1. トップ
  2. 朝ドラで注目を集めた“別人級”の登場人物「一瞬誰だか分からなかった」演じ分けの巧みさを感じる“実力派女優の名演”

朝ドラで注目を集めた“別人級”の登場人物「一瞬誰だか分からなかった」演じ分けの巧みさを感じる“実力派女優の名演”

  • 2025.7.28
undefined
『あんぱん』第4週(C)NHK

2025年春に放送が始まった朝ドラ『あんぱん』。やなせたかしの妻・暢をモデルに、戦後の混乱期を自分らしく生き抜こうとするひとりの女性の物語は、今田美桜演じるヒロイン・のぶの成長とともに、毎朝多くの視聴者の胸を打っている。そんな『あんぱん』の序盤、第3週を振り返る。のぶが夢に向かって歩き出すきっかけを与える女学校の先生として登場したのが、ソニンだ。丸眼鏡に袴姿、きりりと背筋を伸ばした凛々しい姿は「一瞬誰だか分からなかった」という声がSNSにも溢れるほどの変貌ぶり。しかし、その静かな登場には、確かに“女優・ソニン”の存在感が詰まっていた。

地元・高知からの熱いエールが生んだ出演

今回の朝ドラ出演は、ソニンにとって初のNHK連続テレビ小説となる。しかも、舞台は彼女の出身地である高知県。制作統括の倉崎憲氏も「高知を訪れるたびにソニンの出演を待ち望む声を多く聞いた」と語っており、地元からのラブコールが今回のキャスティングにつながったことがうかがえる。

「高知を訪れるたびに、ソニンさんの出演を心待ちにしている地元の皆さんの声を多く聞き、その期待に応えたいとお声がけさせていただきました」(引用元:NHK

作中でソニンが演じるのは、女学校の教師という役柄。高知弁で“男まさり”を意味する「ハチキン」という言葉が象徴するように、強く、しなやかに生きる女性たちの背中を押す存在だ。のぶの元気さに少し戸惑いながらも、まっすぐに受け止めようとする姿に、視聴者は早くも「理想の先生像」を重ねたのではないだろうか。

そもそもソニンは、2000年にダンス&ボーカルユニット「EE JUMP」として芸能界デビュー。その後、ソロとしてリリースした『カレーライスの女』では裸にエプロンという大胆なアートワークが話題を呼び、一躍名を知られる存在となった。

しかし彼女の真骨頂はそこからのキャリアの積み重ねにある。2003年のドラマ『高校教師』での女子高生役に始まり、舞台『8人の女たち』やミュージカル『スウィーニー・トッド』での演技が評価されるとともに、同じくミュージカル『ミス・サイゴン』で演じたヒロイン・キム役が大きな話題を呼んだ。

「菊田一夫演劇賞」の受賞歴もあるなど、ミュージカル女優としてのキャリアは確かなもの。その歌唱力、発声、所作のすべてが舞台で鍛え上げられたものだ。

テレビドラマでの再ブレイクと存在感

近年ではテレビドラマへの出演も増え、幅広い層にその演技力が再発見されている。

とくに近年話題となったのは『大病院占拠』を皮切りにした“占拠シリーズ”での警察幹部・和泉さくら役だ。クールでありながら情熱を秘めた演技は、視聴者の記憶にも鮮烈に残っている。

また『となりのチカラ』ではベトナム人女性を演じるなど、多様な役柄への挑戦も続けている。朝ドラ『あんぱん』では、これまでの現代的なキャラクターから一転、戦後の女教師という“静”の演技に挑戦。その演じ分けの巧みさは、まさにキャリアを重ねた女優ならではの引き出しの多さと言えるだろう。

アイドルとして一世を風靡したあと、舞台女優としての道を選び、そしてふたたびテレビドラマの第一線へ。ソニンのキャリアは、派手な脚光を求めるのではなく、作品と丁寧に向き合い、自らを研ぎ澄ませていく歩みだった。

今回の『あんぱん』出演は、その到達点のひとつに過ぎない。むしろ、これからが“女優・ソニン”の本領発揮なのかもしれない。占拠シリーズの最新作『放送局占拠』では、同じく『あんぱん』に出演していた瀧内公美や瞳水ひまりと再共演。SNS上で「出演が被っているシーンはなかったけど」と指摘があったように、『あんぱん』ではニアミスしていた彼女たちだが、『放送局占拠』ではまったく異なる役で同じ画面に映ることで、その“ふり幅の大きさ”があらためて注目されている。

「芯のある女性を演じるなら、ソニンがいる」――そう思わせる説得力と風格が、確かにいまの彼女にはある。

朝ドラでの姿をきっかけに、今後さらに活躍の幅を広げていくであろう彼女に、期待せずにはいられない。


ライター:北村有(Kitamura Yuu)
主にドラマや映画のレビュー、役者や監督インタビュー、書評コラムなどを担当するライター。可処分時間はドラマや映画鑑賞、読書に割いている。Twitter:@yuu_uu_

NHK 連続テレビ小説『あんぱん』毎週月曜〜土曜あさ8時放送
NHKプラスで見逃し配信中