フランスで銀器の第一人者といったらクリストフル。メゾンの創造の2世紀を、フランスにおける装飾芸術のひとつの物語としてパリの装飾美術館で辿ることができる。
もともとは宝石商だったシャルル・クリストフルが創業したメゾンだが、彼の義兄弟である化学者アンリ・ブイエも早々に参加。アンリが開発した電気分解で金銀のメッキを行う画期的な技術(ガルヴァノプラスティ)でクリストフルは1842年に特許を獲得し、銀の世界を大きく広げていったのだ。革新を追求する創業者たちの精神は今日も守られている。
2フロアを使っての展覧会。最初の部屋ではビデオゲームのコントローラー、シューズボックス、テイクアウト用コーヒーカップといった''いま''を大きなウィンドウで展示し、チュイルリー宮殿が炎に包まれる光景が壁に広がるコーナーがメゾンの歴史へと誘うのだ。そこに展示されているのは、ナポレオン3世のオーダーによる100名の食卓のための卓上装飾である。パリ・コミューン時に消失した宮殿の灰から救い出された、1852~1855年制作のメゾン初期の傑作である。会場内、特許を重ねた技術面の革新を語るのと並行して、フランスの装飾芸術界でメゾンが果たした役割も語られている。パリで開催された万国博覧会で出品作の展示品のウィンドウはジャポニズム、アールヌーヴォー、アールデコ......一点一点が見ごたえたっぷり。
上階の会場で待つのは夢のテーブルセッティングだ。客船ノルマンディー号、列車オリエントエクスプレス、超音速旅客機コンコルド。ここで見られるのは、時代ごとの最高の移動手段においてクリストフルが旅人の食卓を輝かせた歴史である。第二帝政以前は、国王ルイ・フィリップとその家族の御用商人だった。現在はルイ・フィリップ美術館となっているかつてのシャトーで使われていた銀器を勢揃いさせた展示も圧巻だ。スープチューリンやソースレードルなどに交じってヒラメ用グリルなどユニークな銀器も!
さて、クリストフルを語る際に欠かせないのは、ジオ・ポンティやアンドレ・プットマン、カール・ラガーフェルド、ファレル・ウィリアムス、最近ではマティアス・キスなど時代を牽引するデザイナーとのコラボレーションだ。前衛的なアーティストたちとの関わりは、メゾンを1930年から1969年まで率いていたトニー・ブイエに負うもの。ちなみに第二次大戦中、銀器製造ができないためクローズしていたブティックを彼はアートギャラリーとして活用していたというエピソードがある。こうした背景がありジュエリー・コレクションもごく自然にコンテンポラリーアート界のデザイナーにクリエイションが託されているのだ。
小さなスプーンからサイズも細工も見事な銀器まで約1000点を展示し、アトリエの再構築、1本のフォークが生まれるまでの解説.....内容はとても豊か。会場構成も凝っていて、一度2フロアを巡ったあとに逆戻りしてディテールも含めてじっくり鑑賞することで展覧会を2倍楽しめる。
Christofle Une histoire brillante
『クリストフル、華麗なる物語』展
会期:開催中~4月20日
Musée des arts décoratifs
107, rue de Rivoli
75001 Paris
開)11:00~18:00(火、水、金~日)、11:00~21:00(木、特別展のみ)
休)月
料)一般15ユーロ
www.madparis.fr