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「おたくの話じゃないけど」駅に電話してきた常連客。他社の文句を延々1時間…元駅員が下した「あえての塩対応」

  • 2025.12.13
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こんにちは。元鉄道駅員の川里です。

今日は、私が駅員時代に経験した「衝撃的なクレーム」をご紹介します。併せて駅に電話をするときのポイントも紹介していますので、駅に電話する際の参考にしていただけると幸いです。

「クレーム」は「貴重なご意見」

私が勤めていた会社に「クレーム」はありませんでした。他社でクレームと呼ばれるものは「貴重なご意見」という表現を使っているためです。駅員が誤った案内をした、利用路線が減便された、定期券の払い戻し額が気に入らない…。返す言葉もないものから首をかしげたくなるものまで、お客さまからこういった話をされると「貴重なご意見、ありがとうございました」と言うように教育されています。

会社にとってそのつもりはないのでしょうが、私には「ご意見」が「クレーム」の隠語のように感じられました。理不尽だと思う要求のお客さまに「あなたの発言をクレームと認識しました」と言いたくなったら「貴重なご意見、ありがとうございました」と口にするわけです。

本当に私の不手際でお客さまにご迷惑をおかけしてしまい、お叱りを受けた際には、むしろ「申し訳ございません」を強調して「ご意見」のフレーズをできるだけ避けました。もちろん、これは私個人の感覚ですので、他の駅員はこのような使い分けはしていないと思います。

「貴重なご意見、ありがとうございました」

こう駅員から言われて「クレーム扱いされたかな?」と心配する必要はありませんし、「クレーム扱いするなんて失礼だ!」とヒートアップする理由もありません。

改札や券売機の前などで、駅員はお客さまを観察しながら「ホームがわからないのかな?」「値段がわからないのかな?」などとお客さまが何に困っているのかを想像しています。「ここが不便だ」とお客さまから明かしていただけるのは、駅員にとってもありがたいことです。しかし、時には困ったお声をいただくこともあります。

いつものように鳴った電話

ある日、いつものようにきっぷ売り場に座っていたところ、電話が鳴りました。当時、駅のきっぷ売り場には電話機が置かれており、お客さまからの電話相談を各駅で対応していたのです。きっぷ売り場には私と先輩の2人がいましたが、電話に近かったので私が出ました。

「お電話ありがとうございます。▢▢駅の川里と申します」

「はいどうも、〇〇です。おたくのところの話ではないのでご心配なく。△△の駅員は電話対応がなっていませんね。私がかけたとき、どんな返事をしたと思います? おたくの社員教育についても聞かせてくださいな」

始まったマシンガントークを聞きながら「ああ、捕まった…」と思いました。

〇〇と名乗ったこのお客さまは、何度も駅の電話にかけている、いわば常連の方でした。登場した△△駅は私が所属していないどころか、列車が直通している他社の駅です。所在する都道府県すらも違う遠くの駅の出来事についてお話しされるので印象強く、この駅の駅員同士でも知られていました。

相手がお客さまである以上、「△△駅にかけてください」と切るわけにはいきません。

「ご不快な思いをさせてしまい、大変申し訳ありません。貴重なご意見をありがとうございました。上司に報告し、関係箇所と共有いたします」

通常はお客さまのお話の内容をすべて聞き取ったところで、この返事をしようと身構えます。

ところがこのお客さまは開口一番「おたくのところの話ではない」と言っている通り、私に問題解決を望んでいるわけではありません。会話がしたかったのかストレスを発散させたかったのかはわかりませんが、何分もお話が続きます。

問題解決が目的ではない

電話対応中は先輩が1人できっぷ売り場の対応をしています。いつまでも電話にかかりきりでいるわけにもいきません。このお客さまは、話しやすい駅員に対しては1時間近くも粘ります。そこでわざと「はい」「そうなんですね」などの生返事を繰り返してみることにしてみました。

「ちょっと、聞いてる?」

効果はすぐに現れました。その一言からお客さまの矛先が一気に私へと切り替わります。本来ならお詫びの言葉を入れるべきなのですが、あえて「はい、聞いていますよ」と声色を変えずに返しました。ここまでくるとメモすらとっていません。

詳しく何と言われたかはもう覚えていませんが、最終的にお客さまは怒って電話を切ってしまいました。

「〇〇さまだった?」

疲れた顔できっぷ売り場に戻った私に、先輩がそう尋ねました。

番号はそこで合っていますか?

あとに聞いた話なのですが、この方はあちこちの駅で同じように長電話をしていたそうです。その後、私の会社では2023年頃から駅の外線電話が撤去され、電話対応はお客様案内センターに集約されました。この方のその後はわかりません。それにしても、話題にする駅やその会社へ直接かけないのはなぜだったのでしょうか。

この方は非常に特殊なケースですが、別の駅の忘れ物のおたずねや他社の駅へのクレームなど、どうしてここに電話したのだろうと不思議に感じるお客さまの応対はよくありました。お問い合わせやご意見については、適切な番号を確認してかけていただくと、よりスムーズな案内が可能です。

忘れ物の問い合わせ、時刻や運賃の問い合わせ、インターネット予約に関する問い合わせなど、内容ごとに問い合わせ番号が異なる会社もあります。電話による問い合わせの際は、せめて同じ会社かどうかを確認するようおすすめします。



ライター:川里隼生

鉄道会社の駅係員として8年間、4つの駅を経験しました。コロナ禍やデジタル化を通して移り変わってきた、会社としての鉄道サービスの未来像と、お客様それぞれが求めている鉄道サービスのあり方の両方から学んだことを記事にしていきます。


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