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“朝ドラ初出演”とは思えない存在感を放った女優 多くの視聴者を虜にした“視線ひとつ”で魅せる色気のある芝居

  • 2025.10.6
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『あんぱん』第6週(C)NHK

第112作品目となるNHK連続テレビ小説『あんぱん』が、9月26日に無事完結した。オリジナル要素を加えながら、『アンパンマン』の作者・やなせたかしと小松暢夫婦の生涯を描いた作品には、さまざまな反響が集まった。とくに折に触れて多かったのが、ヒロイン・のぶ(今田美桜)の妹・蘭子を演じた河合優実への賛辞の声だ。

初朝ドラで河合が見せた貫禄

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『あんぱん』第6週(C)NHK

映画界で注目された河合が、『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』での主演やドラマ『不適切にもほどがある!』で注目された末に挑戦した初の朝ドラ。『あんぱん』のヒロインオーディションに落選したのちに蘭子役に抜擢されたようだ。

放送が終わった今振り返ると、河合にとってのハマり役は蘭子だったということができるだろう。むしろ、河合が演じたからこそ、蘭子のシーンには独特の色気が感じられた。

今田がのぶのはちきんっぷりをセリフ回しや所作、表情で思う存分表現しているのに対し、河合による蘭子の感情表現は控えめだった。しかし、蘭子の感情表現には含みがあり、細かい表情の変化、視線の揺れ、立ち姿だけで、セリフがなくとも視聴者が蘭子の心情に思いを馳せることができる余白と余韻があった。これは、数多くの映画で観客を惹きつけてきた河合だから為せる技だろう。

たとえば、初恋の相手である原豪(細田佳央太)の葬式での場面、豪への思いを持ちつつも八木信之介(妻夫木聡)に惹かれている自分を否定できないまま、鏡を前に紅を引くときの表情、八木を前にしたときの恋慕の情が滲むふとした視線の動き。どれもセリフがほぼないにも関わらず、河合の表現から目が離せないシーンばかりだった。

SNSでは、早くから「河合優実ヒロインの朝ドラが見たい」と未来のヒロインとして河合を推す声が多く見られた。初の朝ドラ出演でこれ以上ないほど爪痕を残した証拠だろう。

最終回目前にヒヤヒヤ!八木と蘭子の恋の行方は?

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『あんぱん』第6週(C)NHK

蘭子は戦後、郵便局や経理の仕事に就き、のちに映画の批評ライターとして独り立ちする。また、義理の兄である嵩(北村匠海)とも縁がある。こういった設定から、やなせたかしと縁のあった脚本家・向田邦子が蘭子のモデルではないかという声がSNSであがりはじめた。

向田邦子は、名前を冠した名誉ある脚本賞が存在するほど、歴史に名を残した女性脚本家だ。蘭子と同じく、映画批評ライターをしていた経験もあり、やなせたかしとは仕事での関係性もあったそうだ。そして、台湾での取材旅行中に飛行機事故により亡くなっている。

蘭子は、脚本を書くことはなかったが、晩年は戦争体験者のインタビューを行うことをライフワークとしていた。そして、互いに恋心を寄せ合っている八木とはつかず離れずの関係性を保っていた。

最終回の1話前である129話では、海外の難民キャンプの取材に向かう蘭子に、八木が指輪を渡すシーンが。向田邦子の要素を含んだキャラクターであることを踏まえると、蘭子が飛行機に乗るというのは、少しヒヤヒヤしてしまった。

SNSでは「明日の放送が怖い」という声もあがったが、最終回では蘭子の様子が描かれることも、蘭子と八木が2人の関係に出した答えも描かれることはなかった。

蘭子と八木の将来に向けたやりとりや旅立つ蘭子を待っている人がいるという描写は、2人がやっと戦争に対して一つの区切りをつけ、未来へと歩み出すことの象徴だったのかもしれない。

朝ドラらしからぬ存在感を見せた河合は、『あんぱん』への出演の先でどのような活躍を見せるのだろうか。


NHK 連続テレビ小説『あんぱん』毎週月曜〜土曜あさ8時放送
NHKオンデマンドで見逃し配信中

ライター:古澤椋子
ドラマや映画コラム、インタビュー、イベントレポートなどを執筆するライター。ドラマ・映画・アニメ・漫画とともに育つ。
X(旧Twitter):@k_ar0202