賃料分が中心になります。それを大きく上回る金額を一律で請求する条項は、やはり無効とされるリスクが高いと言えます。

さらに見逃せないのが、解約理由が借主の責任によるものかどうかです。設備の故障・雨漏り・カビ・給排水トラブルなど、貸主側の管理不備が原因で退去せざるを得なくなった場合には、違約金の請求そのものが無効と判断される可能性が高くなります。『理由を問わず一律請求』と書かれていたとしても、法律はそのまま機械的に認めるわけではありません。」

契約の特約事項を理解し、トラブルを未然に防ごう

フリーレント物件で退去時のトラブルを防ぐために最も重要なのは、「特約事項」「解約条項」「違約金条項」の3点セットを契約時にしっかり確認することです。特に契約書の末尾に記載されている「特約事項」には、短期解約違約金やフリーレント返還の条件がほぼ確実に書かれています。期間の条件や賃料の月数に関する条件を両方とも丁寧に確認しましょう。

また、「解約予告」と違約金の関係にも注意が必要です。予告期間の賃料と違約金が合算され、想定以上の負担になる場合もあります。さらに、違約金とフリーレント返還が重なり、二重に支払いを求められることもあるため、分かりにくい点は必ず不動産会社の担当者に説明を求め、書面でも確認しましょう。

免責条件、つまり貸主の管理不備による退去時の違約金負担の有無も忘れてはなりません。これらを事前に把握していれば、不必要なトラブルや支払いを回避できます。「もしこの物件を〇ヶ月で退去したら、いくらかかりますか?」と具体的な金額シミュレーションを依頼することも効果的です。

フリーレント物件は「初期費用の安さ」だけでなく、「最終的な総支払額」で判断する視点が極めて重要。契約の全体像を把握し、トラブルを未然に防ぐことで、安心して住まい選びができるでしょう。


監修者:合同会社ゆう不動産 代表 岩井佑樹(宅地建物取引士、熊本市空き家相談員)

飲料メーカーを経て2014年に宅建士として不動産会社に転職。2019年に不動産ライター業を始める。2025年11月現在、不動産会社のコラムや不動産関連記事を1,000記事以上作成。現在は不動産会社とWebライター業の会社を経営。現役不動産屋ならではの経験から、不動産に関する「リアル」な記事を発信している。


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