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ファンタジー作品の「贈り物」にお薦め【アニメ化で話題】『とんがり帽子のアトリエ』子どもの心に寄り添い、大人の「思考停止」と向き合う物語 「魔法は技術」の理由とは

  • 2026.10.31
cocreco©白浜鴎/講談社

世界中で愛読され、2026年4月からアニメ放送が開始された『とんがり帽子のアトリエ』。

緻密な魔法の世界を描く漫画家・白浜鴎(しらはまかもめ)さんに、自身の学生時代の経験や、作品の根底にある「才能」と「教育」への哲学をお伺いしました。

子育てや、誰かを導く立場にある大人へのヒントが詰まったインタビューを【全3回】でお届けします。

【とんがり帽子のアトリエ】

累計発行部数750万部突破、アイズナー賞をはじめ数々の賞を受賞、世界各国で高く評価されているファンタジー作品。魔法への憧れを抱く少女・ココは、魔法使い・キーフリーと出会い、大きな秘密を知る。魔法使いたちが隠した「絶対の秘密」とは──。

アニメ・小説で広がる物語への入り口

cocreco▲『とんがり帽子のアトリエ』が並ぶ、白浜さんのデスク。ここから、世界を魅了する魔法の物語が紡ぎ出されていく。

──2026年4月よりアニメ放送開始、青い鳥文庫でのノベライズも刊行されました。ご自身の作品が元のマンガとは別の形で広がっていくことについて、どのように感じていますか?

白浜鴎さん(以下、白浜):ファンタジー作品は、正直なところ読者層がやや限定的なジャンルという面もあるので 、私が『とんがり帽子のアトリエ』を書き始めたときは、「好きな人がついてきてくれたらいいな」というくらいの気持ちだったんです。それが今、予想外に広がっていることには嬉しい驚きがありますね。

アニメやマンガだったり、小説だったりというのは、子どもが触れる機会が多いメディアです。そうやっていろいろなところから入ってきてもらえるきっかけが増えるのは、とてもありがたい試みだなと思っています。私自身、子ども時代にはマンガより、小説が身近な子どもだったので。

cocreco▲4月より放送・全世界一斉配信でアニメが開始された『とんがり帽子のアトリエ』©白浜鴎/講談社/「とんがり帽子のアトリエ」製作委員会

──白浜さんも、子どものころに物語に夢中になった経験があったのでしょうか。

白浜:私は街の図書館や、学校の図書室で借りた本を読むことが多かったんです。当時、マンガは親に買ってもらわないとなかなか読めなかったので、私には図書館で借りることができる小説のほうが身近でした。

私と似たようなお子さんは今もいらっしゃると思いますし、メディアが変わることで「これまで届かなかった子」に物語が届くかもしれない、というのは本当に嬉しいことです。

cocreco▲小説化もさまざまなかたちで広がりを見せる。左:原作ストーリーをノベライズした『小説 とんがり帽子のアトリエ(1)』(青い鳥文庫)、右:キーフリーとオルーギオの前日譚も収録したスピンオフ短編集『小説 とんがり帽子のアトリエ スペシャルストーリーズ』(KCデラックス)

「背中で教える」だけが正解じゃない 師弟関係のモデル

──作中のキーフリーとオルーギオのように、導く側のキャラクターも魅力的です。このふたりは白浜さんの学生時代の経験がヒントになっていると伺いました。

白浜:美大受験のための予備校の先生がモデルなんです。優しげな先生と、厳しい雰囲気の先生がいて、「ニコイチ」で講評してくれるんです。

褒める役と、厳しく指導する役が分かれていて、そのバランスがすごく良かったなと思って。 どちらか一方に偏ると、やっぱりちょっとしんどいですよね。

cocreco▲子どもたちを導く魔法使いキーフリーとオルーギオ。(『とんがり帽子のアトリエ』公式Webサイトより)

白浜:日本のマンガだと、師匠が「背中で教える」みたいな物語も多くて、それはそれで主人公が自分で気づいて成長するときに大きなカタルシスがあるのですが、「見て学べ」だけだと指導としては一辺倒すぎるかも、と。

「優しく丁寧に教えてくれるけれど、ちゃんと深い学びやプロセスがある」、そんな先生を描きたいなと思った時に、でも一方で厳しく言ってくれる人も必要だな、と感じたんです。そのときに自分の学生時代を思い出して「あんな先生たちがいたな」とキャラクターに落とし込みました。

──親世代が読んでも、教え方や向き合い方の参考になります。「一つの正解」に縛られない教育の解像度が非常に高いと感じました。

白浜:正解のない分野なので、難しいですね。でも、私が「こういうふうに教えてもらったら嬉しいな」という理想をキャラクターに担わせているところはあります。それがいろいろなケースの一つとして読者に伝わっているなら、嬉しいですね。

──作中では、魔法を「瞬間的に手に入る万能の力」ではなく、「努力や鍛錬が必要なもの」として描いています。「時短」や「効率」が重視されがちな現代に、あえて「時間をかけて練習すること」「深く考えることで気がつくこと」に重きを置くような物語を描く理由は、どんなところにあるのでしょうか。

学べばできるようになる、それこそが「人間の特技」

cocreco▲白浜さんのアトリエの一角に佇む、魔法使いの「とんがり帽子」。現実と作品の世界が溶け合うような、神秘的な空間。

白浜:私自身は「生まれつきの才能によって何か特別なことができる」といわれると、昔から納得できなくて。 例えば多くの人が「習えば」車の運転もできるし、「習えば」スポーツもダンスもできる、「習えば」字や絵を書けるようになりますよね。

そう見ていくと、実は世の中のたいていのことが、学びさえすれば技術を獲得できたり、再現することが可能なんだと思います。実はそれこそが、ものすごい「人間の特技」なのではないかと思っていて。

物語の世界では、トップクラスの頂点に立つことが才能の顕現というふうに描かれがちですが、私は「みんなができるようになる」ことを、才能とは別に重視してみたら素敵なんじゃないかと感じました。

だから、みんなが特別な力と思っているものを、「特別じゃない力(技術)」として書いたらどうなるのか、試してみたくなったんです。それがこの物語のきっかけで、作品を通してのテーマでもあります。

cocreco▲魔法使いに憧れる主人公ココと、キーフリーの弟子のアガット。(『とんがり帽子のアトリエ』公式Webサイトより)

──どのキャラクターにも優しい眼差しが向けられていることを感じますが、子どもが学ぶ様を、子ども扱いせずに描いている点も印象的です。

白浜:子どもに向けても描いてはいますが、だからといって、大人のキャラクター同士の会話を易しくしたりはしません。子どもは分からないなりに理解しようとするし、私自身が背伸びして本を読みたい子どもだったので、そのような形をとっています。

ただ、ココたちの視点からはまだ世界はこう見えているはず……という「その子の視点からはまだ見えないもの」は描かないようにして、子どもたちの心の動きに寄り添いたいと思っています。

大人の「思考停止」と向き合うということ

──「大人は子どもを守るべき存在」というメッセージも強く感じます。一方で、作中の大人たちも、葛藤を重ね、成長していきますよね。

白浜:子どもの「知りたい」という気持ちをなるべく遮りたくない、というのは大人の本音だと思います。でも、『とんがり帽子のアトリエ』物語の中では、世界の制度や決まり事によって、大人が“線引き”をしなければならない部分が出てきます。

ただ、決まりができてから長い時間が経つ中で、形骸化し、理不尽なルールになってしまっている部分もあるはず。その“歪み”が作中では子どもたちに現れてきてしまっています。

今後は大人たち、魔法つかいたちがその責任を自覚し、向き合わなければならないフェーズがやってきます。 子どもと真面目に向き合っている大人の方なら、それを重いこととして捉えていただけるのかなと思って描いています。

──子育てや教育に携わっている読者へメッセージをいただけますか。

白浜:アガットのように自分を責める子もいれば、ユイニィのように他人の目が気になる子もいます。でも、見方を変えれば、意外と世界は自分に都合のいいように捉えられるし、学ぶことでしんどいことが減るかもしれない。

少しでも悩んでいる人の気が楽になるような、そんな世界の見方を、これからも物語を通して伝えていければと思っています。

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第1回では白浜鴎さんが考える「学び」や「才能」について伺いました。続く【第2回】では、白浜さんの原点となった児童文学の体験や、ファンタジー作品について伺います。

取材・文/小川聖子

撮影/安田光優

白浜鴎(しらはまかもめ)PROFILE

東京藝術大学デザイン科を卒業後、フリーのイラストレーター、漫画家として活動。『マーベル・コミック』や『DCコミックス』、『スター・ウォーズ』等のアメリカンコミックスの表紙も手がけている。他作に『エニデヴィ』(全3巻/KADOKAWA)など。

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