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ついに開業、「帝国ホテル 京都」の全貌。歴史的建造物「弥栄会館」再生への道

  • 2026.3.11

編集部&PJフレンズのブログ

帝国ホテル京都
帝国ホテル京都

2026年3月5日、京都・祇園に「帝国ホテル 京都」が開業した。芸妓・舞妓の群舞「都をどり」の会場となる「祇園甲部(ぎおんこうぶ)歌舞練場」の敷地内にある「弥栄会館(やさかかいかん)」(登録有形文化財)の一部を保存・活用し、全55室のスモールラグジュアリーホテルとした。
帝国ホテルにとっては30年ぶり、4軒目となる新規開業となった。

施設としては、宿泊者以外にも利用できる、帝国ホテルとして初めてカウンタースタイルを導入したフランス料理「練」、薪窯料理が楽しめるオールデイダイニング「弥栄」、旧本館の意匠を受け継ぐ「オールドインペリアルバー」がある。さらに宿泊限定ではあるが、「ザ ルーフトップ」の4施設を備えている。開業前に行われたプレス向け内覧会で出合った空間と意匠に、ただ圧倒された。

歴史と文化の継承を守りながら未来へつなぐプロジェクト

 

 

祇園のランドマークとして親しまれてきた弥栄会館は、約90年前に建設された歴史的建造物である。当初は演劇や人形浄瑠璃、その後には映画館やダンスホールなど、多岐にわたる興行に使用されてきた。

 

2001(平成13)年に国の登録有形文化財、2011(平成23)年には京都市の歴史的風致形成建造物に指定されたが、建物の老朽化や耐震性の問題から、近年は使用されていなかったという。

1936(昭和11)年当時の弥栄会館。
1936(昭和11)年当時の弥栄会館

帝国ホテル 京都は、弥栄会館の姿を守りながら内部を劇場からホテルへ用途変更する大規模な保存・修復、そして新規建築を行った。

 

設計は当時、劇場建築の名手といわれた大林組の木村得三郎氏であり、施工も大林組が担当した。そして今回の帝国ホテル 京都の改修設計・施工も同社が手がけた。話を聞けば、その工事には多くの苦労と課題があったという。

残すとなっている壁面が正面となる
残すとされている壁が正面

帝国ホテル 京都は、弥栄会館を保存・改築した「本棟」と、敷地内に増築した「北棟」の2棟で構成されている。地下1階・地上5階建の弥栄会館の高さは31.5m。まずこの高さが大きな壁となった。

弥栄会館が建つ祇園町南側地区は歴史的景観保全修景地区に指定されているため、新築の場合、市の条例により高さ12m以下という制限が課せられる。現在の高さを維持するため、観光客が多く行き交う花見小路側から見える建物の南面と西面の外壁および躯体をL字形に残す増改築プランを提案。建築物として優れた意匠であることが評価され、特例が認められた。
そこで帝国ホテル 京都は高さ31.5mを維持したまま、地下2階・地上7階建てのホテルへと生まれ変わった。なお、新築した北棟は高さ制限の12m以下に抑えられている。

 

また祇園の茶屋街の中という立地から、工事計画も慎重に進められた。祇園は小径が多く、日中はもちろん夜間も多くの人が行き交う。工事音への配慮だけでなく、重機の搬入にも細心の注意が必要だったという。

 

約90年前に完成した外壁2面と躯体(くたい)の一部を保存し、銅板の屋根や飾り金物は復元し、タイルは1枚ずつ取り外して再利用する「生け捕り」を実施。風雨にさらされたタイルは脆いため、全体の約10%、およそ1万6000枚を確保し外壁に再利用している。当時の「弥栄会館」の趣を残しながら、機能と安全性を高めて、帝国ホテルとして新たな歴史を刻み始めたのだ。

計画から約4年半、総事業費は約124億円。近隣の理解と協力もあり、弥栄会館の価値と美観を残しながら、日本を代表する新たな帝国ホテルが誕生したのだ。

新素材研究所が手がけた“歴史を語る素材と意匠”

 

 

内装を手がけたのは、現代美術作家・杉本博司と建築家・榊田倫之が主宰する「新素材研究所」である。「古いものが、新しい」というコンセプトを掲げ、日本古来の自然素材や工法をインテリアデザインに生かすことを得意とする。同ホテルの内装にも、日本文化や伝統資材、弥栄会館の歴史や当時の風情をできるだけ残す、まさに唯一無二の空間が広がっている。

エントランス
弥栄会館に使われていたタイルは損傷を与えないように取り外して再利用する“生け捕り”を実施
エントランス2
エントランス部分にあるシンボルマークのある木材は、奈良県に自生していた樹齢1000年の欅の一枚板。シンボルマークは老子製作所が製造したライオンマークの鋳物のピース。ホテル名には螺鈿細工が施されている

そのこだわりは、外観はもちろん、館内の細部に至るまで見ることができる。
エントランスは、天井に弥栄会館時代の緞帳上部の壁に使われていた麻の葉文様をアレンジ。天井のエッチングガラスには、弥栄会館時代の梅の枝をデザインしたガラスが用いられ、柱には当時と同じ、イタリア北部で採石されたロッソ・ブロッカテロという大理石が施された。

新素材研究所が掲げる設計コンセプト“歴史を語る素材と意匠”の通り、館内には弥栄会館に使われていたものも含め、日本各地の石材や木材が随所に使用されている。

その一つが沖永良部島で採石される田皆石(たみないし)。珊瑚などの海の堆積物(たいせきぶつ)でできている大理石のため、海の生き物の化石を見つけることができる。当時の弥栄会館の貴賓室で使用されていた石材である。
さらに館内には、帝国ホテルらしさを表現するため、建築家フランク・ロイド・ライトが手がけた帝国ホテル2代目に本館(ライト館)の面影が多く見られるが、その一つが大谷石。他にも、日本で広く生産されていた大理石などがさまざまな空間で使用されている。

 

また館内には国産の銘木も多く見られる。桜、欅(けやき)、栗、杉などの木材のほか、地中に埋まり腐らず残った「埋もれ木」である神代杉や神代欅なども使用されており、ここは日本が育んできた希少な素材の宝庫であり、それらが持つ圧倒的な迫力と自然の神秘に私たちは多くのエネルギーをもらえるようにも感じる。

宿泊者ラウンジ
宿泊者ラウンジ。本館部分は十分な高さが取れないため、「空間の水平方向の広がり」を意識し、駆け込み天井として窓の外の庇から坪庭に向かうように計算されて内外の空間をつないでいる
プール
宿泊者限定のプール。弥栄会館時代の外壁に使用された北木石(きたぎいし)を使用

帝国ホテル初の畳の客室。歌舞練場と茶屋街の風景はここだけの贅沢

 

 

客室は全55室。そのうち8室は、帝国ホテルとして初となる畳を使用した空間を持つ。これは花見小路に並ぶ茶屋の景観と調和する意匠として採用されたのだという。

そして何よりも客室の窓から見える、歌舞練場や茶屋街、さらには東山の風景の美しさは何よりもの贅沢だ。

特筆すべきは「601インペリアルスイート」〈宿泊料金3,000,000円〜(税サ込・宿泊税別)〉。帝国ホテル 京都の最高価格帯の客室である。128㎡の客室に加え、以前は階段室だった65㎡のガゼボがあり、広々としたバルコニーは第二のリビングのような空間となっている。

601 インペリアルスイート
601 インペリアルスイートのバルコニーからの景色 

個人的に心惹かれたのは、窓から歌舞練場の建物と看板が正面に望む「417 ヘリテージジュニアスイート」〈宿泊料金255,600円〜(税サ込・宿泊税別)〉である。この風景はこの部屋でしか体験できない、まさに特別なものと言えるだろう。

帝国ホテル 京都を体験できる4つの施設

 

 

帝国ホテル 京都には、宿泊しなくても利用できる施設が3つある。

一つは、帝国ホテルとして初めての試みとなるカウンター形式のフレンチレストラン「練」。料理は目の前で仕上げられ、オーブンから取り出された食材の香りや音を間近で楽しめる、ライブ感のあるレストランである。食材の背景にある物語も含めて楽しめる空間となっている。

練
フレンチレストラン「練」。カウンター席の他個室もある。営業時間17:30~22:30(ラストオーダー20:30)定休日は日曜日

もう一つがオールデイダイニングの「弥栄」。このレストランの大きな特徴は薪窯オーブンだ。薪で火を起こして焼き上げることで炭の香りが食材に移り、深い味わいが生まれる。

薪窯で仕上げる「弥栄バーガー」〈4,100円(税サ込)〉は、九条ネギや特製ソースを組み合わせたハンバーガーで、京都らしい食材がアクセントになっている。また「弥栄カレー」は、東京と大阪の帝国ホテルで使われてきたカレーのルーをブレンドし、京都の味として仕上げたもの。薪窯で焼いた肉を加えることで、炭の香りがカレーに深みを与えている。〈4,700円(税サ込)〉のほか、帝国ホテル伝統の「アメリカン クラブハウス サンドイッチ」や「インペリアルパンケーキ」なども楽しめる。

弥栄バーガー
弥栄バーガー
弥栄カレー
弥栄カレー

営業時間は夕方17時から深夜まで。京都の夜をゆっくり楽しめる大人の空間が「オールドインペリアルバー」である。帝国ホテルで100年以上愛されているオリジナルカクテル「マウント フジ」をベースに、抹茶や水尾の柚子を使った「マウント 比叡」が提供されている。

オールドインペリアルバー
オールドインペリアルバー 営業時間17:00~24:00(ラストオーダー23:30)
中央が「マウント 比叡」
中央が「マウント 比叡」

そこから階段を上がると、宿泊者限定の「ザ ルーフトップ」がある。冬季や悪天候時は閉鎖されるが、清水寺の屋根や平安神宮、比叡山まで見渡せる絶景が広がる。

宿泊者限定のザ ルーフトップ
宿泊者限定のザ ルーフトップ

近年ラグジュアリーホテルが次々と誕生しているが、このホテルは単なるラグジュアリーホテルという言葉だけでは語りきれない特別な存在である。ここにしかない資材やアートに満ちているだけでなく、日本の歴史が育んできた時間の流れの中に身を置いているような感覚を覚える。

 

 

決して気軽に宿泊できる価格帯ではない。しかし、日本人にこそ一度見てほしい空間であると、そう強く思わせるホテルである。

 

 

Text by Yuko Taniguchi

帝国ホテル 京都

京都市東山区祇園町南側570−289

谷口優子
谷口優子

谷口優子 Yuko Taniguchi

Premium Japan編集部スタッフ

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