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“トリプル主演”の怪演が話題!最もリアリティの高い存在感…現代女性の“生きづらさ”による逆襲劇【月曜ドラマ】

  • 2025.6.16

最近、テレビ東京は「夫」に対して厳しい。『夫の家庭を壊すまで』や『夫を社会的に抹殺する5つの方法』といったテレビドラマをこれまでも手掛けてきたが、今シーズンは今まで一番殺意の高いタイトルの作品『夫よ、死んでくれないか』が放送中だ。

新ドラマ『夫よ、死んでくれないか』は、モラハラ夫や束縛夫などに殺意を抱く3人の女性を描いた作品だ。キャリアウーマンの麻矢(安達祐実)は職場での性差別と夫の不倫に悩み、専業主婦の友里香(磯山さやか)は経済的依存からモラハラ夫から逃れられず、フリーライターの璃子(相武紗季)は夫の異常な束縛に苦しんでいる。3人は大学時代の友人で、友里香と璃子は夫の殺害を計画する。物語は現代女性が直面するガラスの天井、専業主婦への偏見、束縛といった社会問題を背景に、ミステリー要素を交えて展開している。

ものすごく直球で殺意を表現しているタイトルだが、本作はそんな殺意を抱くのもやむなしの夫たちが描かれる。3組の夫婦を通じて、結婚生活の難しさと現代女性が抱える生きづらさを反映させた内容となっているのだ。

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(C)SANKEI

殺意の根底にある現代女性の生きづらさ

本作はトリプル主人公の構成となっている。大手デベロッパー勤務の甲本麻矢は、自身のキャリアを追及して仕事に邁進しているが、同期の男性社員にどんどん追い抜かれていく。実績充分なはずなのに、いつ子どもができて産休に入るかもしれない社員に何年もかかる大きな案件は任せられないと思われているのだ。

麻矢の夫・甲本光博(竹財輝之助)とは一緒に暮らしているものの心が離れてしまっている。そんなある日、光博の不倫が発覚。「あんたなんか死んでしまえばいい」と麻矢が言い放つと光博は失踪してしまう。

専業主婦の榊友里香は、モラハラ夫の榊哲也(塚本高史)に虐げられる毎日を送っている。しかし、長年専業主婦として生活してきたために仕事の経験とスキルが身についておらず、夫の収入に頼って生きるしかないと思っている。しかし、ある日、耐えかねて「死ね」と言い放ち夫を突き飛ばして意識不明にしてしまう。その影響で記憶喪失になった夫を、今までの復讐とばかりにこき使うようになっていく。

フリーライターの加賀美璃子は、夫の過剰な束縛に悩んでいる。数分おきにメッセージを送るように要求したり、どこに行くのか逐一把握したり、時にも妻のあとを追いかけてくることも。そんな束縛に耐え切れず不倫をしており、離婚を検討している。

3人の女性は大学時代からの友人。たまに飲みに行っては夫の愚痴を言いあう仲だが、友里香と璃子はこれ以上、夫に付き合いきれないと考え殺害を計画するようになっていく。物語はそんな殺害計画と光博の失踪の謎を中心に展開していく。
しかし、本作はそんな物騒な物語だけで終わらない。殺意を抱く根底には、現代社会の女性が抱える生きづらさがあると描かれているのが本作の持ち味だ。

麻矢が直面する会社のガラスの天井、専業主婦が軽く見られるために苦しむ友里香、女性が自由に生きることを許さない夫の監視に悩む璃子と三者三様に悩みは異なるが、どれも今を生きる女性には心当たりのあるものばかりだろう。だからこそ、危険な殺害計画にも一定の共感が得られるような物語となっている。

光博の不倫相手は誰なのか?ミステリー要素も見逃せない

本作はそんな女性たちの抱える問題を、ミステリー仕立てで描いている。殺害を計画する3人は、過去にある秘密を抱えていることが次第に明かされる。ネタバレを避けるために詳述は避けるが、それもまた女性の生きづらさに関わるエピソードであり、同時に3人にとって犯罪である。3人は共犯という「絆」で結ばれた仲なのだ。

そして、麻矢の夫・光博が失踪してどこに行ったのかが全編を通して大きな謎として提示されている。光博は不倫をしていたために、その不倫相手のところにいるのだろうと麻矢は考えるのだが、その不倫相手が誰なのか、作中にさりげなく伏線やミスリードが張り巡らされていて、考察しがいのあるポイントになっている。

役者陣の怪演にも注目

本作はキャストの怪演も話題だ。トリプル主演の3人はリアリティある等身大の女性像を体現しているのに対して、夫たちは絵に描いたような不気味さを表現している。

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(C)SANKEI

キャリア志向の麻矢を演じる安達祐実は、さすがの演技力で会社での扱いに悩む女性を演じている。最もリアリティの高い存在感を発揮していて、働く女性の葛藤を一身に体現する存在だ。友里香役の磯山さやかは、本来の彼女とはかけ離れた地味な存在を演じて、その変身ぶりで驚かせている。璃子を演じる相武紗季は、3人のリーダー的存在で最も華のある存在。トリプル主演に貴重なアクセントを加えている。

そして、男性陣だが、こちらは敢えて露悪的な演技で視聴者のヘイトを買ってでるような存在感を発揮している。モラハラ夫の塚本高史の座った目はとても不気味だ。光博役の竹財輝之助は、どこか頼りなさげで浮世離れしている雰囲気が何を考えているのかわからず、ミステリーの中心としての役割を担っている。何を考えているのかわかりづらいので、一緒に生活していて不安を覚える麻矢の気持ちもよくわかる。そんな芝居を披露している。
そして、最も不気味なのが璃子の夫・弘毅を演じる高橋光臣だ。超がつくほどの束縛主義で、妻の行動は全て知らないと気が済まない。そして、何があっても絶対に別れようとせずに話を聞かない癖も目立つ。要するに自分本位の人間なのだが、ここまでくると冗談に見えてくるほどのレベルの常軌を逸した行動を次々と起こしていく。弘毅の異様な行動は、もはや本作の大きな見どころとなっていると言える。

そんな役者陣の熱演とともに、物語も佳境を迎え熱を帯びてきている。ここから驚きの展開が待ち受けていると思われ、見逃せない展開が続きそうだ。


ライター:杉本穂高

映画ライター。実写とアニメーションを横断する映画批評『映像表現革命時代の映画論』著者。様々なウェブ媒体で、映画とアニメーションについて取材・執筆を行う。X(旧Twitter):@Hotakasugi