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「そろそろですね」を送る日を、私は1冊のノートで決めていました

  • 2026.10.31
ハウコレ

担当している、あるお客さまの髪は、季節によって伸びる速さが少しずつ違いました。日にちを数え始めたきっかけは、初めて来店した日に聞いた、小さな謝罪の言葉です。

初めての日に聞いた言葉

そのお客さまが初めてサロンに来たのは、1年半ほど前のことです。伸びた前髪をピンで留めたまま、椅子に座るなり「伸ばしっぱなしで、すみません」と頭を下げました。

髪が伸びるのは、誰のせいでもありません。それなのに、鏡越しに見えた申し訳なさそうな顔が、カットを終えるまで頭から離れませんでした。

その日から、記録用のノートにお客さまのページを作り、切った長さと来店した日を書き込むようになりました。

数字が教えてくれたこと

記録が増えるにつれて、分かってきたことがあります。お客さまの髪は、1か月に1cmほど伸びます。暑い時期は少し早く、短めに切った回は次までの日数が長くなりました。そして前髪がまゆを1cmほど越えると、つむじの癖で毛先が割れ始めるのです。

1か月に1cmの変化は、本人も周りの人も、まず気づきません。けれどお客さまは、割れた前髪をピンで押さえて、限界まで我慢してから来る人なのだと思いました。

ページが半分ほど埋まったころからは、割れ始める日の1週間ほど前を数えました。その日に「そろそろですね。ご都合のいい日があれば、教えてください」と送るようにしたのです。44日の回も、51日の回も、38日の回も、同じ数え方でした。4回目のメッセージに、初めてお客さまから質問が返ってきました。

「いつもすごいタイミングですよね。どうして分かるんですか?」

短い返事にした理由

ノートの数字を全部書き出せば、答えにはなります。けれど打ってみると、ただの計算の説明にしか見えず、送る手前で消しました。

本当に伝えたかったのは、数字よりも、あの日の「すみません」のほうでした。もう謝らなくていいように先に声をかけていたのだと、メッセージではなく顔を見て話したいと思ったのです。そう決めて、短く返しました。

「次にいらしたとき、お話ししますね」

ほどなくして、お客さまから「では、この日でお願いします」と予約の希望が届きました。選ばれていたのは、空いていた中で一番近い日。「お待ちしています」と返して、ノートの次の行にその日付を書き入れました。

そして...

予約の日、お客さまの前髪はまゆを少し越えたところで、まだ割れてはいませんでした。ノートを見せて話すと、お客さまは数字の並びを指でなぞりながら、しばらくページを眺めていました。「職場の人、誰も気づかないんですよ」と言って、少し笑っていました。その日、椅子に座ったお客さまの口から「すみません」は出ませんでした。

カットを終えたあと、いつもどおりお客さまのページに今日の長さを書き込みました。次の連絡をいつ送るかは、まだ数えている途中です。

(30代女性・美容師)

本記事は、読者アンケートに寄せられた実体験をもとにした本人視点の記事を参考に、相手側の心情を想定して制作しています。実際の相手本人への取材ではなく、編集部による解釈を含みます。

(ハウコレ編集部)

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