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“記憶と遊び心”を宿す、BOYYディレクター・ワナシリが語るバンコクの自邸と装い哲学【世界のファッショニスタのスタイル美学 vol.1】

  • 2025.7.16

バンコク、ミラノ、 ふたつの街で母を楽しむ日々

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ミラノとバンコク、ふたつの都市を行き来するライフスタイルの中で、ワナシリ・コングマンが“帰る場所”と感じるのが、故郷バンコクのアパートメントだ。パンデミックを機に移り住み、すでに5年が経つ。「以前の家と間取りが似ていたので、不思議と家具の配置もすぐに決まりました」と彼女は和やかに語る。広々とした空間には、子どものような遊び心と、大人の洗練が共存している。

祖母を偲ぶ花瓶は、母になった私に夫が贈ってくれたギフト。ミラノを拠点に20年以上ムラノガラスを手がけてきたアーティスト、ヒュー・フィンドレターに夫が特別にオーダーしたもの。
祖母を偲ぶ花瓶は、母になった私に夫が贈ってくれたギフト。ミラノを拠点に20年以上ムラノガラスを手がけてきたアーティスト、ヒュー・フィンドレターに夫が特別にオーダーしたもの。

一年を通して高温多湿の気候が続くバンコクでは、着られる服にも自然と制限が生まれる。そんななかで彼女が愛用するのが、ボーイ(BOYY)の「チリ・マーケット」プロジェクトから生まれたホットパンツだ。唐辛子のようなバンコクの“熱”をテーマにしたカプセルコレクションで、「本当にはきたかったものを、自分で作りました」と微笑む。日本製のしっかりと目の詰まったコットン地に、フィービー・ファイロ時代のセリーヌCELINE)のハイネックを合わせ、足もとには、透ける素材が軽やかなジルサンダーのブーツを選んだ。「型にはまらないスタイリングが好き」と話す、ワナシリ。実用性と審美性、両方に妥協せず、自由を感じさせる着こなしは、彼女の哲学そのものだ。

感情と遊び心を重ねる、アートのような暮らしと装い

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「私にとって“夏らしさ”は、素材や動きにあるんです。風に揺れるシルクやドレープの美しさ。昼のビーチでも、夜のディナーでも着られることが大事」。暑さと湿気がまとわりつくバンコクの空気に、その自由なスタイリングがよく似合う。そんな彼女がよく過ごすのが、採光のいい大きな窓辺。光が差し込むベランダには植物が並び、その向こうに、高層ビルの輪郭が浮かんでいる。フェンスにもたれかかる彼女が身につけているのは、10年前にミラノの古着店で見つけたヴィンテージのシャネルCHANEL)のドレス。そこに合わせたのは、ボーイが余剰素材からアップサイクルした編み革の帽子と、愛用の厚底クロックスCROCS)。「とても履き心地がよくて、別の色もミラノでよく履いています」。羽根のディテールが施されたプラダ(PRADA)のローブは、リラックスした家時間を象徴する一着。「靴を替えれば、そのまま近所のカフェランチにも行ける」と、屋内と屋外の境界が自然にほどけるのは、バンコクという土地ならではだと話す。 エレガンスと快適さの間を行き来するスタイルには、都市のリズムがにじんでいる。

メンフィスデザインの本棚に息子のおもちゃを飾って、より一層プレイフルなムードに。
メンフィスデザインの本棚に息子のおもちゃを飾って、より一層プレイフルなムードに。
空間に“色”を 差すお気に入りの花瓶。
空間に“色”を 差すお気に入りの花瓶。

インテリアもまた、彼女の美意識と響き合う。色は抑制され、主張しすぎないものが基調。エッグシェルや淡いポレンタ色といった繊細な色選びが彼女らしい。そのうえで、絵や花瓶など“ポイント”で色を効かせる。「スタイリングでも同じ。落ち着いた色合いのウェアに、バッグやシューズで色彩を加えます」

ボーイのラフィア素材のバッグ。スクリプト体のロゴが遊び心を添えている。
ボーイのラフィア素材のバッグ。スクリプト体のロゴが遊び心を添えている。

ミラノの住まいが「大人になった自分」の表現だとすれば、このバンコクの部屋には、彼女の中に残る子ども時代が色濃く反映されている。ヴィンテージフェアで見つけたミッキーマウスのキャビネットは、息子が生まれる前に購入したもので、遊び心とノスタルジーの象徴のようだ。本棚に飾られたユニークなオブジェは、パートナーであるジェシー・ドーシーのコレクションだ。息子のおもちゃも、彼女は捨てずに取っておいている。「そういうものが、ふとした瞬間にハッピーな気持ちを運んでくれるんです」と語る表情には、懐かしさと優しさが滲む。日々に潜むささやかな記憶を拾い集めるような暮らし方が、彼女の中では自然な営みとして続いている。

この空間には、SNSのなかった時代の空気感や、ワナシリとジェシーの子ども時代に通じるノスタルジーとユーモアが静かに息づいている。現在、彼女はバンコクに新たな家を建築中だという。その場所もまた、過去と未来が交差する、彼女にしか描けない風景になるのだろう。記憶とクリエイティビティ、その両方に根ざした彼女の暮らしが、また新たなインスピレーションを育てていく。

【2025年夏のウィッシュリスト】

1.スキャパレリのドレス

ドレス €6,800/SCHIAPARELLI
ドレス €6,800/SCHIAPARELLI

スキャパレリ(SCHIAPARELLI)のピンクのドレスは今年ワードローブに加えたい逸品。「黒ばかり選んでいた私にとっては新鮮で、夏らしい軽やかさに心が惹かれましたシュルレアリスムの世界観にユーモアや愛らしさを添えた解釈も秀逸で、ちょっとした遊び心とバランス感覚にいつも驚かされます」。

2.0117 hodaのTシャツ

トップ ¥31,000/0117 HODA
トップ ¥31,000/0117 HODA

日本ブランド、0117ホダ(0117 HODA)のTシャツは、特徴的なパフスリーブと構造的なシルエットが目を引く一枚。立体感のあるデザインは、シンプルでありながらアートピースのような存在感を放ち、着る人の個性を引き立てるのが魅力。

3.ナタリア・クリアドのアイスクーラー

アイスクーラー €1,391/NATALIA CRIADO
アイスクーラー €1,391/NATALIA CRIADO

コロンビア出身のデザイナー、ナタリア・クリアド(NATALIA CRIADO)によるアイスクーラー。「家ではよくディナーパーティーを開くので、彼女の作品は夏のテーブルにぴったりなんです」。

Profile

ワナシリ・コングマン(Wannasiri Kongman)

タイ・バンコク出身のデザイナー。ラグジュアリーアクセサリーブランド「BOYY(ボーイ)」の共同創業者であり、クリエイティブ・ディレクターを務める。2004年、カナダ出身のクリエイター、ジェシー・ドーシーと出会い、2006年に自身のニックネームを冠したブランド「BOYY」を設立。ミラノとバンコクの二都市を拠点に活動している。

問い合わせ先/スキャパレリ www.schiaparelli.com

0117. ホダ heiga.e@gmail.com

ナタリア・クリアド www.nataliacriado.com

Photos: John Tods, Courtesy of brands Text: Ko Ueoka Editor: Saori Yoshida

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