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洗面台の下から体重計を出した俺が、彼女に見せたかった数字

  • 2026.10.14
ハウコレ

3年間、会うたびに同じ言葉をかけていたのには理由がありました。それを彼女に話せたのは、やめてほしいと言われたあとです。カフェでケーキを頼まなくなったことにも、気づいてはいたのに。

洗面台の下の体重計は、この部屋に越してきた頃に買ったまま、ほとんど使っていませんでした。電池を替えたのも、たぶん一度きりです。彼女の前でそれを引っ張り出す日が来るとは、思ってもいませんでした。

祖母の家の玄関で聞いた言葉

子どもの頃、祖母の家へ行くと、玄関で必ず同じことを聞かれました。

「太った?」

祖母にとって、それは「ちゃんと食べて元気にしているか」を確かめる言葉でした。少しふっくらした孫を見ると、うれしそうに台所へ戻っていく。その背中が好きでした。

彼女と付き合い始めた頃、彼女の職場は繁忙期のさなかでした。昼はデスクでおにぎりを1つ食べるだけで、会うと疲れた顔をしていることがほとんど。「食べる時間がもったいない」と笑う彼女に、何と言えばいいのか分かりませんでした。

ほっとしたときの合図

繁忙期が明けて彼女の顔色が戻ってきたとき、口をついて出たのが祖母と同じ言葉でした。

「太った?」

俺にとっては、ほっとしたときの合図のようなものでした。それから会うたびに、元気そうな彼女を見ると同じことを聞くようになっていました。

しばらくして、カフェで彼女がケーキのページを開かなくなったことには気づいていました。遠慮しているのか、忙しい頃の癖が戻ったのか。どちらにしても放っておけず、自分のチーズケーキを半分、彼女のほうへ押しました。

「食べなよ」

自分の言葉のせいかもしれないとは、考えもしませんでした。

言い訳より先に浮かんだもの

その日も、玄関でコートを脱ぐ彼女を見て、いつものように聞きました。

「太った?」

ハンガーを持ったまま、彼女がこちらへ向き直りました。

「毎回それ言うの、やめてほしい」

祖母の話から始めればいいのか、繁忙期の話をすればいいのか。どこから説明しても言い訳に聞こえる気がして、口を開けないまま洗面所へ向かいました。

頭に浮かんでいたのは、この3年で2人で入った店の数です。仕事帰りの定食屋も、彼女が行きたがったパン屋も、たいてい俺のほうが多く食べていました。増えた体重は、2人でちゃんと食べてきた記録のつもりでした。

洗面台の下から体重計を出して部屋へ戻り、床に置いて乗りました。

そして...

表示された数字を指さして、彼女に言いました。

「俺、3年で6キロ増えた」

「それ、私に関係ある?」

返ってきたのは、硬い声でした。体重計から降りて「幸せ太りなんだよ」と付け足しても、彼女の表情は変わりませんでした。

ハンガーからコートを外して、いつもより早く帰っていく彼女を玄関で見送りました。

出しっぱなしの体重計の前で、スマホを手に取りました。数字を見せても、伝わるはずがなかったのです。

祖母が玄関で同じことを聞いてくれたこと。繁忙期が明けた彼女を見て、ほっとしたこと。その安心を確かめたくて、同じ言葉を繰り返していたこと。長くなった文面の最後に「嫌な思いをさせてたのに、3年間一度も聞かなかった。ごめん」と打って、送信しました。

しばらくして届いた返信は、「話してくれてありがとう。でも、まだうまく飲み込めない」でした。

体重計は、洗面台の下に戻せないままでした。

(20代男性・会社員)

本記事は、読者アンケートに寄せられた実体験をもとにした本人視点の記事を参考に、相手側の心情を想定して制作しています。実際の相手本人への取材ではなく、編集部による解釈を含みます。

(ハウコレ編集部)

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