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予告映像が全く想像つかない…“期待が膨らむ”2026年【杉咲花主演】水曜ドラマ 

  • 2025.12.23

2026年冬クールドラマのタイトルが一通り出揃ったが、一番の注目作は杉咲花主演の『冬のなんかさ、春のなんかね』だろう。

と言っても、どういうドラマになるのか全く想像がつかない。

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杉咲花 (C)SANKEI

予告映像ではコインランドリーの椅子に座って佇んでいる杉咲花の姿を建物の外から引いた目線で捉えた映像が流れ「新水曜ドラマ『冬のなんかさ、春のなんかね』1月14日スタート」と杉咲花の脱力した小さな声で呟かれる。
この映像だけでは内容が全くわからないが、この脱力した空気感こそが、本作の一番の見どころなのだろう。告知されているあらすじを読むと、主人公は杉咲花が演じる小説家で、どうやら恋愛ドラマになるらしい。

現在、共演者として告知されているのは成田凌と岡山天音。どちらも演技に定評のある人気俳優なので、杉咲花とどんな芝居を見せてくれるのか楽しみだが、何より驚いたのは、監督・脚本を担当するのが今泉力哉だということ。

今泉は2019年に公開された恋愛映画『愛がなんだ』が低予算の独立系の映画でありながらロングランのヒットとなり、それ以降、最新作が注目される映画監督となっている。近年はNetflixで配信された映画『ちひろさん』や、深夜ドラマと劇場映画が制作された『からかい上手の高木さん』の監督など、活躍の幅を広げているが、一貫して変わらないのは、淡々とした会話のやりとりで人間関係の機微を描く作風。淡々と状況を見せていく中で起きるコミュニケーションのズレを脱力した笑いを通して見せる今泉の演出は多くのフォロワーを生んでおり、一つのスタイルとして定着している。 だが、どちらかというと通好みの作風で、監督したドラマも、深夜ドラマやWOWOWで放送された個性的な作品ばかりだ。

そのため、民放のプライムタイムの連続ドラマに今泉が登板することはないと思っていたのだが、まさか日本テレビの水曜ドラマ枠(水曜夜10時放送)で監督するとは思わなかった。

女優の演技を魅力的に撮る水曜ドラマ

今泉力哉が監督として参加するドラマが深夜枠ではなくプライムタイムで観られるというのは、いったい何が起きているのだ? と衝撃なのだが、実は2025年の水曜ドラマのラインナップを振り返ると、この流れは必然だったように感じる。

水曜ドラマは老舗のドラマ枠で『ハケンの品格』や『家政婦のミタ』といった高視聴率ドラマや、坂元裕二脚本の『Mother』や野木亜紀子脚本の『獣になれない私たち』といった文学性の高いドラマを多数生み出した大人向けドラマ枠だった。

2024年の冬クールで枠自体が一度終了し、2025年の春クールから復活したのだが、2025年に作られた作品は、岸井ゆきのと志尊淳が主演の『恋は闇』、當真あみが主演の『ちはやふるーめぐりー』、桜田ひよりと佐野勇斗が主演の『ESCAPE それは誘拐のはずだった』の3作。

どの作品も演技に定評のある女優が主演を務め、役者同士の演技を魅力的に撮ろうとしており、これまでの水曜ドラマとは異なるアプローチを模索しているように感じた。
そのため、次はどんな作品が来るのかと楽しみだったが、ここで杉咲花主演のドラマが来るのかと驚いた。

今のドラマや映画にとって特別な女優・杉咲花

子役時代から活躍する杉咲花は、高い演技力の持ち主として評価されており、2020年度後期のNHK連続テレビ小説『おちょやん』では主演を務めている。
その時点で実力、人気を兼ね備えた若手女優としての地位を確立していたが、近年の杉咲花は演技の上手い女優という枠を超えており、2023年の映画『市子』以降は、彼女が女優として出演して演技を披露すること自体が、作品全体の空気を決めてしまう特別な存在となっている。
テレビドラマでは何と言っても、2024年の『アンメット ある脳外科医の日記』で演じた脳外科医の川内ミヤビの芝居が素晴らしかった。
彼女は脳外科医でありながら記憶が一日でリセットされてしまうという記憶障害を抱えており、そのため何をしていてもどこか不安げだ。そんなミヤビの不安を抱えながらも患者と向き合う姿を杉咲花は見事に演じきっていた。
杉咲花の魅力は、訥々と呟くしゃべり方と繊細な表情の変化によって生み出す感情表現で、彼女が喋り出すと作品全体のトーンが物静かでさみしげなものに様変わりする。
静かなトーンのお芝居を得意とする若手女優は近年とても多いが、その中でも杉咲花の芝居は突出していて、目が離せなくなる。

そんな杉咲花の演技と今泉力哉の演出はとても相性が良い。

WOWOWで放送された杉咲花が突然決まったお休み(撮休)を過ごす姿を撮ったという設定のオムニバスドラマ『杉咲花の撮休』で、今泉力哉は第2話と第3話の監督を務めている。

中でも第3話「両想いはどうでも」は脚本も今泉が担当しており、彼女の魅力を見事に引き出している。
おそらく本作を観たら『冬のなんかさ、春のなんかね』がどんなドラマになるかを想像する上での大きなヒントが得られるのではないかと思う。
杉咲花の芝居と今泉力哉の演出がテレビドラマに何をもたらすのか、楽しみである。


ライター:成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)、『テレビドラマクロニクル 1990→2020』(PLANETS)がある。