1. トップ
  2. 札幌市「棺に10円玉入れないで」なぜ入れるの?葬儀屋に聞いて分かった“深いワケ”

札幌市「棺に10円玉入れないで」なぜ入れるの?葬儀屋に聞いて分かった“深いワケ”

  • 2025.10.29
undefined
出典元:photoAC(画像はイメージです)

2025年9月、札幌市の「棺に10円玉をはじめとした硬貨を入れないで」という呼びかけが報じられ、SNSで大きな話題となりました。

札幌市ホームページでは、火葬の際に硬貨などの副葬品を棺に入れることで、不完全燃焼や火葬時間の延長といった問題が生じると説明しています。しかし、なぜそもそも硬貨を棺に入れる風習が存在するのでしょうか。また、そこにはどのような想いが込められているのか──。

今回はこの風習の背景と現状について、東京都にある創業89年の有限会社佐藤葬祭の代表、佐藤信顕さん(@satonobuaki)に詳しくお話を伺いました。

実際に硬貨を入れる人は今も多い?

---札幌市の「棺に10円玉を入れないで」という呼びかけが報じられ話題になりました。実際に、10円玉をはじめとした硬貨を棺に入れる方は多いのでしょうか?

札幌市の火葬場での注意喚起が「10円玉を棺に入れないで」というのがニュースになり話題になりました。「10円玉入れるの?」と思う人が多かったのだと思いますが、ポイントは「10円玉、つまり硬貨を入れる風習は以前からあった」ということです。

私自身、20年ほど前に地方に住む大叔母の葬儀の際に「はいはい、皆さんここにお金(硬貨)を入れてください」と葬儀社の方が案内してくれたのを覚えています。その葬儀社の方の手により、硬貨は棺に納められました。

私が住んでいた都内火葬場では、硬貨を入れるのは、40年以上前から禁止事項でした。そのため、大叔母の葬儀社の担当者と雑談する際に「こちらは硬貨を入れても大丈夫なんですか?」と尋ねたところ、「こっちの火葬場はうるさいこと言わないから平気なんですよ」と。

ところが、火葬場に到着して担当職員さんに「硬貨とか入れても平気なんですか?」と聞くと「ダメなんですけどね、こっちの葬儀社は守ってくれないんですよ」と苦笑いされていました。

---火葬場と葬儀社の間で認識のズレがあったんですね。

このように地域による違いも多いのですが、原則として火葬にガラスや硬貨などの金属を入れるのは禁止です。ただ、守られていない地域や時期があったのも事実で、だんだんとみんながルールを守るようになってきている、というのが実際のところですね。

正直、私の感想としては「札幌の火葬場はまだ入れていいんだ」とちょっとびっくりしました。全国的には「昔はあったけれど、どんどん少なくなっている」という印象です。

「冥銭」と「六文銭」、2つのルーツ

---硬貨を入れる背景には、どのような思いがあるのでしょうか。

「あの世でお金に困らないように」や「三途の川の渡し賃」という考え方が諸説あり、地域の風習として受け継がれてきました。

---そのような考え方があるのですね。この風習のルーツを教えてください。

一つはあの世でお金に困らないようにという「冥銭(めいせん)」という考え方です。冥銭とは、故人があの世(冥界)で使うための金銭やそれを模したもので、副葬品として棺に入れられます。

故人が冥界で困らないようにという遺族の願いが込められていて、起源はものすごく古く、東アジア広域で多く見られます。

一例をあげると冥銭の起源は古代中国に遡ります。馬王堆漢墓(まおうたいかんぼ)などの遺跡から、土で硬貨を模した「泥銭」が副葬品として出土しているんです。これは貨幣経済の発達に伴い、死後の世界でもお金が必要だという考えから埋葬されたとみなされています。

---地域によって形は違うのでしょうか?

はい。地域性としては沖縄では黄色い紙に銭形を押した「カビジン」や「ウチカビ」という名前で用いられています。中国・韓国・ベトナムでは道教や仏教の影響で、葬送の時に紙銭を燃やす風習が残っています。

---さまざまな特色があるのですね。「三途の川の渡し賃」につきましても詳しく教えていただけますでしょうか。

もう1つは、三途の川の渡し賃である「六文銭」です。

三途の川というのは、日本の死生観で生と死を隔てる冥界の川を指します。諸説ありますが、死者がこの川を渡る際、船頭の鬼に渡し賃「六文銭」を払わなければ、深い川を船なしで歩いて渡らねばならず、亡くなった人が溺れ苦しむなどといわれています。

また日本に広まった六道輪廻の象徴として定着したともいわれていて、六道での施しとして持たせるという考え方もあります。

---具体的にはどのように納められるのでしょうか?

納棺時に「六文銭」を小さな布袋(頭陀袋)に入れます。故人の懐に納めることで、死装束の一部として扱われ棺と共に火葬されます。

今では「六文銭」として印刷した紙を入れることが多く、硬貨を入れることは少なくなりましたが、もともと「六文銭」が銅銭であることから、今回の「10円玉入れないで」のニュースに繋がっているのではないかと思われます。

---「六文銭」の風習は、いつごろから始まったのでしょうか?

「六文銭」は鎌倉時代には原型がみられており、庶民などに浸透したのは江戸時代からだといわれています。

故人を想う気持ちに寄り添う、現代の形

undefined
出典:photoAC(写真はイメージです)

---故人を想う気持ちに寄り添うため、硬貨の代わりに何か別のものをご提案されることはありますか?

故人への気持ちに寄り添うために、主に仏式の葬儀で使われるものですが、現在では紙に印刷した「六文銭」が使われています。

一部、「燃え残った硬貨はお守りになりますよ」ということで、金属風の表面処理を施した陶器製の「六文銭」などを提案する業者もいるようです。

ただ、火葬手順の妨げになりますし、仮にお守りになったとしてもいつ処分するかに困るものになります。私は紙製のもので気持ちを添えれば十分ではないかと思っています。

---形よりも、そこに込められた想いが大切ということですね。

時代にあわせて風習も変化するなかで、大切なのは形そのものよりも、その形や儀式といったものの精神を、必要に応じて変えていかれる柔軟さと、込められた故人への敬意だと思います。

---貴重なお話をお聞かせいただき、誠にありがとうございました。

風習の意味を理解し、時代に合わせた形で想いを届ける

故人のことを想い、「あの世でお金に困らないように」「三途の川を無事に渡れるように」という願いを込めて硬貨を棺に入れる。その気持ちは、遺族の深い愛情の表れであり、否定されるものではありません。

しかし一方で、硬貨を入れることで燃焼に対する悪影響や、火葬器具の損傷、収骨の妨げといった現実的な問題が生じています。

札幌市は、思い出の品を棺に納めたい場合は、品物自体ではなく、写真に撮った上でその写真を納めるように協力を呼びかけています。

佐藤さんの言葉にもあったように、大切なのは「形」ではなく、そこに込められた「想い」と「敬意」ではないでしょうか。

古くから受け継がれてきた風習の意味を理解しながら、時代に合わせた形で故人への想いを届ける。それが、現代を生きる私たちにできる、新しい弔いの形かもしれません。



取材協力:佐藤信顕さん(@satonobuaki

参考:札幌市「斎場利用のご案内」(https://www.city.sapporo.jp/kenko/wellness/bochi_kasou/saijo/riyou_annnai.html


【エピソード募集】日常のちょっとした体験、TRILLでシェアしませんか?【2分で完了・匿名OK】