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「1,000万円かけたのに極寒…」築20年マンションをフルリノベも…30代女性が犯した“致命的なミス”【一級建築士は見た】

  • 2025.12.13
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出典元:photoAC(画像はイメージです)

「雑誌に出てくるような『コンクリートむき出し』の天井に、無垢材のフローリング。見た目は理想通りに仕上がりました。しかし、冬の寒さがここまで厳しいとは予想もしていませんでした」

そう語るのは、都内の中古マンションを購入し、1,000万円をかけてフルリノベーションを行ったYさん(30代女性)。

Yさん夫婦は、「新築よりも安く、自分好みの空間が作れる」という理由で、築20年のマンションを購入しました。

コンクリートの質感を活かしたインダストリアルな内装、オーダーメイドのステンレスキッチン。

完成した部屋は、友人たちが感嘆の声を上げるほど洗練された空間でした。

しかし、その満足感は最初の冬を迎えると同時に、後悔へと変わります。

足元から体温を奪う“コンクリートの冷気”

12月に入り、外気温が下がると同時に、Yさん宅の床は氷のように冷え込みました。

「スリッパを履いていないと、足の裏が痛くなるほど冷たいのです。エアコンを最大出力で稼働させても、顔ばかり熱くて足元は極寒。暖房効率が極端に悪いことに気づきました」

原因は、Yさんがデザインを優先して採用した「コンクリートむき出し」の天井と壁、そして断熱補強を行わなかった床にありました。

コンクリートは熱伝導率が高く、外気の影響をダイレクトに受けます。冬場、冷え切ったコンクリートの塊に囲まれて暮らすのは、巨大な冷蔵庫の中にいるようなものです。

見た目のクールさを求めた結果、居住空間そのものがクール(低温)になってしまったのです。

予算調整で“窓の断熱”を削った代償

さらにYさんを苦しめたのが、窓からの冷気です。

リノベーションの打ち合わせ当初、設計担当者は「二重窓(内窓)」の設置を提案していました。しかし、Yさんはキッチンや内装材のグレードを上げるため、目に見えない「断熱工事」の予算を全額カットしたのです。

「『東京のマンションだし、そこまで寒くはならないだろう』と高をくくっていました。しかし、築20年のアルミサッシと単板ガラスでは、外の寒さを防ぐことは不可能です」

毎朝、窓ガラスは結露でびしょ濡れになり、カーテンにはカビが発生。

最新のキッチンで料理をしようにも、寒さで億劫になり、結局リビングで鍋を囲む日々が続きました。

「おしゃれなキッチンより、暖かい窓にお金をかけるべきでした」と、Yさんは肩を落とします。

一級建築士が警鐘を鳴らす“見た目だけリノベ”

近年、中古マンションのリノベーションブームが続いていますが、Yさんのような失敗事例は後を絶ちません。

建築士の視点では、リノベーションにおける予算配分の優先順位は、本来以下の通りであるべきです。

  1. 断熱性能の向上(窓・壁・床)
  2. 給排水管の更新(インフラ)
  3. 内装・設備機器(デザイン)

しかし、多くの施主は目に見える「3」に予算を集中させ、「1」や「2」を削ろうとします。

住み心地という土台があって初めて、デザインは価値を持つのです。

リノベで後悔しないための鉄則

Yさんは現在、後付けで内窓を設置する工事を検討していますが、二度手間となり、費用も割高になります。

中古リノベーションを成功させる鍵は、「見えない部分」への投資を惜しまないことです。

  • 窓は必ず「ペアガラス(二重窓)」にする
  • 外壁に面する壁には断熱材を充填する
  • 1階やピロティ上の部屋なら、床下断熱を強化する

「冬暖かく、夏涼しい」という性能は、あとから家具のように買い足すことが難しい要素です。

ショールームのような見た目だけを追い求め、快適さを犠牲にしたYさんの末路。それは、これからリノベーションを考えるすべての人への、重要な教訓と言えるでしょう。


ライター:yukiasobi(一級建築士・建築基準適合判定資格者)
地方自治体で住宅政策・都市計画・建築確認審査など10年以上の実務経験を持つ。現在は住宅・不動産分野に特化したライターとして活動し、空間設計や住宅性能、都市開発に関する知見をもとに、高い専門性と信頼性を兼ね備えた記事を多数執筆している。