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脇役時代を重ねてきたからこそ出来る“圧倒的な演技力”… 名女優が物語にリアリティを与える『恋は闇』

  • 2025.4.23
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(C)SANKEI

志尊淳と岸井ゆきのがW主演を務めるドラマ『恋は闇』は、好きになった人が殺人犯かもしれないという不安と恐怖を描いたサスペンス&ラブストーリーだ。

テレビ局の情報番組『モーニング・フラッシュ』のディレクターとして働く筒井万琴(岸井ゆきの)は、「ホルスの目殺人事件」を取材する中で、週刊誌のフリーライター・設楽浩暉(志尊淳)と知り合う。

設楽は甘いマスクと人たらしのキャラクターでスクープを連発する名物記者で「報道は面白ければいい」という設楽の露悪的なスタンスに対し万琴は反発を抱く。だが、軽薄な顔の奥に見え隠れするジャーナリストとしての真摯な姿を知り、次第に惹かれていく。
万琴は学生時代に親友がストーカーに刺され、その時にマスコミから過剰な取材を受けて恐怖を感じた。だが、マスコミが報道したことで犯人が逮捕されたことに対しては感謝しており、報道に対して恐怖と感謝という分裂した気持ちを抱いている。だからこそ彼女は、被害者側の気持ちに寄り添える報道記者になろうと思った。

そんな万琴の気持ちに設楽は理解を示し、二人の仲は急速に深まるのだが、第1話の最後に、設楽のモノローグで彼が何らかの罪を犯していることが示され「ホルスの目殺人事件」の犯人が履いていたスニーカーと設楽の履いているスニーカーが同じものであることが明らかとなる。しかし、犯人らしき男の姿も挟み込まれるため、設楽は犯人ではなく、彼の抱えている罪とは何か別のものかもしれない。劇中では設楽が万琴の首を締めようとしているように見える場面もあるため、彼の中に抑えることができない殺人衝動があり、何か別の殺人を行っているのではないか? と想像し始めたらキリがない。

早く続きが知りたくなる見事な「引き」である。

考察ミステリー+お仕事モノ&ラブストーリー

本作は『あなたの番です』と『真犯人フラグ』の制作スタッフが手掛けている。
『あなたの番です』は、あるマンションで起きた連続殺人を描いたミステリードラマで、劇中に散りばめられた多くの謎をめぐって視聴者が分析して犯人を当てようとする「考察」が大ブームとなった。 次々と怪しい人物が現れては思わせぶりな行動を取るため、群像劇としても見応えがあり、今のテレビドラマのトレンドとなっている「考察ドラマ」の基本フォーマットは本作で確立されたと言っても過言ではないだろう。
そして、同じチームによって制作された『真犯人フラグ』は、『あなたの番です』で完成した考察ドラマの手法を更にパワーアップさせたミステリーで、こちらも大きな盛り上がりを見せた。

そのため『恋は闇』も、『あなたの番です』と『真犯人フラグ』の流れを汲んだ考察要素満載のミステリードラマになるのではないかと思われたが、1話を観た印象でいうと、考察要素はあるものの、あくまでドラマの中心にあるのは万琴と設楽の危険なラブストーリーで、立場の違う二人の考え方を通してマスコミで働く者の報道に対する価値観の衝突が描かれていると感じた。

このあたりは、放送枠のカラーもあるだろう。

『恋は闇』が放送されている水曜ドラマ(日本テレビ系水曜夜10時枠)は、『ハケンの品格』や『家売るオンナ』といった働く女性が主人公のお仕事ドラマや、遊川和彦脚本の『家政婦のミタ』、坂元裕二脚本の『Mother』といった作家性の強いドラマを多数送り出してきたドラマ枠だ。

2024年の冬クールドラマ『となりのナースエイド』を最後に、新設ドラマ枠が土曜夜9時に作られた影響で廃枠となったが、土ドラ10枠が廃止された影響で今クールから復活することとなった。

フジテレビの月9やTBSの日曜劇場など、テレビドラマには人気ドラマ枠がいくつか存在し、その枠のブランドイメージとマッチした内容のドラマを放送することが視聴者の作品に対する信頼に繋がっていた。 日本テレビの「水曜ドラマ」は働く女性の仕事と恋愛の悩みを描いたドラマ枠というブランドイメージを確立しており、同じコンセプトの月9やTBSの火曜ドラマよりも真面目で落ち着いた大人向けの作品に定評があった。 それだけに廃枠となった時は大きな喪失だと残念に思ったため、今回の復活はとても嬉しい。

『恋の闇』の恋愛と仕事の見せ方は水曜ドラマならではのもので、そこに近年定着した考察ドラマの謎解き要素が加わった時に、どのような化学変化が起きるのかが、今後の注目ポイントだろう。

志尊淳と岸井ゆきのの代表作となるか?

最後に、主演の志尊淳と岸井ゆきのだが、どちらも素晴らしい演技を見せている。

『テニスの王子様』のミュージカルで俳優としてのキャリアをスタートした志尊淳は特撮ヒーロー番組『烈車戦隊トッキュウジャー』で主演を務め、若手イケメン俳優として大きく注目された。大きな転機となったのはトランスジェンダーの小川みきを演じた『女子的生活』で、その後は『半分、青い』や『らんまん』といった朝ドラに出演。前クールに放送された『日本一の最低男 ※私の家族はニセモノだった』ではシングルファーザーの保育士を演じ、演技派の若手イケメン俳優として安定したキャリアを確立している。

『恋の闇』の設楽が醸し出す暗い色気は今の志尊にしか出せないもので、彼にとっては集大成と言える役になるのではないかと期待できる。

一方、万琴を演じる岸井ゆきのは『愛がなんだ』や『ケイコ 目を澄まして』といった話題の映画での演技が高く評価されている。 彼女は女優としては遅咲きで、20代の時に脇で魅力的な芝居を見せるバイプレイヤーとしてじわじわと注目されるようになった。 平凡な女性の等身大の悩みを切実な表情で演じることを得意としている演技派で、今回の『恋の闇』も安定感のある芝居を見せており、ドラマのリアリティを底上げしている。岸井が主演でなかったら、物語のトーンは全く違うものとなっていただろう。

20代の時に脇役で素晴らしい芝居をしていた女優は、30代に入ると華やかさと安定感を兼ね備えた実力派女優となり、主演作が一気に増えることが多い。 岸井ゆきのはその入り口に現在、立っている。本作以降、ドラマの主演作が一気に増えるのではないかと楽しみにしている。


ライター:成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)、『テレビドラマクロニクル 1990→2020』(PLANETS)がある。