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朝ドラで心に残った“電話のシーン”→主人公に思いを馳せる視聴者も… “タイトルにふさわしい物語”となった1週間

  • 2025.8.8
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『あんぱん』第19週(C)NHK

朝ドラ『あんぱん』の第19週「勇気の花」は、登場人物たちがそれぞれの夢や人生に向き合い、前に進む姿が描かれた濃密な一週間だった。嵩(北村匠海)の漫画家としての新たな挑戦、のぶ(今田美桜)の秘書としての奮闘、そして妹・メイコ(原菜乃華)と健太郎(高橋文哉)の恋の進展。タイトル通り“勇気”が物語を推進する鍵となっていた。

嵩の覚悟とのぶの支え

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『あんぱん』第19週(C)NHK

週の初め、嵩は芝居のポスター制作に取り組んでいたが、漫画家・手蔦治虫(モデル:手塚治虫)の作品との出会いに影響を受け、自身の創作に対して焦りを感じる。そんな彼の背中を押したのは、やはりのぶだった。

嵩が抱える不安や迷いを優しく受け止め、漫画懸賞への応募を提案するのぶの姿に、夫婦としての信頼と絆が浮かび上がる。

結果、嵩の作品が入選を果たし、のぶは子どものように喜ぶ。その無邪気な笑顔に、嵩は心から幸せを感じるのだった。漫画への情熱を再燃させた嵩は、ついには将来的に三星百貨店を退職する決意を固める。副業で食べていけるようになったら、という条件付きで。

のぶにその思いを打ち明けた嵩だが、結局、軌道に乗るまで5年かかったという描写も、なんとも彼らしい。いせたくや(大森元貴)との再会シーンも、嵩にとって間接的にモチベーションを奮い立たせるきっかけとなったのではないだろうか。

メイコと健太郎の恋、青春の光と影

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『あんぱん』第19週(C)NHK

一方、のぶの妹・メイコと蘭子(河合優実)が東京にやってくることで、物語に新しい動きが生まれる。

メイコはカフェで働きながら、音楽の夢を追い始める。カフェで偶然出会った音楽青年・いせたくやのピアノ伴奏に合わせ、メイコが歌の練習に励むシーンは、青春のきらめきと努力の尊さが詰まっていた。

そんななか、メイコと健太郎の関係に大きな進展が起きる。のど自慢予選会での緊張からの失敗、そしてその後の健太郎への涙の告白。「ずっと……ずっと好きでした。今も……今も大好きです」という言葉は、視聴者の心にも深く届いたはずだ。健太郎がNHKに入局した動機が、実はメイコの何気ない言葉にあったというエピソードもロマンチックだった。

5年後、2人は結婚し、すでに2児の親となっている。健太郎から、無事に第二子が生まれた報告の電話を受けたのぶの表情には、喜びとともに、どこか切なさもにじんでいた。SNS上では「展開早い」「本当は子ども欲しいのかな」といった声も上がっており、のぶの人生に思いを馳せる視聴者の多さがうかがえる。

鉄子との衝突、登美子の反応

のぶは、代議士・薪鉄子(戸田恵子)の秘書として働くなかで、鉄子に意見したことで怒らせてしまい、落ち込んで帰宅する。そんな彼女を待っていたのは、嵩の母・登美子(松嶋菜々子)。登美子は上機嫌で家にあがるが、嵩の退職を聞いた瞬間、険しい表情に一変する。

嵩の夢を支えようとするのぶと、現実を見据える登美子との対立は、親世代と子世代の価値観の違いを浮き彫りにする。登美子のキャラクターには、奔放さと優雅さ、そして時代の制約が入り混じっており、松嶋菜々子の演技がその複雑さを巧みに表現している。

今回描かれた「勇気」とは、何も大きなことを成し遂げる力だけを指すのではない。自分の気持ちに素直になること。夢を語ること。誰かを信じること。ときに人とぶつかること。そうした日常の小さな選択にも勇気が宿っていることを、この週は丁寧に描いてくれた。

嵩が漫画家として踏み出す決意をしたこと、メイコが告白し、健太郎と家庭を築いたこと、のぶが自らの言葉で鉄子に思いを伝えたこと。そのどれもが、「自分らしい生き方」を模索するなかで見つけた勇気のかたちである。

第19週「勇気の花」は、タイトルにふさわしく、登場人物たちの内面に芽吹く小さな勇気を丁寧に追った一週間だった。のぶと嵩、メイコと健太郎、それぞれの道のりが交差しながら未来へ向かっていく姿は、視聴者に深い感動と希望を与えた。『あんぱん』はまだまだ続くが、この週の余韻は、物語の軸をしっかりと支える根となっていくだろう。


連続テレビ小説『あんぱん』毎週月曜〜土曜あさ8時放送
NHKプラスで見逃し配信中

ライター:北村有(Kitamura Yuu)
主にドラマや映画のレビュー、役者や監督インタビュー、書評コラムなどを担当するライター。可処分時間はドラマや映画鑑賞、読書に割いている。Twitter:@yuu_uu_