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朝ドラの時間が育てたのは“キャラだけじゃない”… 「母の夢を叶えられた」注目女優に宿った確かな“進化”

  • 2025.6.5
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『あんぱん』第5週(C)NHK

現在放送中の朝ドラ『あんぱん』で、小川うさ子役を演じている志田彩良。主演・今田美桜演じるのぶの幼なじみとして登場し、物語のなかで静かに成長を遂げる少女を丁寧に演じている。初の朝ドラ出演となる今作で、志田はその透明感と繊細な感情表現を武器に、視聴者の心を静かにとらえている。なぜ彼女の演技は人を惹きつけるのか?

「後ろに隠れる少女」からの脱皮

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『あんぱん』第5週(C)NHK

当初のうさ子は、のぶの影に隠れがちな、気の弱い少女であった。女子師範学校での厳しい規律、他者との関わりのなかで、彼女は少しずつ自分の殻を破っていく。なかでも、薙刀との出会いは、うさ子にとって大きな転機となった。撮影現場では、志田が真剣勝負のような気持ちで薙刀の稽古に臨んでいたという。静かな内面に芯を宿した演技が、成長過程のリアリティを高めている。

志田彩良の演技には、“余白”が感じられる。言葉で説明しすぎず、目線や呼吸、声のトーンで語る表現力が志田の持ち味ではないか。それが「この人はいま、何を考えているのか」と視聴者の想像力を掻き立て、物語への没入感を生み出す所以になっている。

派手さは控えめであるものの、登場人物として“その場にいる”ことの説得力がある。演技が前に出すぎず、役に静かに寄り添うその姿勢こそが、志田の俳優としての魅力である。SNS上でも、常にのぶの後ろに隠れていた少女から、立派な女性になった過程を指し「演じ分けが素晴らしい」との声が見られる。

多様な役柄を演じ分ける柔軟さ

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『あんぱん』第5週(C)NHK

過去の作品を振り返ると、連ドラ『チア☆ダン』では明るく前向きな役を、『ドラゴン桜』では知的で控えめな優等生を演じている。

いずれも異なるタイプのキャラクターでありながら、志田の演技は一貫して“作り込まない自然さ”を保っている。役作りの際に、彼女が日常的に行っているという「人間観察」が、その引き出しの多さを支えているのだろう。

今回の朝ドラ出演について、志田は「母の夢を叶えられた」と語っている。母親の世代にとって、朝ドラ出演は特別な意味をもつ。その思いを背負いながら、うさ子役として真摯に演じる姿勢が、視聴者に深く伝わっているのだ。

志田彩良にとって、「うさ子」は特別な役だったに違いない。この作品は志田自身の成長の通過点であると同時に、家族との絆を感じる節目でもあった。長丁場の朝ドラでは、時間をかけてキャラクターが育っていく。序盤の弱々しさから、仲間との関係性や薙刀の稽古を経て少しずつ内面が鍛えられていくうさ子の姿は、そのまま志田自身の俳優としての変化とも重なって見える。

また、日々変化する役の心情を丁寧に追い、視聴者に届くかたちで演じ切ることは、映画や短期ドラマでは得難い経験だ。細やかな視線の揺れや、沈黙のなかに宿る感情を“間”で表現する志田の演技は、今作を経ていっそう深みを増していくのではないか。朝ドラという舞台で彼女は、静かながら確かな“変化の兆し”を確かに咲かせた。

志田彩良という俳優は、繊細で静かな役を通して、内に秘めた強さを表現するのが得意である。それはまさに、朝ドラ『あんぱん』のうさ子役にも通じるものだ。視聴者は、彼女の演技を通して、自己主張が少なくても強く生きることができるという一つの在り方を見出すことができる。


NHK 連続テレビ小説『あんぱん』毎週月曜〜土曜あさ8時放送
NHKプラスで見逃し配信中

ライター:北村有(Kitamura Yuu)
主にドラマや映画のレビュー、役者や監督インタビュー、書評コラムなどを担当するライター。可処分時間はドラマや映画鑑賞、読書に割いている。Twitter:@yuu_uu_