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大原、静原エリアで触れる知られざる京都の魅力

  • 2025.11.29

ROOTS 森づくりを通して人と自然の関わり合いを学ぶ

京北十景のひとつである滝又の滝。ROOTSのチャーターツアーにも組み込まれている。
京北十景のひとつである滝又の滝。ROOTSのチャーターツアーにも組み込まれている。

京都中心部から北へ山道を抜け、車で約1時間。京北は、緑豊かな山々と清流に囲まれ、茅葺き屋根の家が今なお点在する里山だ。良質な木材の産地でもあり、長岡京や平安京の造営時には、桂川をつたって膨大な京北の木材が都へと運ばれ、建築材に使用された歴史を持つ。人と自然がともに生きる暮らしが今も根付く京北に、近年、東京や海外で研鑽を積んだ人々が移住。自然の恵みや地域住民にコミットしたクリエイティビティや旅、教育プログラムを創生し、京北を訪れる人に里山に生きる人々の知恵やものづくりの奥深さを伝えていく営みが生まれている。

工藝の森の奥にある祠のようなカメラオブスキュラと覗くと見える景色。カメラオブスキュラは京都へ移住したフォトグラファー外山亮介作。
工藝の森の奥にある祠のようなカメラオブスキュラと覗くと見える景色。カメラオブスキュラは京都へ移住したフォトグラファー外山亮介作。

京北の森林地帯の一角に、半世紀前にゴルフ場開発計画が持ち上がり木々が伐採されたものの、計画が立ち消えとなって長らく放置された森があった。現在は京都市が管理しているその森の一角を一般社団法人パースペクティブが借り「工藝の森」とし、漆などの木々を植樹したり、アーティストに作品づくりの場を提供したりと、森づくりを通して人と自然の関わり合いを学んでいる。共同代表の高室幸子と工藝の出合いは、20代を過ごしたカナダだった。「カナダで日本人としてのアイデンティティを考えさせられるうちに、日本のものづくりや工藝に興味を持ちました。柳宗悦の文章を読み、日本の職人が自然物に神聖さを見出し、最高の形を引き出すために手を添えるという考え方に感銘を受けたんです。工藝品は自然素材を使うので、おのずと人間と自然との間に呼応が生まれます。材料を次世代のために残すことで、職人は工藝を脈々と受け継いできました。藝の字は人が苗を植える姿をかたどった象形文字で、植えることが根源にあるのですが、現代社会では忘れがちですよね。なので私たちは植えることから始まるものづくりを目指し、森を育んでいます」と語る。

ROOTSが運営する宿泊施設tehenの庭、自作のサウナも併設。
ROOTSが運営する宿泊施設tehenの庭、自作のサウナも併設。
tehenの母屋。
tehenの母屋。

職人やプロフェッショナルでなくてもものづくりができ、作ることへのハードルが下がれば、工藝の裾野が広がるのではという思いから、2022年には廃校になった小学校を利用し、木工のシェア工房「ファブビレッジ京北」をオープンした。地産の森林資源を活用し、地域住民が気軽にものづくりができる場を提供するだけでなく、旅で訪れた人も、常駐する木工職人に教わりながら器づくり体験をすることができる。プライベートツアーに申し込んで、ものづくりに関する話に耳を傾けながら工藝の森を散策し、オリジナルの木皿を作るのも、山深い京北ならではの体験となるだろう。

ROOTS 共同代表のツェン・フェイラン宅で飼われている鶏。
ROOTS 共同代表のツェン・フェイラン宅で飼われている鶏。

工藝の材料となる多様な木々が育つ「工藝の森」の奥には、京北在住の写真家の外山亮介が京北の木材で制作したカメラオブスキュラがある。中を覗くと晴れた日には植栽地の木々が映るこの作品には、長い年月をかけ森を育んだ人々や工藝の匠への畏敬の念が込められている。

組子細工を手がける工房を見学して匠の技に触れたり、築150年の古民家宿泊施設「tehen」でヨガ瞑想などのリトリートを体験したり、バーベキューで地元の野菜やジビエを味わったり、家族連れには京北に暮らす同世代の家族を紹介して親子で遊びながら子育てについて語り合う……。

ツェンの自宅前に集うメンバーとその家族。茅葺き屋根は葺き替え作業の真っ最中だ。
ツェンの自宅前に集うメンバーとその家族。茅葺き屋根は葺き替え作業の真っ最中だ。

世界80カ国以上で仕事をし、通訳として活躍する中山慶と、サンフランシスコで社会課題解決型デザインに従事したのち日本の大手電気機器メーカーでヘルスケアのデザインを手がけていた曽緋蘭(ツェン・フェイラン)が共同代表を務めるROOTS は、プライベートツアーや企業研修、国内外の教育機関と連携した教育プログラムを京北で行っている。「テイラーメイド」と自称するプライベートツアーでは、その人のオーダーやライフスタイルに沿った京北の過ごし方を旅人と一緒につくり上げている。年々好評を博し、国内外からさまざまな人が京北を訪れるそうだ。「僕たちが届けたいのは、物見遊山的な“Sightseeing”と呼ばれる観光ではなく、人生や暮らしを探求する“Lifeseeking”としての旅。京北には、日本の里山の原風景も残っていますし、何十代もここに住んでいる方や、桓武天皇のことを親戚のおじさんのように語る方など、歴史の流れの一部としての今を生きていると感じる方がいます。日常ではなかなか出合えない縁やその方々の感覚も大切にしてもらえたら」と中山は言う。「“疲れたし京北行こう”的な感覚で、京北の暮らしの延長線上にある体験をして一息ついてもらえたらうれしいです。そして滞在中は、ぜひ京北のプチ村人になってほしいですね」と語るツェンは、京北に関わってくれる“関係人口”をどう増やすかも大切にしている。その背景には、ほかの地方同様、進む過疎化がある。京北での時間を楽しみ、再び足を運んでくれる人が増えたらという思いがある。

木工のシェア工房ファブビレッジ京北。京北で採れる良質な木材を使った器づくりを体験できる。
木工のシェア工房ファブビレッジ京北。京北で採れる良質な木材を使った器づくりを体験できる。

「15年前に移住したときにいろいろ教えてくれた方々が高齢化して、この地域の知恵を次に誰が継いでいくのかなと考えたときに、あ、自分やわって(笑)。今ちょうど築250年の自宅の茅葺き屋根の葺き替え作業をしているんですけど、海外から来たインターンの方も楽しみながら作業してくれています。古くから伝わる習わしや技術を、世界各地の人たちと一緒に継承していくことにもチャレンジしています」とツェン。

ツェン宅のかまど。
ツェン宅のかまど。

京北には「てんごり」という言葉がある。恩送りという意味で、たとえば今年自分が茅葺き屋根の葺き替えをお隣に手伝ってもらったら、来年は自分がお隣の葺き替えを手伝う。そうして地域で助け合い、恩を送り合うことで、文化や風習を受け継いできた歴史がある。旅を通じて京北の自然や、この地に脈々と伝わる営みの豊かさを感じてみてほしい。

【la bûche】故郷のテロワールを体現しサステナブルな循環を生み出す

カウンターキッチンではオーナーシェフ森の手捌きを見ることができる。
カウンターキッチンではオーナーシェフ森の手捌きを見ることができる。

比叡山のふもとに位置し、四方を山々に囲まれた自然豊かな大原は、かつては皇族や貴族が都を逃れて静かに暮らす隠棲の地でもあった。三千院や寂光院など風情ある寺院が多い観光地ながら土壌にも恵まれ、京都の名店の料理人たちが中心部から野菜を買い求めに来ることも少なくない。

メインの鹿肉は、ブルーベリーソースの酸味と山椒のバランスが絶妙だ。
メインの鹿肉は、ブルーベリーソースの酸味と山椒のバランスが絶妙だ。

大原で生まれ育ったフレンチレストラン「la bûche」のオーナーシェフの森尚平は、フランスや東京で修業したのち、2022年に故郷に店を構えた。大原で採れた新鮮な野菜や野草を贅沢にあしらった前菜や、害獣として近隣で捕獲された鹿や猪の肉を、地元の老木を伐採した薪火で調理したジビエを供する。「生まれ育った大原のテロワールを表現することを大切にしています。素材の個性を最大限に引き出し、大原の恵みを体現する料理を目指しています」と森は語る。テロワールとはワイン用語で、土地が持つ個性や農産物を育む自然環境を指す。森が手がける料理は、大原という土地の恵みや命をいただくことへの讃歌のようでもある。

森自作の器に盛られた、大原名産の赤紫蘇の風味を添えたズッキーニのマリネ。
森自作の器に盛られた、大原名産の赤紫蘇の風味を添えたズッキーニのマリネ。

森は最近陶芸を習い始め、薪の灰を調合した釉薬を施した自作の器で料理を提供することもあるそうだ。食の持続可能性を実践するミシュラングリーンスターにも、2年連続で輝いた。食文化による循環を生むサステナブルな動きは、今後新たな潮流を生むだろう。

la bûche

www.labuche-ohara.com

【cafe Millet】料理を通じて自分を救ってくれた自然の恵みや幸せを伝える

カフェの隣の菜園で隅岡が摘むハーブも食卓を彩る。
カフェの隣の菜園で隅岡が摘むハーブも食卓を彩る。

京都市中心部から大原方面に向かって車で約20分、緑深い里山が広がる静原で、ヴィーガンカフェ「cafeMillet」のオーナーシェフ隅岡樹里は育った。京都の美術大学で教鞭をとっていた父と、もてなし上手の母のもとにはいつも人が集い、隅岡も幼いころから家に訪れる人々に料理をふるまっていたという。中学生で環境問題について知り、自分が地球にできることは何かと思いを巡らせたことがきっかけでベジタリアンに。「私自身、中学生で心を痛めた時期に、この土地の自然に救われた経験があります。この場所に集まる人たちと、私が感じたあらゆることをシェアできたら」との思いから、実家を改装して2006年にcafe Milletをオープンした。

ツルムラサキの和えもの、胡麻の葉にのせた一口サイズのおにぎりなどが並ぶ前菜。
ツルムラサキの和えもの、胡麻の葉にのせた一口サイズのおにぎりなどが並ぶ前菜。
梅とバナナのケーキ、ブルーベリーアイスを添えて。
梅とバナナのケーキ、ブルーベリーアイスを添えて。

カフェの隣には、隅岡が家族とともに野菜やハーブなどを無農薬で育てる畑や、友人らと稲を育てる水田がある。畑の収穫物や、京野菜の名産地としても知られる地元静原で採れた野菜がテーブルに出てくるコース料理は、目にも口にも環境にも優しい。「豊かな収穫があれば、分けたくなるもの。自然界が与えてくれる多くの恵みや幸せを、次の世代へと伝えていくことが大切なのではないでしょうか」。大人だけでなく、子どもが楽しめるイベントも定期的に開催する緑豊かなカフェでいただく大地の恵みは、自然が奏でる喜びを分け与えてくれる。

冬は店内の薪ストーブに火が灯る。
冬は店内の薪ストーブに火が灯る。

cafe Millet

www.cafemillet.jp

Photos: Kentaro Takahashi Text: Sayaka Sameshima Editors: Yaka Matsumoto, Sakura Karugane

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