1. トップ
  2. 元“朝ドラヒロイン2人”、母親として演じ切った“涙の名シーン”『あんぱん』の魅力を押し上げるベテラン女優たち

元“朝ドラヒロイン2人”、母親として演じ切った“涙の名シーン”『あんぱん』の魅力を押し上げるベテラン女優たち

  • 2025.6.12

NHK連続テレビ小説『あんぱん』は、“アンパンマン”を生み出したやなせたかしと暢の夫婦をモデルにした朝ドラで、ヒロイン・のぶを演じる今田美桜と、嵩を演じる北村匠海をはじめとする若手俳たちの演技が瑞々しいが、2人を取り巻く人々を演じているベテラン俳優たちの名演技も素晴らしい。番組を支え、魅力を押し上げているベテラン俳優たちの芝居に着目してみたい。

ロスになるほど人気を集めた竹野内豊の名演技

undefined
『あんぱん』第7週(C)NHK

嵩の伯父・寛(竹野内豊)は、近隣住民や少し離れた町で暮らす人たちのことも気にかける、とても頼りになる町医者で、家族にも思いやりがあって優しく、非の打ち所がない人物。妻・千代子(戸田菜穂)への愛情にあふれ、「なんのために生まれて、何をして生きるか」「絶望の隣は希望」など、やなせたかしが残した言葉を発しながら、嵩たちを諭すキャラクターでもある。

そんな寛を演じて、視聴者の人気を集めた竹野内は、彼だからこそ寛を体現できたのではないかと思わせる名演技を見せてくれた。寛は懐の深い男性で、嵩はもちろん、自分の子として育ててきた嵩の弟・千尋(中沢元紀)、千代子、家族ではないのぶでさえも、何も否定することなく受け入れ、温かい言葉をかけて励ます人だ。

竹野内は、優しいまなざしと耳心地の良い低音の声で寛を表現し、寛が亡くなる瞬間まで全力で演じ切った。卒業制作を仕上げなければ寛に顔向けできないと、完成させてから帰省した嵩は、寛の最期に間に合わなかったが、寛は亡くなる直前、「嵩、今頃卒業制作、必死に頑張りゆうがやろ。わしが邪魔してどうするがな。最後まで描き上げんと半端でもんてきたりしよったら(腕を布団から突き出して拳を握りしめ)殴っちゃる。嵩が決めた道や、嵩の生きる道や、投げ出すがは許さん。嵩も、千尋も投げ出すがは許さん」と、最後の力を振り絞って“息子”たちを想いやっていた。SNSでは「寛は最期まで人格者だった」「大きな愛に泣けてくる」「竹野内豊の演技に圧倒された」といったコメントが見られ、竹野内ロスになる人が続出した。

視聴者を釘付けにしている戸田菜穂の細やかな芝居

undefined
『あんぱん』第4週(C)NHK

千代子役の戸田の演技に感動する視聴者も増えている。千代子は、寛の甥・千尋を幼少期から養子として迎え、我が子として育て、嵩のことも小学生の時から面倒を見てきた。成長した千尋と嵩が自分の好きな道に進むと決め、寛の後を継ぐ者がいなくなったことを憂う千代子は、寛に向かって「跡取りを産めなかった私のせいです」と嘆いたが、寛は「わしは千代子に惚れて一緒になれて、これ以上の人生はない」と言って、千代子の肩を抱き寄せた。悲しみに沈んだり、寛から愛を注がれ救われた表情を見せたりする千代子を演じる戸田の芝居は、視聴者を釘付けにしている。

undefined
『あんぱん』第4週(C)NHK

また、のぶの母・羽多子(江口のりこ)に、献杯に付き合ってほしいと頼んだ際、自分を残して早世した寛のことを「もう私に会えんでもえいと思うて、さっさと向こうへ行ってしもうた寛さんに怒っちゅうが」と悔しさをあらわにした千代子。涙を流しながらグラスに入ったウイスキーを一気に飲む彼女は愛らしかったが、戸田の名演技によって、千代子の無念や寛への愛の深さが、より視聴者に伝わってきたのだと思う。SNSにも「戸田菜穂さんの細やかな演技にやられた」という声が上がっていた。

2人の朝ドラヒロインによる涙の名シーン

undefined
『あんぱん』第10週(C)NHK

嵩が出征する日の場面でも、戸田の芝居の評判が高かった。千代子は嵩に言葉をかけようとするが、不安と心配の気持ちが募り、立派に奉公するようにといった言葉をなかなか言うことができない。自分の子どものように大事に育ててきた嵩は、とても繊細な男子で、戦争で勇ましく戦えるような青年ではないと分かっているからこそ、千代子は心配でたまらないのだが、そんな千代子の不安と嵩への愛情を、戸田は見事に演じていた。

このシーンでは、嵩の実母・登美子役の松嶋菜々子の名演技も話題を呼んだ。「嵩、死んだらダメよ。絶対に帰ってきなさい。逃げ回ってもいいから。ひきょうだと思われてもいい。何をしてもいいから。生きて……生きて帰ってきなさい!」と、嵩に向って叫ぶ登美子からは、初めて息子・嵩への深い愛情が感じられ、松嶋の情熱あふれる芝居に、筆者も嗚咽してしまった。

かつて、戸田は『ええにょぼ』(1993年度前期)で、松嶋は『ひまわり』(1996年度前期)で主演を務め、2人とも朝ドラヒロイン経験者。そんな2人が演じる、嵩の“2人の母親”の名シーンは忘れ難いものとなった。

ベテラン俳優たちの重厚感や悲哀のある演技に唸る

ほかにも、のぶの祖父・釜次(吉田鋼太郎)が、去っていく屋村(阿部サダヲ)をのぶが追いかけようとした際、「これ以上、あいつを苦しめたらいかんがじゃ」と止めたシーンでの吉田の芝居には思わず唸った。重厚感の中に温かさも感じられ、さすがはベテラン俳優だと実感。もちろん、阿部のコミカルな演技や、ちょっとしたやり取りの中に感じられる悲哀にもグッと来る。

ベテラン俳優たちの数々の名演技が光る『あんぱん』。今後も彼らの緩急のある芝居が本作を支え、より魅力的なものにしていくに違いない。


NHK 連続テレビ小説『あんぱん』毎週月曜〜土曜あさ8時放送
NHKプラスで見逃し配信中

ライター:清水久美子(Kumiko Shimizu)
海外ドラマ・映画・音楽について取材・執筆。日本のドラマ・韓国ドラマも守備範囲。朝ドラは長年見続けています。声優をリスペクトしており、吹替やアニメ作品もできる限りチェック。特撮出身俳優のその後を見守り、松坂桃李さんはデビュー時に取材して以来、応援し続けています。
X(旧Twitter):@KumikoShimizuWP