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「金返せ!」銀行窓口で客が激怒。凍結したはずの“親の遺産”が消えた…元行員が明かす「犯人の正体」

  • 2025.12.13
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出典:photoAC(※画像はイメージです)

預金口座を相続する場合、銀行に遺言書や遺産分割協議書をご提出いただきます。遺言書があれば、指定された相続人が預金を引き継ぎますが、遺言書がないときは遺産分割協議書が必要です。ただし、銀行業界の慣行により、遺産分割協議書がなくても預金の一部払い戻しに応じるケースがありました。

今回は、そんな慣行が引き起こしたハードクレームについて、皆様に知っていただきたい事情をわかりやすくお伝えします。

来店されたお客さまは鬼の形相!

ことの始まりは、預金者Aさま(亡くなられた方)の遺産相続です。

ある日、Aさまのご長男となるBさまが来店し、「銀行のせいで親の預金を取られた!そっちの責任なんだから返してくれ!」とおっしゃられました。

どういうことかといいますと、まずAさまが亡くなった際に相続人Bさまから連絡を受け、預金口座を凍結しています。

Aさまは遺言書を書かれていなかったため、遺産分割協議書ができたら手続きに来るとのことでした。

遺産分割協議書とは、相続人同士の話し合いで財産の分け方を決定し、全員が署名・捺印した書類です。

Aさまの相続人は長男Bさま、長女Cさま、次男Dさまなので、遺産分割協議書には3名分の署名・捺印が必要です。

ところが、遺産分割協議書ができていないのにAさまの預金が勝手に引き出され、残高が3分の2程度に減少していました。

なぜこのような事態になったのか・・・実は銀行業界の慣行が関係しています。

預金を相続するときの一部払い戻しとは?

遺産分割協議がなければ、銀行は預金口座の相続手続きに応じられません。

ただし、亡くなった方の医療費や、葬儀費用などの支払いが迫っており、すぐに現金が必要な場合は、遺産分割協議書がなくても一部払い戻しに応じるケースがあります。

法律に定められた手続きではなく、あくまでも銀行業界の慣行です。

実は次男のDさまがこの慣行を知っていたため、別の支店で預金の一部(法定相続分となる3分の1まで)を払い戻していました。

Bさまのお話では、「Dに金を渡しても飲み代とギャンブルに消えるだけ。預金は私と長女だけで相続したかった」とのことです。

金融機関の慣行として、葬儀費用など緊急性の高い支払いが確認できた場合に限り、相続人全員の同意なく預金の一部払い戻しに応じるケースがありました。しかし、この対応が後の相続トラブルの一因となることも少なくありませんでした。

Bさまには銀行の事情を理解いただけず、私の財産を返せ!の一点張りだったので、窓口も騒然となりました。

1時間かけてハードクレームに対応

Bさまを別室にご案内し、怒りが収まるまで1時間お付き合いさせていただきました。

払い戻しに応じた支店にも確認したところ、Dさまは葬儀費用のお金がない、法事までに仏間を修繕したいなど、さまざまな理由で預金を引き出したようです。

怒りの矛先は当支店となりましたが、まず優先すべきはお金の回収方法です。

不当利得返還請求などを説明すると、「あんた達に怒って悪かった。今後のことは妹と相談する」といってお帰りになられました。

当行の対応に法的な問題はありませんでしたが、ハードクレームにつながると冷や冷やします。

現在は預金の仮払い制度を利用できる

預金の一部払い戻しには色々と問題があったため、現在は「預貯金の仮払い制度」が法制化されています。遺産分割協議書がなくても、戸籍謄本などの書類が揃っていれば、一定額まで預金を引き出せます。戸籍謄本の請求方法も簡略化されたので、相続人の負担も少しは軽くなるでしょう。

ちなみに今回の一件ですが、なぜか通帳と届出印はDさまの手元にあったようです。相続財産の分け方が決まるまでは、通帳などの管理にも注意したいですね。



ライター:マイルドバンカー

銀行の本部・本店・支店を経験し、早期リタイアで個人事業主となりました。各銀行には独自の文化や風土があるので、「なぜこんなことをやっているの?」など、違和感を覚えやすい業務が少なくありません。今後は元銀行員の立場として、「だからそうなっているのか!」とご納得いただける情報を発信します。


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