ぽっちゃり体型で、おばさんパンツを愛用するブリジット・ジョーンズ。大酒飲みでヘビースモーカー、ズボラな性格で数々の失敗もしてきたけれど、ラブコメ界の愛すべき人気キャラクターだ。そのブリジット・ジョーンズが9年ぶりに帰ってきた。レネー・ゼルウィガー主演の『ブリジット・ジョーンズの日記 サイテー最高な私の今』が4月11日(金)より劇場公開される。シリーズ完結編となる新作の見どころに加え、これまでにブリジットが歩んできた職業&恋愛遍歴を振り返ってみよう。
ラブコメのイメージを一新した規格外ヒロイン
第1作『ブリジット・ジョーンズの日記』(2001年)はかなりの衝撃作だった。それまでのラブコメ映画のヒロインは、スレンダー体型の品行方正タイプが圧倒的に多かった。そんな男性がイメージするかわいいヒロイン像から、レネー・ゼルウィガー演じるブリジットはムチムチボディを震わせながら、女の本音を炸裂させるリアルな女性像へと変貌を遂げたのだ。アラサー女子のブリジットが仕事と恋に七転八倒する等身大の姿は、ラブコメ映画のイメージを大きく塗り変えることになった。
パーティーを盛り上げようとジョークを発しても、駄々滑りしていたブリジット。でも、失敗した姿も、チャーミングだった。第1作で32歳だったブリジットは出版社からテレビ局のレポーターへと転職。出版社時代の元上司で超遊び人のダニエル(ヒュー・グラント)と、実家がご近所の堅物弁護士・マーク(コリン・ファース)という対照的な2人の男性から同時に求愛され、ブリジットは大いに悩むことに。
世界的な大ヒットとなった第1作に続き、第2作『ブリジット・ジョーンズの日記 きれそうな私の12か月』(2004年)もヒット。結婚への焦りを覚えるブリジットは、交際中のマークの仕事仲間が集まった晩餐会に出席するも、上流階級の雰囲気にどうもなじめない。マークと大げんかしてしまった折、テレビ局の取材でダニエルとタイへ向かうことになるブリジット。だが、タイのリゾート地ではっちゃけてしまい、地元警察の厄介になってしまう。
40代になり、大きな決断をすることに
いくつになっても失敗をやらかしてしまうブリジットだが、困っているときに頼りになるのはやはり誠実な男・マークだった。ようやく大本命のマークと第2作でゴールインと思いきや、シリーズ第3弾『ブリジット・ジョーンズの日記 ダメな私の最後のモテ期』(2016年)では、テレビ局のプロデューサーとなったブリジットは独身のまま40代を迎えている。
友人に誘われた野外フェスで、ブリジットはまたまた弾けてしまい、ダンディな米国人のジェイク(パトリック・デンプシー)とのワンナイトラブを経験。それから数日も経たないうちに、別の女性と結婚していたマークと再会。マークが離婚調停中なことを知り、ついついマークともベッドを共にしてしまう。
医師のローリングス(エマ・トンプソン)に診てもらったブリジットは、40代にして初めて妊娠したことが判明。ジェイクかマークか、父親がはっきりしないまま、ブリジットは出産することを決意する。
2児の母親になったブリジット
これまでのシリーズを観てきたファンにとっては、ブリジットは単に映画上の架空のキャラクターというよりは、不透明な時代を生きるキャリアウーマンのロールモデルの1人として気になる存在だったのではないだろうか。さんざん失敗を重ねてきたブリジットは、その後どんな母親になっているのか? 50代を迎えた女性の幸せとは? ファンのそんな期待に応える内容に、新作『サイテー最高な私の今』はなっている。
前作のラストでようやくマークと結ばれたブリジット。ずいぶん遠回りはしたけれど、ブリジットにとっては最愛のパートナーと一緒に暮らす最高に幸せな日々だった。ところが『サイテー最高な私の今』の冒頭で、人権派の弁護士だったマークは支援活動していたスーダンで亡くなったことが告げられる。マークが亡くなり、すでに4年の歳月が経っていた。
マークとの間には、長男のビリー(カスパー・クノプス)に加え、娘のメイビル(ミラ・ヤンコヴィッチ)も生まれており、シングルマザーとして2人の育ち盛りの子どもたちの世話に追われるブリジットだった。
母親としての賑やかな毎日には満足しているが、ひとりの女としてはどうなのか? 心の中には埋めがたい喪失感も抱えたままだ。かつて働いていたテレビ局に再びプロデューサーとして復帰したブリジットは、仕事に子育てに、そして恋愛にと、これまで以上に奮闘することになる。ブリジットの貪欲さが素晴らしい。失敗を恐れずに突き進むところは、彼女のいちばんの魅力でもある。
コンプレックスに悩み続けたレネー・ゼルウィガー
主演女優レネー・ゼルウィガーは長年にわたってブリジットを当たり役にしてきたこともあり、演じるキャラクターと実人生が重なる部分も多々あるように思う。トム・クルーズ主演作『ザ・エージェント』(1996年)や『キートンのセブンチャンス』(1925年)をリメイクしたラブコメ映画『プロポーズ』(1999年)などで庶民派のヒロインを演じ、キャリアを育んできた。ジム・キャリーと共演したコメディ映画『ふたりの男とひとりの女』(2001年)では、ジム・キャリーに「いつもレモンを齧ったような、すっぱい顔をしている」と劇中で言われている。ジム・キャリーとは私生活でも交際していた。
身近にいそうなヒロインだからこそ『ブリジット・ジョーンズの日記』も大人気だったわけが、休養期間を経ての復帰作となった第3弾『ダメな私の最後のモテ期』ではレネー・ゼルウィガーのルックスがずいぶんと変わった。ぽっちゃり顔がシュッとした顔になっていた。SNS上では「整形した?」と騒がれたが、レネー本人は「年を取って変わっただけ」と否定。バレバレなのに……。人気女優になっても、自分の容姿にずっとコンプレックスを感じていたなんて、まさにブリジットのまんまではないか。
整形疑惑で騒がれたレネーだが、『ジュディ 虹の彼方に』(2019年)では幼いころから薬物依存に苦しんだ伝説のハリウッド女優ジュディ・ガーランドの47年間の波乱の生涯を演じきり、アカデミー賞主演女優賞に選ばれている。持ち前の演技力で、見事に世間のざわつきを鎮めてみせた
シングルマザーになったブリジットの変わった点と変わらない点
50代になった今回のブリジットを観て、ファンはまた驚くかもしれない。子育てに追われるブリジットは、ノーメイクに近く、笑うと目に小じわができるのを隠そうとしない。本当におばさんパンツが似合う、おばさん姿になってしまっている。
映画前半は髪もぐちゃぐちゃで、パジャマのまま子どもたちを学校に送るブリジットだった。だが、マークのいない喪失感から立ち直るため、ブリジットは一念発起。身だしなみを整えて、テレビ局での仕事を久々に再開。さらに年下の男性・ロクスター(レオ・ウッドール)とも知り合い、思いがけず交際することに。失敗を恐れない猪突猛進さだけでなく、人生経験も加味した包容力のある大人の女性として輝くようになっていく。
テレビ局の収録スタジオで、番組プロデューサーのブリジットが踊り出すシーンがいい。カメラリハーサルの際に、アシスタントディレクターに「ちょっと踊ってみてくれる?」と頼んだところ、尻込みされてしまう。それならばと言い出したブリジット本人が踊り出し、現場を盛り上げてみせる。明るく周囲を気遣えるのもブリジットの長所だ。収録スタジオでは、もうひとつ笑えるエピソードが用意されている。
若いころは自分が発したジョークが滑ってしまい、落ち込むこともあったブリジットだが、年齢を重ね、その場の状況をうまく受け入れて楽しむことができるようになった。母親が輝いている姿は、2人の子どもたちにとっても大きな喜びとなる。
『ラブ・アクチュアリー』を思わせる群像劇スタイル
シリーズ第1作から英国の製作会社「ワーキング・タイトル・フィルムズ」が手掛けている『ブリジット・ジョーンズの日記』だが、今回はブリジットの子どもたちが物語に加わり、学校のエピソードが多く盛り込まれている。ブレンディみかこのエッセイ集『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』(新潮社)にも書かれていたが、英国の公立系小・中学校は保護者が参加する学校イベントが思いのほか多いようだ。
子どもたちの視点を交えることで、やはり「ワーキング・タイトル・フィルムズ」が製作した『ラブ・アクチュアリー』(2003年)っぽい群像劇になっているのも本作の面白さだろう。
そしてもうひとり、このシリーズを語る上で忘れてはならないのが、ブリジットが出版社時代に社内恋愛していた元上司のダニエルだ。ヒュー・グラント演じるダニエルは、第3作で飛行機事故死を遂げたことになっていたが、実は新聞の誤報で、今回もしっかりと登場する。髪に白いものが目立つようにはなったが、相変わらずの遊び人キャラのままである。
夫のマークを失ったブリジットにとって、長い付き合いとなるダニエルは今では気兼ねせずに会話が交わせる良き相談相手となっている。ブリジットが外出する際は、ダニエルが子どもたちの父親代わりになってくれる。昔の交際相手と、こんな良好な関係を築くことができれば最高ではないか。
登場キャラクターたちがそれぞれのハッピーエンドを迎える『ラブ・アクチュアリー』のように、新作『サイテー最高な私の今』もブリジット、ブリジットの子どもたち、そしてダニエルにも、それぞれ幸せが訪れることになる。四半世紀にわたって奮闘してきたブリジットがどんな幸せを手に入れたのか、ぜひ確かめてみてほしい。
『ブリジット・ジョーンズの日記 サイテー最高な私の今』作品情報
『ブリジット・ジョーンズの日記 サイテー最高な私の今』
(原題『BRIDGET JONES:MAD ABOUT THE BOY』)
製作総指揮/ヘレン・フィールディング、レネー・ゼルウィガー
原作/ヘレン・フィールディング 監督/マイケル・モリス
脚本/ヘレン・フィールディング、ダン・メイザー、アビ・モーガン
出演/レネー・ゼルウィガー、ヒュー・グラント、キウェテル・イジョフォー、レオ・ウッドール、コリン・ファース、エマ・トンプソン、ジェマ・ジョーンズ、ジム・ブロードベント、カスパー・クノプス、ミラ・ヤンコヴィッチ
配給/東宝東和 4月11日(金)より全国ロードショー
(C)2025Universal Pictures
https://bridget-jones-movie.jp/