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コーヒーで旅する日本/関西編|生来の職人気質で日々研鑽。お客の時間に寄り添う一杯を、磨き続ける勉強家。「BEARCOFFEE」

  • 2026.10.20

全国的に盛り上がりを見せるコーヒーシーン。飲食店という枠を超え、さまざまなライフスタイルやカルチャーと溶け合っている。なかでも、エリアごとに独自の喫茶文化が根付く関西は、個性的なロースターやバリスタが新たなコーヒーカルチャーを生み出している。そんな関西で注目のショップを紹介する当連載。店主や店長たちが気になる店へと数珠つなぎで回を重ねていく。

「コンスタントに安定した味わいを提供していきたい」という宇賀さん
「コンスタントに安定した味わいを提供していきたい」という宇賀さん

関西編の第114回は、大阪府熊取町の「BEARCOFFEE」。8年前の開店以来、大阪・泉南エリアで数少ないロースターとして、支持を得る一軒だ。店主の宇賀さんは、元は音響の仕事から転身したユニークな経歴の持ち主。コーヒーの世界でも、生来の職人気質と尽きぬ探求心を発揮して、今では焙煎競技会でもたびたび入賞するほどに。とはいえ、常に目指すのは、自分の時間を大切に過ごすお客に寄り添う一杯。開店後も地道な研鑽を欠かさない宇賀さんの、ロースターとしての原動力とは。

店主の宇賀さん
店主の宇賀さん

Profile|宇賀一仁(うが・かずひと)

1981年(昭和56年)、大阪府生まれ。中学時代からの音楽好きが高じて音響スタッフとして音楽に携わった後、料理人、インテリアデザイナーへと転身。多彩な仕事の経験を生かし、元々好きだったコーヒーを仕事にするべく、独学で抽出や焙煎を学び、2018年に「BEARCOFFEE」をオープン。開店後もコーヒーに関する資格取得や、焙煎の競技会出場など研鑽を重ね、2024年に韓国・ベトナム共催のロースティング・ウィナーカップ入賞。2025年に、セラード珈琲主催のトーハ・ド・ジャポン日本大会で準優勝し、2027年にブラジルで行われる世界大会に出場予定。

生来の職人気質と多彩な仕事の経験が融合

店の向かいには図書館があり、店内で読書を楽しむお客も多い
店の向かいには図書館があり、店内で読書を楽しむお客も多い

大阪府南部、関西国際空港の対岸にあたる熊取町で、8年前に開店した「BEARCOFFEE」。てっきり町の名が屋号の由来と思っていたが、「よく聞かれるんですけど、実はあとから気づきました(笑)」という店主の宇賀さん。その心は、熊は単独行動のイメージが強いことから、お客一人ひとりが思い思いに時間を過ごせるように、との含意が込められていた。

とはいえ、開店までの道のりは紆余曲折。学生時代はバンドを組み、長じて音楽業界の仕事へ。ミュージシャンという夢はかなわなかったが、関西各地のホールやライブハウスなどの音響担当として、音楽の現場に携わった。元来の気質もあってか、その後は料理人を経て、インテリア業界へ進み内装デザインを学ぶなど、一貫して職人畑を歩んできた。「これまで音響、料理、内装と好きなことに携わってきて、元々好きだったコーヒーを掛け合わせて、行きついたのがコーヒーショップ。経験のパーツを合わせてできたのが、この店なんです」と振り返る。

天井が高く、開放的な空間が心地よい
天井が高く、開放的な空間が心地よい

ただ、コーヒーの提供に関しては、専門的に学んだことはなかったという宇賀さん。基本のイロハを体得すべく通い出した、焙煎卸会社のスクールで、コーヒーに対する印象はガラリと変わった。「講義で最初に試飲したパナマ・エスメラルダ・ゲイシャに衝撃を受けました。それまでブラックでは飲めなかったのが、勉強のためと試しに飲んでみたらびっくり。これなら飲める! と自らの嗜好が覆った感覚でした。それから7、8年くらい経ってますが、いまだそれを越える味はないですね」と、今も記憶に鮮やかだ。

豆のセレクトは、できるだけ風味の幅ができるようこまめに入れ替える
豆のセレクトは、できるだけ風味の幅ができるようこまめに入れ替える

以来、抽出器具や焙煎機のメーカーが開くセミナーにも参加し、小型焙煎機・ディスカバリーを自宅に購入し、本格的に焙煎も始めた。「焙煎は初めてですが、意外にいけるなと。飲めるレベルにはなってた」という宇賀さんが、味の方向性を模索したのは開店直前から。実際に飲むお客の姿を想像して、イメージを膨らませた。

元音響マンらしく、レコーディングスタジオ用のモニタースピーカーを設置
元音響マンらしく、レコーディングスタジオ用のモニタースピーカーを設置

自分の時間を大切にする人に寄り添う一杯を

店内に焙煎機2台を設置。小型の機体はサンプルローストに使用
店内に焙煎機2台を設置。小型の機体はサンプルローストに使用

「この店では、目標を持って頑張っている人を応援したいという想いがあって。どういう人かと考えたら、自分の時間を大切にしてる人。ならば、その時に出すコーヒーは、何かに集中しているのを邪魔しない味でありたい。水やお茶のように、自然に口にできるものを作ろうと」。それゆえ、焙煎度も中煎りをメインに据えて、極端な酸味、苦味が突出しない味作りに腐心している。

焙煎した豆は、風味の経時変化もチェックする
焙煎した豆は、風味の経時変化もチェックする

豆のラインナップは、ブレンド、シングルオリジンが各5、6種と幅広い。中でもブレンドは、2種の豆の組み合わせを基本とするのが宇賀さんのスタイルだ。「混ぜすぎると、似たような味になり、かえって特徴がわからなくなるから、どんな豆を使っているかわかるように、配合を絞っています」と宇賀さん。例えば、看板の熊取ブレンドは、飲みやすさを重視したブラジルとインドネシア・マンデリンを定番に。自然豊かな土地柄を体現する、穏やかで深いコクが印象的だ。一方、四季折々の限定ブレンドでは、季節感を意識した風味も提案。夏ならば、果汁で風味付けしたコロンビアのインフューズドでトロピカルフルーツの香りを。秋は、新興産地・タイの中煎りと中深煎りの焙煎度違いを合わせ、ナッツやキャラメル系の甘味と香ばしさを引き出す。個性的な風味が際立つのも、豆の配合を絞っているからこそだ。

ドリップコーヒー580円~。写真はコロンビア・ピンクブルボン。柔らかい酸味のあとにふっくらと甘みが余韻に広がる
ドリップコーヒー580円~。写真はコロンビア・ピンクブルボン。柔らかい酸味のあとにふっくらと甘みが余韻に広がる

また、多彩な味わいに触れてもらえるよう、コーヒーの提供時には、オーダーとは異なる銘柄を試飲用として添える一工夫も。「味比べをする機会を作り、嗜好の幅を広げることで、次回の注文を変えたり、豆を買ったりすることにつながる。最終的に飲み比べ3種セットなども楽しんでもらえたら」と、日々の地道な提案を続けている。

いまや泉南エリアでは希少なコーヒー専門店として支持を得ているが、開店から1年でコロナ禍が広がったこともあり、決して順風満帆というわけではなかった。それでも、「あの時期は、開店から閉店まで仕事場として使う人もいた。当時はテイクアウトもしていて、毎日来てくれる人がいたから店を開けていた。その人は、今でも一番の常連さん。コロナ禍を越えてようやく本当にスタートした感じがします」と振り返る。

自家製のカタラーナ500円は、一番人気のスイーツ。凍った状態でブリュレすることで、パリッと表面と滑らかな中の対比、温冷の温度差が際立つ
自家製のカタラーナ500円は、一番人気のスイーツ。凍った状態でブリュレすることで、パリッと表面と滑らかな中の対比、温冷の温度差が際立つ

不断の研鑽を重ねて得たロースターの醍醐味

店内には、コーヒーに関する数々の資格の認定証が並ぶ
店内には、コーヒーに関する数々の資格の認定証が並ぶ

思わぬ想定外はありつつ、この間も自身の研鑽を欠かさなかった宇賀さん。2019年に国際的なコーヒー鑑定資格・Qグレーダーを取得したのを始め、JCQAコーヒーインストラクター、SCAJアドバンスドマイスター、さらにはアメリカのSCAコーヒースキルプログラムを修了するなど、保有資格は枚挙にいとまがない。「Qグレーダーを取ったのは、年々、家庭でコーヒーを楽しみ、抽出や焙煎をする人が増えたから、プロとして差別化を図る意図もありました」と宇賀さん。さらに、和歌山でのイベント参加を機に、当地の新進ロースターの勉強会にも加わり、多くの活動を共にしている。「近隣に同業者が少ないので、和歌山とのつながりは大きい。縁ができてよかった。競合ではありますが、みんな協力的な姿勢で助け合えて、一人で考えるより刺激になる」という。

カフェラテに砂糖をふって炙った、ブリュレチーノ720円。キャラメルのような香ばしい甘さが印象的
カフェラテに砂糖をふって炙った、ブリュレチーノ720円。キャラメルのような香ばしい甘さが印象的

また、近年は並行して焙煎の競技会にも積極的に出場。2024年の韓国・ベトナム共催のロースティング・ウィナーカップで早くも入賞。翌年は、ブラジル専門の生豆商社・セラード珈琲主催のトーハ・ド・ジャポンの国内大会で準優勝。この夏、日本代表としてブラジルで行われる決勝大会に出場するため、準備を進めている。

「大会は一つの豆にフォーカスして向き合うことがプラスになる。優勝したらもちろんうれしいが、順位に関わらず、いろんな大会のどんなジャッジにも評価されることに重きを置いてます。コンスタントに評価してもらえる安定感、どんな人にもおいしいと言われるコーヒーを、偶然ではなく必然で出せたら。ロースターとしては、よりおいしくするのは大前提で、大会や資格取得は続けていきたい」。常に勉強を続ける姿勢から、仲間内では敬意をこめて“宇賀先生”と呼ぶ人もいるほどだ。

「先々は、小さくていいからコーヒースタンドの姉妹店も持ちたいですね」と宇賀さん
「先々は、小さくていいからコーヒースタンドの姉妹店も持ちたいですね」と宇賀さん

開店までにさまざまな仕事を経て今があるが、その経験は決して無関係ではなかった。「今にして思えば、自分は最初、音楽というよりクリエイティブな仕事がしたかったんだと気づいた。焙煎も音楽と似てるとこがあるなと。毎回、同じレベルの再現を目指すけど、実際は難しい。でも逆に多少のブレはあっていいのではと思う。コンサートの音響だって音の揺れはある。理論はいっぱいあるけど、突き詰めると、人の手で作るものだからこそおもしろい」

2024年、韓国・ベトナム共催のロースティング・ウィナーカップ入賞時のメダル
2024年、韓国・ベトナム共催のロースティング・ウィナーカップ入賞時のメダル

やることが変わっても、根っからのクラフトマンシップはブレることはなく、むしろロースターとしての揺るぎない土台になっている。だからこそ、自身を磨く手を止めることはない。「一生勉強、それを日々に反映する。クリエイティブといっても、地味な積み上げがあってこそ閃きもある。大会で日本一を目指すよりは、常に磨き続けてお客さんに還元することを第一に続けていきたいですね」

宇賀さんレコメンドのコーヒーショップは「ROYGBIV Coffee」

次回、紹介するのは、大阪市の「ROYGBIV Coffee」。

「SCAJの焙煎チームチャレンジで、関西チームとして一緒に出場した店主の笹沼さんが開店。大阪の人気自家焙煎コーヒー店、ル・プルミエ カフェで腕を磨いた、実力派女性ロースターです。クリーンな風味のコーヒーは、コーヒーが苦手な人でも飲みやすく、開店3年目ながら早くも人気の一軒です」(宇賀さん)

【「BEARCOFFEE」のコーヒーデータ】

●焙煎機/フジローヤル 5キロ(半熱風式)、ディスカバリー

●抽出/ハンドドリップ(ハリオ)、エスプレッソマシン(ロケット)

●焙煎度合い/中浅~中深煎り

●テイクアウト/ あり(580円~)

●豆の販売/ブレンド6種、シングルオリジン7~8種、100グラム950円~

取材・文=田中慶一

撮影=直江泰治

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