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「別格」「凄すぎる」“大河ドラマ活躍女優”、第1話で体現した“母の崩壊”に相次ぐ反響 新ドラマ【火ドラ★イレブン】

  • 2025.10.11

カンテレ・フジテレビ系のドラマ、火ドラ★イレブン『娘の命を奪ったヤツを殺すのは罪ですか?』(毎週火曜よる11時)は、そのタイトル通り、母の愛と復讐を描く衝撃のエンターテインメントだ。原作はあしだかおる・アオイセイによる人気漫画。主演を務めるのは、水野美紀と齊藤京子である。彼女たちが、同一人物を“年齢と顔を越えて”演じるという大胆なW主演設定の本作。第1話では、娘を亡くした母が全身整形で“生まれ変わる”までの怒涛の展開が描かれた。しかし、どれほど物語が過激でも、画面の中心にあるのは常に大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』でも活躍する女優、水野美紀のリアルな感情だった。

※【ご注意下さい】本記事はネタバレを含みます。

いきなり娘と孫を失う?幸福の崩壊から始まる物語

篠原玲子(水野美紀)は55歳のシングルマザー。介護士として働きながら、娘・優奈(大友花恋)と孫の圭太の成長を見守る、ごく普通の母親である。しかし、圭太の5歳の誕生日の日、幸福は一瞬で終わる。玲子の目の前で、娘と孫がマンションから転落してしまったのだ。

優奈は即死、圭太は意識不明。警察は「育児ノイローゼによる無理心中」と判断し、事件は静かに終わってしまう。

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火ドラ★イレブン『娘の命を奪ったヤツを殺すのは罪ですか?』(C)カンテレ・フジテレビ

この前半30分、水野美紀は“母の崩壊”を余すことなく体現していた。事故現場に駆け寄り、血まみれの娘を抱きしめるときの、声にならない嗚咽。葬儀の帰りに玄関先で崩れ落ち、「もっと長生きして、たくさん親孝行してね」と娘の言葉を思い出して泣き続ける姿。涙を流すというより、喉を潰すような呼吸の乱れがリアルで、見ている側が息を止めてしまうほどだ。

水野の演技は、感情の爆発よりも、壊れた静けさにこそ宿る。言葉を発さない時間が長くなるほど、母としての空洞が深まっていく。カメラはその沈黙を長回しで捉え、視聴者を共犯者のように痛みへ引きずり込んでいく。SNS上でも水野の演技に対して「おばあちゃん役なの」「演技凄すぎ」「別格だわ」という声が多く挙がった。

「死ぬくらいなら、生まれ変わったらどうだ」復讐の種がまかれる瞬間

この先の人生を生きていく意欲を失い、屋上に立つ玲子。飛び降りようとした瞬間、金髪の青年・成瀬(白岩瑠姫)が現れ、彼女にこう告げる。

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火ドラ★イレブン『娘の命を奪ったヤツを殺すのは罪ですか?』(C)カンテレ・フジテレビ

「死ぬくらいなら、生まれ変わったらどうだ」
この言葉が、物語を“絶望”から“再生”へと反転させる。ここでの水野の芝居が圧巻だ。突然現れた成瀬の言葉を聞いても、涙を止めることも叫ぶこともない。かわりに、彼の言葉がゆっくりと体に染み込むように、ほんのわずかに呼吸が戻る。その微細な変化。まぶたの震えと、手のわずかな動きが、この人はまだ生きようとしているのだと視聴者に伝える。

派手な演出に頼らず、俳優の身体だけで“再生の予兆”を見せる。そこに、水野美紀という女優の凄みがある。

整形という“再生の儀式”

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火ドラ★イレブン『娘の命を奪ったヤツを殺すのは罪ですか?』(C)カンテレ・フジテレビ

その後、玲子のもとに届いた差出人不明のメール。そこには、娘・優奈がママ友たち(新川優愛ら)から陰湿ないじめを受ける動画が映っていた。さらに、「娘はママ友に殺された」という非通知の電話。

玲子は、優奈の“死”が自殺ではなく、社会的暴力によるものだったと知る。玲子がママ友・新堂の家を訪ねる場面では、優奈の悪口を笑いながら話す彼女たちを見つめる玲子の眼差しにカメラが向けられた。その感情は、もはや怒りではなく“無”に見える。

一瞬のまばたきの奥に宿った、“許さない”という熱。この無表情が、感情の爆発よりも恐ろしい。復讐劇としてのスイッチが静かに入る瞬間だった。

介護士としてケアを続けていた高齢男性から、「人生に悔いを残さないために使ってくれ」という言葉と共に多くの遺産を託された玲子は、ふたたび成瀬を訪ねる。そして、全身整形を依頼する。この決断を描くシーンで、水野美紀は“狂気”と“理性”の境界を歩く。

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火ドラ★イレブン『娘の命を奪ったヤツを殺すのは罪ですか?』(C)カンテレ・フジテレビ

鏡の前で頬に触れ、目を見開く表情に、一筋の涙も流さない。整形は、単なる外見の変化ではない。彼女にとってそれは、母である自分を弔う儀式でもあるのだ。自分の顔を捨て、別人として生まれ変わり復讐に身を捧げることで、娘の死に意味を見出す……その痛みを、芝居の静寂のなかに沈めていく。やがて、25歳の篠原レイコ(齊藤京子)が登場する。

『娘の命を奪ったヤツを殺すのは罪ですか?』という挑発的なタイトル。その答えを出すのはまだ早い。しかし第1話の水野美紀は、罪を凌駕するのは燃えるような復讐心であると、無言で証明しているようだった。


カンテレ制作・フジテレビ系列 火ドラ★イレブン『娘の命を奪ったヤツを殺すのは罪ですか?』 毎週火曜よる11時

ライター:北村有(Kitamura Yuu)
主にドラマや映画のレビュー、役者や監督インタビュー、書評コラムなどを担当するライター。可処分時間はドラマや映画鑑賞、読書に割いている。X(旧Twitter):@yuu_uu_