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26年前、『アニー』のオーディションに“3度落選”…【人気女優】が掴んだミュージカルの道

  • 2026.11.6
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2012年10月、亀田製菓の記者発表に登場した多部未華子(C)SANKEI

演じる役ごとにまったく違う鮮烈な手触りを残していく俳優・多部未華子。

そんな彼女の足跡を遡ると、ひとつの場面に行き当たる。15年前の2011年11月のことだ。

PS3用ゲーム『二ノ国 白き聖灰の女王』の発売前夜、Ustreamで配信された特別番組「バーチャル 二ノ国 完成披露会」。ゲームの世界から届けているように見せる番組の画面に、彼女の姿があった。スタジオジブリがアニメーションを手がけた壮大な世界を旅する主人公、少年オリバーの声を担当していたのが多部だった。

画面のなかで船やドラゴンでの移動方法を紹介していた彼女は、当時22歳。この頃の多部は、ロリータ服をまとった風変わりな刑事からアニメーションの少年まで、変幻自在に役の幅を広げている真っ只中に見えた。

だが、華々しくキャリアを重ねていくその裏側で、子どもの頃に憧れた歌と踊りの舞台からだけは、ずっと距離を置き続けていた。

「心が透き通った少年」への緊張

少年オリバーは、前年冬のニンテンドーDS版『二ノ国 漆黒の魔導士』から引き続いて託された役だった。

DS版の完成披露会は、東京・JCBホールで開かれた。アニメーションの声優初挑戦となった多部は、長澤まさみや大泉洋ら豪華な共演陣とともに、抽選で選ばれた1,000人の観客の前に並んだ。

オリバー役について、多部は壇上で「限りなく心が透き通った少年ということですごく緊張しました」と正直に打ち明けた。

続くPS3版では物語が一新され、事故で母を亡くし、母を救えるかもしれないと聞いて異世界へ旅立つ少年を、多部は再び声で演じた。

ロリータ刑事から光源氏の妻へ

同じ2011年の年明け、多部は民放の連続ドラマ初主演作となった『デカワンコ』で、犬並みの嗅覚を持つロリータ刑事・花森一子を演じた。この役で、第68回ザテレビジョンドラマアカデミー賞の主演女優賞に輝いている。さらに年末には、映画『源氏物語 千年の謎』で光源氏の妻・葵を演じた。

コミカルな刑事、ゲームの少年、平安絵巻の貴婦人と、わずか1年のあいだに、これほど振れ幅の大きい役が並んでいた。

しかし、当の本人の胸中には、どうしても踏み出せない聖域があった。

憧れの『アニー』と3度の挫折

そもそも、多部がこの世界に飛び込んだ原点は、俳優業への憧れではなかった。小学5年生のとき、母に連れられて観に行ったミュージカル『アニー』である。

舞台の上で客席を楽しませていたのは、自分と同い年の子どもたちだった。ただ学校に通うだけの毎日を、変えたくなった。その衝撃が、少女の背中を突き動かした。ジャズダンスを習い始め、中学2年生のころまで続けた。

すべては、あの舞台に立つため。だが、『アニー』のオーディションには3度落ちた。

後年、当時を振り返った多部は、女優を目指していたわけではなく、あの舞台に出たかったのだと明かし、落ちたのは実力不足だったと飾らずに認めている。

大人になり、ミュージカルの話が来ることがあっても、最初から、踊れないし歌えないと思っていた。2018年の取材会で「ずうっとずうっと避けて来たんです」と語ったように、大好きだからこそ、かえって手を伸ばせなかった。

声優という未経験のフィールドには緊張を口にしながら飛び込んでみせた人が、いちばん愛した歌と踊りの前でだけは、長いあいだ立ち止まり続けていた。

20代最後の賭け

その頑なな心の扉が開いたのは、20代の終わりが近づいた頃だった。

名作ミュージカル『TOP HAT』のヒロイン・デイル役のオファー。本格的なミュージカルへの初挑戦を引き受けた理由を、彼女は、挑戦もしないで断ったまま20代を終えるのは嫌だったからだと明かしている。

決断してからの行動は徹底していた。ほかの仕事をほぼ空け、課題として出された歌とダンスの特訓におよそ2か月間没頭した。2018年2月、多部はロンドンへと渡り、本場の演出家によるオーディションに臨んで役を掴み取った。

遠回りを経てあの日の舞台へ

2018年11月、東京・東急シアターオーブで『TOP HAT』の幕が上がった。

開幕前の囲み取材で、多部は「お客様にしっかりとお披露目できるか未知の世界」と、やはり緊張気味に語っていた。けれど、共演した坂本昌行は「ほんとにミュージカル初めてなの?」と思うほどの出来だとたたえ、屋良朝幸も、タップダンスは普通1、2か月でできるようにはならないと、その踊りを絶賛した。

3度落ちた『アニー』の舞台には届かなかった。けれど、小学5年生のあの日には客席にいた多部が、長い遠回りを経て、観客を楽しませる側へ自分の足で辿り着いたのだ。

2010年、初めてのアニメーションの声の仕事に緊張したと打ち明け、2018年のミュージカルの初日にも、未知の世界だと不安を口にした。背伸びをせず、まず恐れや弱さを言葉にしてから、それでも前へ一歩踏み出す。

15年前に少年の声を担っていたあの日から、多部未華子の誠実な歩みは、少しも変わっていないように思う。


※記事は執筆時点の情報です

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