1. トップ
  2. 恋愛
  3. 【60代カルチャー】心を揺さぶる作品がいっぱい!60代こそ女性劇作家が面白い理由とは?【好奇心の扉・前編】

【60代カルチャー】心を揺さぶる作品がいっぱい!60代こそ女性劇作家が面白い理由とは?【好奇心の扉・前編】

  • 2025.5.15

道標となる物語に出合うと心が励まされるもの。「そのひとつとして戯曲があります」と語るのは演劇と文学を研究する米谷郁子先生。特に、素敵世代へのおすすめは、同時代を生きてきた日本の女性劇作家たちの作品。それは「女性が胸に抱くさまざまな思いを、作品が丁寧にすくい取ってくれていると感じられるから」。女性の視点から描かれた、心のひだを震わせる戯曲に触れてみませんか?

1970年代から1980年代にかけ、女性主宰の劇団が次々と立ち上げられました。

自由な生き方をロミジュリに託した少女マンガ

演劇との初めての出合いはマンガだった、という素敵世代の方は多いかもしれません。『ガラスの仮面』だけでなく、それ以前からストーリーや物語の枠組に演劇を取り入れたマンガは数多くありました。手塚治虫さんの『リボンの騎士』が、宝塚歌劇団の影響を受けているというのは有名なエピソード。シェイクスピアなどの有名戯曲を筋書きに含んだ作品も登場しました。

『ロミオとジュリエット』は、その代表的な存在。家同士の争いに追い詰められて、若いロミオとジュリエットは自ら命を絶ちます。「でも、ただ悲しく終わるだけの話ではない」と米谷先生はいいます。

「ふたりの恋愛には、若い世代の親世代への反抗や自己実現が暗示されています。同時に、自分らしさや多様性を発見するというモチーフともなるのが『ロミオとジュリエット』。そうした力を秘めた物語を自分の作品に取り込むことで、そのころの少女マンガ家たちは男性中心の価値観からの脱却を表現したのではないでしょうか。自分のことを"僕"と呼ぶ女子高生が、演劇部の舞台でロミオを演じきり成長を見せる『つらいぜ!ボクちゃん』(高橋亮子)。『ジュリエットの海』(吉田秋生)の主人公は男子中学生ふたり。性別の枠組を超えることも、ロミジュリの物語は可能にします」

さらに、「マンガは日本の女性劇作家にも影響を与えていました」と米谷先生。

「劇団青い鳥は、高野文子さんや大島弓子さんのマンガにインスパイアされた作品を創作していた時期がありました。高野さんは、青い鳥の公演ポスターのイラストもいくつか手がけられています」

青い鳥は女性だけの役者とスタッフから構成された劇団です。 創立当初は劇団員全員で創作を 行い、舞台挨拶の最後に「作・演出一同礼!」と、全員で頭を下げたことからペンネームを「市堂令(いちどうれい)」としました(※1)。

描かれる女性を脱却してみずからが描く女性へ

「青い鳥は小劇場を中心に活動していました。1970年代、いわゆるアングラと呼ばれた小劇場の劇団は反体制を掲げていましたが、女性に対しては抑圧的だったといっていいでしょう。女性俳優が演じるのはいつも、癒やしたり励ましたりする母や天使、戦うジャンヌ・ダルク、ファム・ファタール(運命の女)など、男性主人公のために描かれた役割だったのです」

その状況から抜け出し、描かれる側から描く側に向かうべく、1970年から1980年代にかけて、女性主宰の劇団が次々に立ち上げられました。その代表的な存在が青い鳥であり、如月小春さんであり(※2)、渡辺えりさん(※3)の劇団3〇〇(さんじゅうまる/※4)であり、昨年の大河ドラマ『光る君へ』の脚本家大石静さんと永井愛さんが立ち上げた二兎社でした(※5)。

「中学生のときに友達から戯曲本を贈られたこともあり、私にとって思い出深い作品は渡辺えりさんの『ゲゲゲのげ』。いじめられっ子の姿と鬼太郎たちや東北の民話的世界が交わる作品で、結末を予測させない独特の詩情が心に残り続けています」

また当時、女性たちの劇作の特徴は喜劇であることでした。その理由を米谷先生は次のように分析しています。

「彼女たちにとって笑いは、女性たちが世間の規範から逸脱するためのエネルギーだったのだと思います。1990年代に入ると、次第に歴史上のテーマに取り組む作品が多くあらわれるようになりました。女性演劇人たちが過去を回想することと生きることの重なりを表現し、同時に作家としての営みを見つめ直す機運が生まれてきたのだと思います。この潮流は現在まで続き、女性史をフェミニズムの視点から掘り起こす作品が多く誕生してきました」

※1:公式サイト「青い鳥創業」によると1993年以降 は作・演出「市堂令」という形に限らず、公演ごと に創作スタイルを変えている。https://aoitori.org/ 
※2:2000年に逝去。
※3:劇団設立時は「渡辺えり子」。
※4:1997年解散、現在はオフィス3〇〇。
※5:大石静さんは1991年退団。

『ロミオとジュリエット』を取り⼊れた少⼥マンガ

『ジュリエットの海』(『夢みる頃をすぎても』収蔵)

⼩学館文庫¥639
哲郎と透は幼なじみ。中学校の文化祭では、それぞれロミオとジュリエットを演じることになる。しかし、透も哲郎も時を置いて転校することになり、ふたりは離れ離れになってしまう。/1983年『別冊少女コミック』に掲載。

『つらいぜ!ボクちゃん』

⼩学館eコミックストア¥484
高校生・田島望は「ボク」が一人称。文化祭に上演される『ロミオとジュリエット』では従者役だったが、本番3日前にロミオ役の男子生徒が怪我をして、急遽代役を務めることに。/1974年から『少女コミック』に連載。

名作が無料で読める日本劇作家協会の戯曲デジタルアーカイブ

「ひとりでも多くの方に、末永く戯曲を味わってほしい、また適切な方法で演劇作品として上演してもらいたい」と、日本劇作家協会が運営しているサイト。2021年にスタートし、現在1000本以上のタイトルを掲載している。すべて無料で公開され、初演時のキャスト・スタッフの情報も記載されている。なお、今回紹介した『鯨よ!私の手に乗れ』(渡辺えり作)、『蜜柑とユウウツ-茨木のり子異聞-』(長田育恵作)も、読むことができる。
https://playtextdigitalarchive.com

取材協力/出雲まろう イラスト/大山奈歩 構成・文/杉村道子

※素敵なあの人2025年6月号「フェミニズムの視点が物語を豊かにする!素敵世代にとって女性劇作家が面白い理由」より
※掲載中の情報は誌面掲載時のものです。
※画像・文章の無断転載はご遠慮ください

お話を聞いたのは 米谷郁子先生

専門は英文学、およびその後世における校訂・受容・翻案研究。著書に、『愛の技法』『読むことのクィア』(以上、中央大学出版部、共著)、『今を生きるシェイクスピア―アダプテーションと文化理解からの入門』(研究社、編著)など。 「『女性劇作家』といった女性であることのみにアイデンティティを集約してしまう表現には抵抗感もあります。けれども同時に、ここ数十年の日本社会において、女性の劇作家たちが拓いてきた道がたしかにあるということも忘れてはいけません」

この記事を書いた人 素敵なあの人編集部

「年を重ねて似合うもの 60代からの大人の装い」をテーマに、ファッション情報のほか、美容、健康、旅行、グルメなど60代女性に役立つ情報をお届けします!

元記事で読む
の記事をもっとみる