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「国勢調査を出し忘れると50万円の罰金」の“ウワサ”って本当!?SNSで話題の「罰則」の真相を弁護士に聞いてみた

  • 2025.10.17
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出典:PhotoAC ※画像はイメージです

私たちの暮らしや社会を支える基礎データとして、5年に一度必ず実施される「国勢調査」。人口や世帯の実態を把握し、行政施策や将来計画の土台となる重要な統計調査です。

SNS上で「国勢調査を出し忘れると50万円の罰金があるって本当?」といった趣旨の投稿がされ、話題になりました。

はたして、国勢調査の提出をしないとどうなるのでしょうか?気になる疑問について、弁護士さんに詳しくお話を伺いました。

国勢調査とは? なぜ提出義務があるのか

国勢調査は、日本に住むすべての人と世帯を対象とする国の最も重要な統計調査です。西暦が5の倍数の年に実施され、人口や世帯の構成、就業状態などを調べます。

2025年の国勢調査は10月8日が締め切りでしたが、インターネット回答の締め切りは延長され、現時点(2025年10月16日)でもまだ回答可能な状態となっています。

この調査は統計法上の「基幹統計調査」に指定されており、対象となる国民には回答義務があります。そして、統計法第61条には「報告を拒み、又は虚偽の報告をした者は50万円以下の罰金に処する」という罰則規定が実際に存在するのです。

しかし、過去に実際に罰金が科されたケースはほとんどないといわれています。では、この罰則規定の実態はどうなっているのでしょうか。

「50万円の罰金」は本当?弁護士が詳しく解説

今回は、NTS総合弁護士法人札幌事務所の寺林智栄弁護士に詳しくお話を伺いました。

50万円の罰金という規定はあるものの…

---国勢調査の提出を忘れた場合、50万円の罰金が科されるという投稿を頻繁に見かけますが、本当でしょうか?

寺林弁護士:

結論から言うと、法律上の規定は本当ですが、運用上の実態は異なります。

まず、国勢調査を提出しなかったり、嘘の回答をしたりした場合に罰則があること自体は事実です。これは「統計法」という法律に定められています。国勢調査は、国の最も重要で基本的な統計調査である「基幹統計調査」に指定されており、調査対象となる国民には回答する義務(報告義務)が課されています(統計法第13条)。そして、この報告義務に違反した場合の罰則として、統計法第61条に「50万円以下の罰金に処する」と明確に規定されています。

しかし、これまで国勢調査の報告義務違反(未提出や虚偽報告)を理由に、この罰金が実際に適用されたケースは確認されていません。

国の目的は、罰金を科すことではなく、正確な統計データを集めることにあります。そのため、提出が遅れている世帯に対しては、調査員が何度も訪問したり、提出を促す通知を送ったりするなど、粘り強く協力を求めます。

単に「出し忘れた」「期限を過ぎてしまった」というだけで、いきなり警察が来て逮捕されたり、裁判所から罰金の命令が届いたりすることはまずありません。

どのような行為が問題になるの?

---国勢調査の公式Webサイトに「報告を拒んだり虚偽の報告をしたりした場合の罰則も規定されています」との記載がありますが、具体的にどのような場合、罰則があるのでしょうか?

寺林弁護士:

統計法第61条第1号には「報告を拒み、又は虚偽の報告をした者」が罰則の対象とされています。罰則は、単なる「うっかり忘れ」や「出し遅れ」に適用されるものではなく、より悪質なケースを想定しています。

たとえば、「報告拒否」の例は以下の通りです。

ア、
調査員が何度も訪問し、提出を丁寧に依頼しても、「答えるつもりはない」「国に協力する義務などない」といった理由で一貫して回答を拒否する。

イ、
オートロックマンションなどで、管理組合や居住者が結託して組織的に調査員を締め出し、調査を妨害する。

ウ、
「罰金を払うから調査には協力しない」と、罰則を承知の上で非協力的な態度を取る。

一方、「虚偽の報告」とは、意図的に事実と異なる内容を回答する行為です。たとえば、以下のようなケースが考えられます。

ア、
世帯の人数をわざと少なく、または多く申告する。

イ、
年齢や職業などを偽って回答する。

特に、過去には市や町が「市」に昇格するための人口要件(例:5万人)を満たすために、自治体ぐるみで人口を水増しして報告するという組織的な虚偽報告が問題となったことがあります。

個人の回答者が国勢調査への報告を拒否したり、虚偽の報告をしたりしたことを理由として、統計法の罰則(罰金刑)が適用された事例は、これまでに確認されていません。

さきほどの「人口の水増し」という虚偽報告を行った事例については、統計法違反として問題となり、調査結果が修正されるなどの事態に至りましたが、これも個々の住民が罰せられたわけではありません。

個人情報を渡すのが不安…どう保護されている?

---国勢調査で収集された個人情報は、個人情報保護法や統計法に基づいてどのように保護されていますか?

寺林弁護士:

国勢調査には一般的な個人情報保護法ではなく、より厳しいルールを定めた統計法が適用されます。これが、安心して回答できるための法的根拠となっています。

1、目的以外の利用の禁止
回答された情報は、統計の作成と分析のためだけに使われます。税金の徴収や警察の捜査、選挙人名簿の作成など、他の目的で使われることは法律で固く禁じられており、絶対にありません。

2、厳しい守秘義務と罰則
調査員や市区町村・国の職員など、調査に関わるすべての人には非常に重い守秘義務が課せられています。もし調査で知り得た情報を外部に漏らした場合、「2年以下の懲役または100万円以下の罰金」という厳しい罰則が適用されます。これは一般的な公務員の守秘義務違反よりも重い罰則です。

3、「個人情報保護法」の適用除外
統計法には、個人情報保護法と同等かそれ以上に厳格な秘密保護の規定があります。そのため、国勢調査で集められた個人情報については、特別なルールを持つ統計法が優先して適用され、一般的な個人情報保護法の適用は受けません。

法律と運用のバランス、まだ間に合う提出

国勢調査の提出拒否には法律上50万円以下の罰金という規定があるものの、実際には適用されたケースは確認されていないとのことです。国の目的はあくまで正確な統計データの収集であり、罰則は悪質な報告拒否や組織的な妨害といった極めて悪質なケースを想定したものです。

「うっかり忘れていた」「期限を過ぎてしまった」という場合でも、いきなり罰金が科されることはありません。調査員による訪問や通知によって、粘り強く協力が求められるのが実態です。

SNSでは「50万円の罰金」という言葉だけが一人歩きし、不安を感じた人も多かったかもしれません。しかし実際には、法律の建前と運用の実態には大きな違いがあります。

国勢調査は、私たちの暮らしをより良くするための政策や計画の基礎となる大切なデータです。2025年の国勢調査はインターネット回答の締め切りが延長されており、10月16日時点ではまだ提出可能です。もし提出し忘れている方がいれば、今からでも回答することができるので、お早めに。

※2025年10月16日時点での情報です

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