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朝ドラでついに明かされた“ヒロインの気持ち”… 愛しさあふれる“名シーン”に視聴者からも好評の声

  • 2025.7.25
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『あんぱん』第17週(C)NHK

「間に合わなかった」――それだけのことなのに、なぜこんなに胸が苦しくなるのだろう。朝ドラ『あんぱん』第17週「あなたの二倍あなたを好き」は、8年越しの想いと、それでもまだ届かない気持ちのすれ違い、そして戦後という不安定な日々のなかで「生きていること」そのものが、恋よりも重く切実であることを描いた、心に深く刺さる一週間だった。

※【ご注意下さい】本記事はネタバレを含みます。

恋と命が交差する――地震という“現実”

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『あんぱん』第17週(C)NHK

嵩(北村匠海)がのぶ(今田美桜)に渡そうとしていた赤いハンドバッグ。それは8年前の自分が伝えられなかった想いの象徴だった。自分に自信がなく、相手の気持ちに甘えてしまって、ただ黙って見送ることしかできなかったあのころ。

それでも、東京へ向かうのぶを見送りに走りながら、彼はようやく過去と向き合おうとする。けれど、すんでのところで間に合わなかった。

「僕は千尋(中沢元紀)に勉強も運動も何ひとつ勝てなかったけど、一番打ちのめされたのは、のぶちゃんを思う強い気持ちです」

この嵩の言葉は、青春の敗北の痛みであり、恋の不器用さの結晶でもある。「想っていた」だけでは、何も届かない。でも「想っていた」という事実は、確かに人を形づくる。嵩はようやく、自分が誰かを本当に想ったということと、向き合えるようになってきたのかもしれない。

のぶが東京に出て2ヶ月が過ぎた頃、昭和21年12月。高知を大きな地震が襲う。情報は錯そうし、通信も途絶えたまま、のぶは東京でただ祈るしかない。

その間、彼女の頭のなかに浮かぶのは、嵩のことばかりだ。前のように漫画も描けず、スランプ気味だった彼。地震発生の際には自宅で寝ていたらしいが、「どうか無事でいてほしい」と気が気でなかったのぶ自身は眠れぬ夜を過ごしていた。

恋に気づいた瞬間、作品の温度が変わった

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『あんぱん』第17週(C)NHK

のぶの嵩に対する気持ちがはっきりと滲んだのは、「うちにはなくてはならん人ながです」という一言だった。

子どものころから、いつもそばにいたからこそ、気づけなかったのかもしれない。東京と高知で物理的な距離が離れているなか、地震による不安も折り重なって、嵩の存在がどれだけ自分にとって大きいものかに、はっきりと気づいたのだろう。

電話がつながり、無事を確認できた瞬間、のぶは恥ずかしさと安心と怒りがごちゃ混ぜになって「ほいたらね!」と叫んで電話を切ってしまう。照れ隠しのようでいて、どこか愛しいその感情の爆発。そこから、作品全体の温度がひとつ、上がった気がする。SNS上でも、このシーンののぶの様子を指して「ドキンちゃんに見えて仕方ない」「見てるこちらはほっこり」と好評な声が多く見られる。

一方で、嵩もまた揺れていた。地震の影響か、それとも心の奥にある迷いのせいか、彼は創作の手を止めていた。

そんな嵩に寄り添うのは、羽多子(江口のりこ)や蘭子(河合優実)を含めた、編集部の仲間たちだ。離れていてものぶのことを温かく思い遣っている彼らが、嵩の心もゆっくりと温めていく。「好きな気持ちをなかったことにしないで」という蘭子のことばが、じわりと嵩の胸に沁みていく。

その夜、編集室に戻り、嵩は何も語らずに絵を描きはじめる。黙々と筆を動かすその背中には、再び自分を取り戻しつつある姿があった。描くことで、自分の生き方を、そしてのぶへの想いを、もう一度取り戻そうとしているように見えた。

社会のリアルを描く、薪鉄子の存在感

この週のもうひとつの見どころは、政治を通して眼差される、社会の構造に対する鋭い視線だ。

戸田恵子が演じる代議士・薪鉄子の「今日食べるもんも大事やけんど、未来をどう考えるかが政治や」という指摘は、戦後の混乱を描くこの作品に、現代的な痛みを重ねる。この台詞が持つ重みは、単なる時代劇としてではなく、いまを生きる私たちにも強く響く。

孤児の保護を「親戚など個人の家庭」に任せるという政策方針を聞いて、「つまり国は責任を持たないってことですね」と応じる若者たちが頭に浮かぶ。昭和と令和の境目にある“変わらない課題”を、静かに浮かび上がらせる視点が光っていた。

すれ違い、ぶつかり、迷い、逃げ出し――それでも、人は人を想い続ける。

『あんぱん』第17週は、恋の成就でも別れでもなく、気づきと覚悟が主題だった。すべてが報われるわけではない。けれど、その一歩一歩が、確かに人の人生を変えていく。そしてきっと、のぶと嵩の恋もまた、いつからでも始められる。


ライター:北村有(Kitamura Yuu)
主にドラマや映画のレビュー、役者や監督インタビュー、書評コラムなどを担当するライター。可処分時間はドラマや映画鑑賞、読書に割いている。Twitter:@yuu_uu_

NHK 連続テレビ小説『あんぱん』毎週月曜〜土曜あさ8時放送
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