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「なんか怪しい」付き合って1年半36歳彼に感じる違和感。その正体が食事中に判明し…

  • 2025.4.14

レストランを予約してその予定を書き込むとき、私たちの心は一気に華やぐもの―。

なぜならその瞬間、あなただけの大切なストーリーが始まるから。

これは東京のレストランを舞台にした、大人の男女のストーリー。

▶前回:「そんなの聞いてない…」別れる前の“最後のデート”で、彼から告げられた衝撃の真実とは

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「自信を持たせてくれる男性」紗江(33歳)/ 帝国ホテル『寅黒』


帝国ホテルに足を踏み入れると、どこか別の世界に来たような気がするのはなぜなのだろうか。

重厚感のある内装に、背筋がピンとするクラシックな雰囲気。なんでもない日に訪れるのが、もったいないような気持ちにさえなる。

「今回の仕事は結構大変だったの」と恋人の恭平に話したのは2週前。

「それじゃあ、ご褒美しないとね」と『寅黒』を予約してくれたのだ。

― 優しくて、完璧すぎる彼氏だよなぁ…。

待ち合わせ前にパウダールームに寄り、私は前髪を手ぐしで整えながら、ふぅと息を吐いた。

何を着ようか、と散々迷って決めたAlexander McQueenのブラックドレスとMANOLO BLAHNIKのパンプス。その装いが、私に自信を持たせてくれる。

ロビーに戻ると、こちらに向かってくる恭平と目が合い、私は顔の横で小さく手を振った。

「紗江、今日のワンピースすごく似合ってるよ。今日も綺麗だね」

「ほんとう?ありがとう」

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私が自分のことを「もしかして、相当な美人なのかも?」と勘違いしてしまうほど、恭平は褒め上手だ。

「忙しくてまともな食事してなくて…急に本格的な和食をいただいたら、おなかがビックリすると思うわ」

「あはは、可愛いね。じゃあこれからはもっと頻繁に連れ出さないとだ」

私たちは、そんな会話をしながら地下1階に降りた。

カウンターに着席すると間もなくオープンキッチンから素晴らしい料理が提供され、それらに私は感動し続けた。

旬の海鮮は、そのポテンシャルを最大限に引き出され驚くほどに美味だし、高級食材同士の組み合わせも斬新で面白い。

「おいしい…こうやって恭平とゆっくり食事できるのって、つくづく幸せ」

車海老真丈のお椀をいただきながら言うと、恭平は「僕もだよ」と優しく微笑んだ。

私は日本酒をお願いしたが、彼の飲んでいる辛口の白ワインにも合いそうだ。

「たまにはさ、こういう贅沢もいいよね。紗江の笑顔を見てるといくらでもご馳走したくなるし」

「嬉しい。いつもありがとうね」

― ねぇ…私たちの未来を、あなたはどう考えてる?

恭平の優しい眼差しを見ながら、心の中で尋ねた。

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日系の証券会社勤務の恭平とは付き合って1年半。

親が離婚して母子家庭で育った私は、母親から「結婚したら恋愛感情なんか消えるわよ」と言われ続けていた。だからだろうか、結婚したいと思うこと自体、悪いことのように思っていた。

そんな私の気持ちを察してか、恭平とは結婚の話になったことがないが、それでも十分幸せだった。

なのに、時々とてつもない不安に襲われるのはなぜなのだろう。

彼は36歳で33歳の私よりも3つ年上なのだが、もっとずっと大人に見えるのだ。私の知らない世界を知っているような…そんな気配が漂っているから、怖くなってしまう。

― 恭平との未来に確約がないから?

怖さと不安の正体を知りたくて、彼の目をじっと見つめてみたが、少々不自然に背けられてしまった。

愛されているのはわかっているのに、時々こんなふうに胸がざわつくのはなぜなのだろうか。

― ダメダメ。余計なことを考えたら楽しくない!

私は日本酒を一口飲み、この素晴らしい夜を楽しもうと自分に言い聞かせた。

「次は何を飲もうかなぁ。それおいしい?」

私が聞くのとほぼ同時のタイミングで、長いカウンターの一番奥に座っていた女性がカトラリーを床に落とし「すみません」と謝る声がした。

私は無意識に背中を反らし、その女性を見た。

自然とその女性へと視線がいく。

「あ…」

思わず小さく声が漏れてしまった。その女性が顔見知りだったからだ。

カトラリーを落とした女性は、神野麻美。Web制作会社の役員で、フリーライターである私は、彼女から仕事の依頼を受けたことがあるのだ。

向こうはこちらに気がついていない。麻美の隣には中学生くらいの女の子が座っていた。

「一番奥の席、知り合いだ…」

私が小声で言うと、恭平も麻美の方へ視線を送った。

あちらも食事中なので、挨拶するのは後にしようと思い恭平を見ると、彼は顔を隠すように手を目元にやっている。

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「彼女、麻美さんっていうんだけどね。あんなに大きなお子さんがいるなんて知らなかったなぁ」

「へぇ…」

恭平は静かに言うが、私を見ない。

― ん?

反応に違和感があるが、ここで問い詰めることでもないと判断した私は、コース最後のデザートに手を伸ばす。

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しかし、まだお茶も飲み終わってないというのに、恭平は誰よりも早く会計を済ませ、私の手を取って店の外へ出た。

いつもなら会計時に「リップ直しておいで」と私を化粧室へ促すのだが、今夜はそれがない。

― どうしたんだろう。

― 麻美さんと知り合いだったとか?だとしたら、どんな関係…?

私は無意識のうちに、私自身が傷つかないような可能性を頭に巡らせていた。

「パパ!」

後ろから声がして、恭平が振り返る。

「……莉子」

恭平が莉子と呼んだ女の子は、先ほど麻美の隣にいた子だった。

― 今、パパって言った?

私にとって最も最悪で、予想もしていなかった解答を目の前に突きつけられてしまった。

頭の中が真っ白になり、言葉がうまく出てこない。

恭平が一瞬息をつき、私を見つめてから静かに口を開いた。

「ごめん、紗江。ちょっと1階のロビーラウンジで待っててくれる?10分、いや5分で行くから」

「わかった」

そう言うしかなかった。

帰ってもよかったし、その場で「どういうこと?」と聞く権利もある。でも…そんな気力は湧き上がってこなかったのだ。

それから20分後。

約束の時間をだいぶ過ぎてから恭平は現れた。そこにいつもの完璧で余裕がある大人の彼はいなかった。

― 不安の正体…これだったのね。

私は思わずフッと笑った。そうやって己を嘲笑わなければ、精神を保てなかったのだ。

どうにか冷静さを保ち、深呼吸をしてから恭平に聞く。

「説明してくれる?」

すると、彼は重たい口を開いた。

麻美とは同じ長野出身で、高校の同級生。サッカー部員とマネージャーの関係で、大学進学で上京したが交際は続き、卒業してから間もなく麻美が妊娠したという。

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しかし、娘の莉子がまだ4歳の頃に離婚。

麻美が育てているのだが、莉子との面会日になると、何かと理由をつけて延期にされ、これまで娘と会う時間は少なかったらしい。

「どうして言ってくれなかったの?」

私は自分でも驚くくらい低い声でつぶやいた。

「ごめん。俺の過去を知って、紗江が離れていったらと思うと怖くて……もう誰も…いや、紗江を、失いたくなかった」

恭平の言葉には、ちゃんと感情が乗っていた。今までで一番、人間らしい姿を見た気がする。

こんな時にそれを嬉しく思うなんて、私もつくづくバカだ。

「今日は帰るね」

まだ一緒にいたがる恭平を振り切り、私はひとりでタクシーに乗った。

それから1週間。私は恭平に連絡ができずにいた。

これまで毎日のようにLINEでやり取りし、週の半分はお互いの家に行き来していたからか、この7日間はとてつもなく長く感じた。

『恭平:今まで黙っていて本当に悪かった。紗江の気持ちが落ち着いてからでいいから、会えないかな』

このメッセージが来たのは、帝国ホテルで別れた日の翌日。既読はつけたものの、未だに返信ができないでいた。

そのくらいショックだったのだ。

恭平に婚姻歴があったことや、娘がいることではなく、嘘をつかれていたことに。

― もし私と結婚しても、その結婚が初めてじゃないし、私との子どもも初めての子じゃないんだよね。

自分の気持ちに気づいたのと同時に、目にじわっと涙があふれた。

幼い頃から結婚は悪だと刷り込まれていたけれど、本当は信じたかったのだ。たったひとりの人との固く結ばれた絆や愛を。

私はスマホに文字を打ち込んだ。

『紗江:今日会える?』

恭平のことは結婚したいくらい好きだ。その気持ちに偽りはない。けれど、許せるかはわからないのが今の正直な気持ちだ。

人生はまだまだ長い。きっと恭平と別れても新たな出会いはある。

情とか友人の意見や世間体に流された選択ではなく、自分の心に素直に従った選択ができるかどうか。

それが、簡単なようで難しいのだが、人生において結局一番大事なことのような気がする。

私は、恭平からの返事を待ちながら仕事の続きを始めた。

どうか、希望を持てる返信が来ますように、と心のどこかで願いながら。


▶前回:「そんなの聞いてない…」別れる前の“最後のデート”で、彼から告げられた衝撃の真実とは

▶1話目はこちら:港区女子が一晩でハマった男。しかし2人の仲を引き裂こうとする影が…

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